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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
死闘編
33/45

DNAを弄ばれた少女

少女に与えられたのは、大きな力と小さな明日

 ドーム球場のマウンド

「やっぱりあたしはヤヤお姉ちゃんと戦います」

 六歳の少女の言葉に、較はまっすぐ見つめ答える。

「その判断が本当に正しいだったらあちきは相手に成るよ」

「ヤヤ止めなよ、その子は利用されてるだけなんだから!」

 良美が叫ぶ。



「ヨシにも料理覚えさせた方が良いかな?」

 あちこちに包帯巻いた較が、買い物しながら呟く。

「あれヤヤじゃない?」

 その声に較が振り返るとそこには智代と優子が居た。

「二人ともどうしたの?」

 較が聞き返すと、優子が詰め寄り言う。

「白風さんこそ、怪我治りきらない状態で何で買い物しているんですか?」

 少し怒って居た。

「リハビリだよ。ずっと動かないと逆に体に悪いから。ほら左手も動くよ」

 そういって左腕を動かしてみせる。

「本当だ。もう直ぐ完治だね?」

 嬉しそうに言う智代。

「前と包帯を巻いてる位置が違うような気がするんだけど?」

 鋭い優子。

「気のせいだよ」

 一言で済ませる較。

「それより二人がスーパーで買い物してる方が不思議だと思うよ」

 その言葉に智代が言う。

「クリスマスパーティーの準備の準備って感じかな。クリスマスパーティーで作る料理の練習する為に二人で買い物してるの」

 較は記憶の奥底からそんなものがある事を思い出していた。

「そうだったね」

 そして三人でスーパーを出た後、商店街を歩いていると、六歳位の少女と出会う。

 足元まである金髪で青眼、白い肌完璧な白人の物凄い可愛い少女。

 その少女は較を見つけると足にしがみつく。

「知り合い?」

 智代の言葉に較は少し困った顔をして首を横に振る。

「知り合いに似てるんじゃないかしら?」

 優子がそう言って、その少女と視線を合わせ英語で話しかける。

『貴方のお母さんは?』

 するとその子は日本語で答える。

「ママもパパも居ない。あたし孤児」

「日本語上手ね?」

 驚く智代にジェスチャーで静かにする様に指示してから較が言う。

「それじゃあ何処か行く所あるの?」

 その言葉に少女は較を指差す。

「お姉ちゃんの所」

「えーとだから、保護者になる人の……」

 そう言いかけた優子を較が押し止めて言う。

「はい。それじゃあうちに行こうね」

 そして較は少女の手を引いて家路につく。



『白風さんどうするんですか?』

 家に戻って暫くした所で優子から電話が掛かってきていた。

「あそこで押し問答しても無駄だから、少し落ち着かせてから警察に連れて行くよ」

『そう、でも大丈夫なの?』

 優子が心配そうに言う。

「平気だよ、あの年頃だったら自分の事は多少は出来るから、後は誘拐とかと間違えられないようにするだけ」

『気をつけてね』

 優子は心配そうに電話を切る。

 較が少女と良美が居るリビングに戻ると、二人は睨み合っていた。

「もーガキが食べすぎ!」

「あたしは、お腹空いてるの。一杯食べるの当然」

 最後のおせんべを巡り言い争いをしていたので較が最後の一枚をとって言う。

「で、あなた何者?」

 較の言葉に少女はそっぽを向く。

「どういうこと?」

 良美が不思議そうな顔をする。

 較が少女の表情が強張るのに気付いた。

「あちきの対戦相手?」

 その言葉に沈黙で答える少女。

「火薬の感じはしないから人間爆弾じゃないみたいだね」

 目をぱちぱちさせる良美。

「どういうこと?」

 較が少女の隣に座って答える。

「時たまあるんだよ、子供使えば相手が抵抗できないと思う馬鹿が」

 少女は、較を見て言う。

「貴女を倒せば、長生きできるようにしてくれるって約束してくれた」

 その言葉に良美だけが驚く。

「毒でも飲まされたの?」

 較の質問に少女は首を横に振る。

「あたしは、遺伝子の病気なの。だから両親も治療費を払い続けられないからって、あたしを売ったんだよ。そして実験の結果あたしは外を歩ける体になったの。でも今のままだと、拒絶反応って奴で一週間も生きてられないって。勝てば、長生き出来る様にしてくれるの!」

