仮面を被った刺客
久しぶりの学校そこに紛れ込む変装した闘士、誰が対戦相手なのか?
学園の校舎裏
「でどっちが偽者だと思う?」
後ろを歩く良美の言葉に較は振り返り言う。
「正直解らないよ。組織の人間が自信もって送り込んだ奴だもん。ちょっとそっとじゃボロを出さないよ」
「でも、どちらかが偽者な事は確かなんだよね」
良美の言葉に較が笑顔で言う。
「両方殺そうか?」
その言葉に良美が慌てる。
「殺さない主義じゃなかったの?」
較は肩を竦ませて答える。
「ヨシの命が懸かってるからねー」
「あたしは嫌よ、そんなの」
較が苦笑しながら言う。
「確かにヨシだったらそう言うね」
較は、教室に残る鏡の様にそっくりな、委員長こと、鈴木優子を思い出す。
「本当に凄い技だよねー」
感心する較に頷く良美である。
「次の対戦だけど良いかしら?」
ミラーの言葉に、体中包帯だらけの較が言う。
「良くないけど良いよ」
「ヤヤ止めときなよ、体かなり痛いんでしょ?」
良美の問いにあっさり頷く較。
「でも少しでも期間に余裕があるうちに進めておかないとね。それで対戦相手は?」
その言葉にミラーが黙っているので較が睨むが、笑顔を続ける。
「それが、言えないんですよ」
いたたまれなくなって喋りだす姫子。
「それでどうやって戦えって言うの!」
怒鳴る良美を宥めながら較が言う。
「詰まり、今回は相手を探すことも含めてのバトルな訳だね」
「話が早くて助かるわ」
笑顔で言うミラーを較が殺気を込めて睨むが無視してミラーが続ける。
「貴方の学校に一人の変装の名人を送り込んだわ。その人間を見つけて倒せば貴方の勝ちよ」
少し考えてから較が確認する。
「間違いなく一人なんだね?」
「間違いなく一人よ」
ミラーもあっさり肯定する。
久しぶりの登校中、良美が言う。
「でも、なんで変装の達人が居るの? バトルの組織ってCIAかMI6なんかに下請けあるの?」
本調子でない左腕を三角巾で吊るしている較が答える。
「顧客に政府高官が多いからそっちの下請けも居るかもしれないけど多分、闘士だよ。ノーフェイスのデッドって豪華客船で戦った奴いるでしょ。あいつみたいに相手の懐に入って暗殺するタイプの闘士。本来は、素顔の公開が義務のバトルでは高い勝率をあげられないけど、今回みたいな特殊ケースだったら有効だね」
良美が振り返って言う。
「そういえば何で一人って確認したの?」
較は肩を竦ませて言う。
「普通のバトルじゃ何人居ても倒さないといけない相手が解ってるから関係ないけど、今回は特別。変装した奴倒したけどもう一人居てそっちが対戦相手だっていってきそうだから、相手が一人な事を確認したんだよ」
「面倒だね?」
良美の言葉に頷く較であった。
「久しぶり、元気してた?」
クラスメイトの智代が較達に話しかけてきた。
「ヤヤのこの様子を見て元気そうに見える?」
良美が左腕を吊っている較を指差す。
「交通事故だっけ? 休学するほど酷いんだよね」
自分の事のように辛そうに言う智代。
「大分直って来たから今日はお試し登校なの。今日普通に過ごせれば登校にOKが出ると思うよ」
較の言葉に嬉しそうな顔になる智代。
「そうなんだ、よかったね。ところで良美ってちゃんと身の回りの世話してくれてる?」
その言葉に較と良美の頭の上に疑問符が浮かぶ。
「でも、怪我して生活に不自由があるからって良美が一緒に休学していたんでしょ?」
智代の言葉に手を叩き、良美が言う。
「うん、ちゃんとしていたに決まってるじゃん」
本当は、掃除洗濯は元々ホームヘルパーの人がやっていて、左手の調子が悪くなってからは、ホームヘルパーに追加料金払って料理を作ってもらっている。
「それで本当に大丈夫なの?」
クラス委員長の優子の言葉に較は少しだけつらそうな顔をして言う。
「正直辛いかも。もう少し休学期間延びる可能性大」