 その言葉に、較は困った顔をする。

「了解。それじゃあご飯にしよう」

 その言葉に驚く少女。

「どうしてそうなるんですか? 同情するとか逆に殺すとかしないんですか?」

 さっさと台所に行く較に代わりに良美が答える。

「あんたの意思を尊重したいだけ。あんたが本気でどうしたいか決められるまでは態度を保留するはずだよ」

「あたしは、まだ死にたくないからあの人を倒します!」

 少女が大声で宣言するが良美が平然と言う。

「本当に?」

 少女は今度は黙ってしまう。



 食事が終わった後、ミラーがやってきて、一つの中和剤を机の上に置く。

「これが彼女の分の中和剤よ。別に何時奪ってもいいわよその代わり彼女が治療を受けられないだけだから」

 そういって微笑む。

 その様子に、較も良美もミラーを睨む。

「最低な人間だね?」

 その言葉にたいしてミラーが嘲りを込めて言う。

「でも人間よ、貴女の親友と違ってね」

 良美が机を叩き言う。

「どんな力を持ってたってヤヤは人間だよ!」

 それに対してミラーが小さく笑う。

「お笑いよねどんな人間に近い姿をしていても遺伝子的には、チンパンジーより相違点が多い。完全な別種の生き物なのよね」

 その言葉に驚く良美。

「本当の事だよ、八刃の人間は多かれ少なかれ、人と違う遺伝子を有してる。だから人外って言われるんだよ」

 それに続けるようにミラーが言う。

「遺伝子学者達がいつも言っているわ、まるで生物兵器の理想の様な遺伝子だと。強靭な肉体と物凄い回復能力、長い時間若さを維持できる老化パターン。どれをとっても戦う為だけに作られた遺伝子だってね」

 較が頷く。

「そうですよ、八刃の遺伝子は戦う為だけの物それがどうかしましたか?」

 平然としている較に、ミラーが不機嫌になるが話を続ける。

「勝負は簡単よ、その子、白風の遺伝子で遺伝子治療した実験体五八八号から中和剤を奪い取るそれだけ。五八八号は、良美って人の手で中和剤の瓶を壊させたら延命処理を行ってあげるわ」

 その言葉に実験体五八八号と呼ばれた少女は中和剤を手に持ち、良美を見る。

「楽しい勝負を期待しているわ」

 そう言って去っていくミラー。

「正直今回の戦いはあちきのポリシーから外れる。戦えば勝てるし、判断はその子に任せるよ」

 そういい残すと、較はお風呂場に向かう。

 残された良美と少女。

「どうするつもり、あたしも自分の命懸かってるから、そう簡単にその中和剤を壊すつもりは無いよ」

 少女は、ただ自分の命を握る中和剤を見つめていた。



 その夜、良美は較の所に来た。

「ヤヤ、中和剤ひとつ位無くなっても大丈夫だよね」

 良美のその言葉に較は首を横に振る。

「相手がどんな隠し玉出してくるか解らないから全部揃えないとまずいよ」

 はっきり答える較。

「でも、あの中和剤を奪ったらあの子死ぬんだよ!」

 良美の言葉に較が言う。

「勝っても大差ないよ。元々こんな勝負に出すくらいだから、完全な捨て駒だからね」

「だったらどうするの?」

 半ば切れた良美の言葉に較が断言する。

「あの子が戦うことを選べは、戦い勝って中和剤を奪い。大人しく渡せばそのままだよ」

 その言葉に良美が目が点になる。

「それってどっちに転んでもあの子延命してもらえないじゃん」

「あちきにとっては第一優先はヨシだからね。中和剤を諦めたらあの子が普通の生活出来るんだったら考えるけど、延命処理しても先が見えてる以上比較する必要も無いと思うよ」

 平然と答える較。

「それでも救いたいの!」

 良美の言葉に較が言う。

「これがバトルだよ。綺麗ごとだけじゃどうしようもないんだよ」



 朝食の席で、較が言う。

「ご飯食べたら遊園地行くよ」

 その言葉に驚く良美。

「何で?」

 較はフォークで必死にアジの開きと格闘する少女を指差して言う。

「楽しいこと知らないで自分の寿命を決めろなんて理不尽だから。それでその結果戦うかどうか決めさせないとね」

「でもヤヤは倒すつもりでしょ?」

 良美の言葉に較が大きく頷く。

「それはあちきの考えだよ。この子にもこの子の考えで選択する権利があるよ」

 そう断言する較。



 三人は平日の遊園地に来ていた。

「ここが遊園地?」

 少女の言葉に頷く較。

「好きなだけ遊んで良いよ。今日だけはあちきの驕りだから」

「それじゃあ、あたしは、ジェットコースターに」

 良美がそう言うと較が少女の方を向いたまま言う。

「ヨシは自分で払ってね」

「えー!」

 不満の声を上げる良美であった。



 笑顔でゲームでとったぬいぐるみを抱きしめる少女。

 較は、そんな少女をつれ、今は使われていないドーム球場に入る。

 そして較はマウンドまで行き。

「楽しかった?」

 その言葉に少女が頷く。

「うんヤヤお姉ちゃん」

 すっかり較に懐く少女。

 そして較が言う。

「それじゃあ考えて、大人しく中和剤を渡すか、それともあちきと戦うか」

 その言葉に驚く少女。

 良美が文句を言おうとした時、較が続ける。

「生きてれば今日以上に楽しい事もあるかもしれない、それを踏まえて答えて」

 そして少女がぬいぐるみを置いて構える。

「やっぱりあたしはヤヤお姉ちゃんと戦います」

 少女の言葉に、較はまっすぐ見つめ答える。

「その判断が本当に正しいだったらあちきは相手に成るよ」

「ヤヤ止めてその子は利用されてるだけなんだから!」

 良美が叫ぶ。

 少女は六歳と思えないスピードで接近すると、そのまま回し蹴りを放つ。

 較は当然それをあっさり受け止める。

『サンダーパンチ!』

 少女は拳に電気を帯びさせて殴りかかる。

 まともに食らえば大の大人でも気絶するそれを、較は真正面から受け止める。

「大したものだね、遺伝子を取り込むことで、弱くなってるけど白風の技を使える様になってる訳だね」

 しかし、全然動じていない。

 少女はひたすら攻撃を続ける。

 較は平然と受け続ける。

 較にまともなダメージはゼロ、逆に少女の力は加速的に落ちていく。

「最初から解ってた。あちきが戦い、勝つ気があれば勝負にならないって」

 少女はそれでも必死に拳を振る。

 そして、少女の拳から嫌な音が聞こえる。

 良美が駆け出す。

「ヤヤもういいその子の中和剤諦めよう?」

 その言葉に較は首を横に振る。

「あちきは絶対全部の中和剤候補を手に入れるよ」

「だからってその子を見捨てていいわけない無い! あたしは、その子も一緒に居る明日じゃないと嫌!」

 その言葉に少女が攻撃を止めて驚き振り返る。

「……良美」

 そして較がその肩に手を置いてたずねる。

「貴女はどんな未来が欲しい?」

 涙を流しながらも少女ははっきり答える。

「もし生き延びられて遊園地来られても、良美やヤヤお姉ちゃんが居なければ今日みたいに楽しくないと思う。だから皆で一緒の未来が欲しい」

 その言葉に較が笑顔で言う。

「それが解れば十分」

 そう言って、少女から中和剤を受け取る。

 そして較が姿を見せない組織の人間に宣言する。

「この子はあちきが預かるよ。文句があるなら何時でも相手に成るからね」

 較は泣きつかれた少女を背負う。

 そこに怒った顔で良美が来て言う。

「ヤヤ、最初っからそのつもりだったんでしょ?」

 較はあっさり頷く。

「当然、誰があんな奴等の所に小さい子返せますか。ヨシがオーバーに騒いでくれたから、中和剤は無しよに成らなかったし問題無しだね」

「ヤヤ!」

 利用されたと知って怖い顔になる良美であったが、較は気にせずその場を後にする。



「ありがとうございました」

 較が自宅の玄関で頭を下げる。

 そして良美が近づいてきて言う。

「それであの子は大丈夫なの?」

 較が頷く。

「八子さんの話だと、元々適応があったみたい。まーほっとくと流石に不味いけど、霧流に伝わる術薬を服用し続ければ大丈夫だって」

 そして、二人は空き部屋で横になっている少女の所に行く。

「あたしはこれからどうすればいいんですか?」

 心配そうな顔で質問してくる少女に較が笑顔で答える。

「それだったら大丈夫、あちきの妹になったから」

 その言葉に驚く少女。

「因みに名前は五八八号じゃ味気ないから小較コヤヤしてやった。感謝しろよ」

 良美が偉そうに言う。

「名前変えたかったら何時でも言ってね」

 較の言葉に、良美が睨む。

「それってあたしがつけた名前に問題あるっていうのか?」

 較はそっぽを向いて答える。

「さー。あちきはあくまで小較の気持ちを最優先したいだけ」

 小較は較に抱きつく。

「ヤヤお姉ちゃん」

 そうしてうれし泣きする小較の頭をそっと撫でる較であった。



 こうして較は九つ目の中和剤候補を手に入れる事に成功した。

 残る中和剤候補は三個。

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