智代が残念そうな顔をするが、優子は頷いて言う。
「とにかくしっかり直した方が良いわよ」
頷く較だったが、周囲の気配を探るのは忘れていなかった。
「それで見つかった?」
昼休み、購買部で買ったパンを食べながら良美が聞くと較は首を横に振る。
「気配じゃ無理みたいだよ。正直相手からアクション起こしてくれるまで手が無いね」
そう言いながら立ち上がる較。
「それじゃあ教室に戻ろうよ」
「あたしはトイレ寄ってく」
ゴミを較に渡す良美。
「今回はあちきの隙を突くつもりだろうから、大丈夫だと思うけど気をつけてね」
較が念のため注意するが良美は大して気にした様子もなくトイレに向かった。
較が教室で次の授業の準備をしていると、教室の後ろのドアから優子が入ってきた。
較はそれを見て、何か違和感を感じながらも前を向いた時違和感の正体に気付いた。
「優子、双子の妹居る?」
その言葉に優子が教科書をだしながら、前を向いたまま答える。
「一人っ子だけど、どうして?」
その答えを聞いて、較は前の席に座る優子の肩を叩き後ろを指差す。
「何なの?」
振り返った優子が見たのは、自分の席に向かうもう一人の優子だった。
『優子が分裂した!』
その声が教室を覆った。
「それで何故か優子が二人居るのね?」
トイレから帰ってきた良美の言葉に較が頷く。
騒然とする教室、戸惑う優子ズ。
「どっちが本物だと思う?」
その言葉に較が首を振り、良美の手を引っ張って教室をでる。
そして校舎裏で較と良美の問答があった。
「それじゃあどうしようも無いの?」
良美の言葉に較は強度を確かめるように壁を叩きながら言う。
「一つ確認することがあるから協力してね」
微笑む較。
「何?」
良美が問い返すと、較は壁を指差す。
「そこに立ってて」
良美が首を捻りながら壁の所に立った。
『オーディーン』
較は手刀で壁を切り裂きながら良美に近づく。
その良美は飛びのき、較が居た方向を向いて叫ぶ。
「いきなりなにするの!」
しかし、その目の前に較は居なかった。
「本当のヨシだったら動かなかったよ」
後ろから聞こえる較の声に青ざめる良美の偽者。
較の手が、良美の偽者の首に触れる。
「考えたね、一人って言っておく事で二人になった優子のどちらかが対戦相手だと思わせたかったんでしょ?」
その言葉に良美の偽者が顔を引きつらせながら言う。
「そう一人なのよ、あの優子の一人が偽者だとしたら、約束違反じゃない?」
その言葉に較は平然と言う。
「別に変装するのが一人って誰も言っていないよ。変装の名人が一人来るって話だった。そして同時に催眠術も使えるんでしょ? なんせヨシに優子の変装させて優子のふりさせられるんだから」
その言葉に良美の偽者の声が変わった。
「何時気付いた?」
その言葉に較が苦笑する。
「はっきり言って、今回貴方に勝ち目は無かったんだよ。あちきが油断する相手ってヨシしか居ないもん。だからいつもヨシの行動だけには気をつけてたの。目を逸らす先として、優子に変装させたのが致命的だったね」
「勝てれれば、A級に成れたのにね」
残念そうに呟く偽良美の懐から中和剤を抜き出す較。
「さてさてどう収拾するかが問題だね」
「どうせ組織がやってくれる」
偽良美の言葉に較が少し考えた後言う。
「怪我したくないよね?」
怪しい笑みを浮かべる較に、一歩下がる偽良美、栗菜。
その後、偽双子大量発見された挙句、人に変装させる変人が紛れ込んでいた事になった。
そして栗菜は警察に捕まった。
「こんなことして何の意味があったの?」
片手で、料理をする較に良美が問いかける。
「木を隠すなら森の中、こーやっておけば誰が目的だったか解らない」
そう言いながら起用に片手で肉を切る較であった。
こうして較は七つ目の中和剤候補を手に入れる事に成功した。
残る中和剤候補は五個。




