サーキットを駆る、音速の闘士
十三闘神との連戦。音速を超える者との戦いが始まる
サーキットの中央。
「ねーねーヤヤ、ここってF1のレースやるところだよね」
「そうだよ」
ギャラリー席から嬉しそうに言う良美に、較は、目を閉じたまま答える。
そして、較は、大きく飛びのく。
較が居た所を音速に近いスピードで抜けていく、大型ナイフ。
較の右腕に大きな傷跡が出来る。
「十三闘士最速は、伊達じゃないね」
較は、呼吸を整える。
「次は反撃するよ!」
「ヤヤ、大丈夫?」
珍しく起きて来ない較を良美が部屋まで起こしに来て、言った。
「連戦で疲れてるだけ」
そう言いながら立ち上がる較であったが、左腕を全然動かしていない。
「左腕どうかしたの?」
良美の言葉に苦笑するし較が言う。
「この前、左腕をホープに撃たれたからね。流石に直り辛い所までダメージ負ったから、ラクシャミを使っても直ぐには直らないよ」
何とも言えない表情で良美が尋ねる。
「痛い、ヤヤ?」
笑顔で較が答える。
「痛いけど、昔ほどじゃない」
その言葉に良美が首を傾げる。
「昔って何時のこと?」
較は腹を指差して言う。
「前にホープに内臓まで達する攻撃を食らった時は、物凄く痛かった。今でも覚えてる。三日三晩うなされてたからね」
「でもそれって負けたからじゃない?」
良美も空手をやっているので身に覚えがあるのか、そう答えたが、較が首を横に振る。
「違うよ。あの傷は何も残さない痛みだけど、この傷はヨシとの約束を守る為に出来た傷だから平気だよ。逆に嬉しいかな?」
その言葉に良美は少し引く。
「ヤヤってSM趣味?」
少し沈黙の後、較は、一言。
「左手が痛いから、ご飯は自分で作ってね」
「えー何で!」
少し拗ねる較と文句を言う良美であった。
「それで、なんで姫子がご飯作ってるの?」
お腹が空いたので降りてきた較の視界には、何故か料理を作る姫子が居た。
「だってヤヤが作ってくれないんだもん。丁度来たから作らせたの」
較が、耳を澄ますと、姫子の呟きが聞こえてくる。
「何であたしが、十四の小娘に命令されてご飯を作らないといけないのよ。大体、トップエージェントだっていって好き勝手やってくれるミラーがいけないのよ……」
ずっと愚痴を言っていた。
較はその背後に気配も無く近づき一言。
「人の家のキッチンに主に無断で入ってただで済むと思う?」
その言葉に飛び上がる姫子。
「ごめんなさいごめんなさい。良美さんに頼まれて仕方なくなんです!」
必死に頭を下げる姫子。
「あんまり汚さないでね。それとあちきの分もお願い」
較の言葉に安堵の息を吐く姫子だったが、
「言っとくけど不味い物だしたら、寿命がそれだけ縮むと思ってね」
較の言葉に固まる姫子。
「それで今度の対戦は今夜な訳ね?」
較が、姫子が神経をすり減らせて作った、家庭料理ぽい食事を食べながら言う。
「はい。対戦相手は、騎神、キッドです」
エプロンを着た姫子が答える。
「ヤヤ大丈夫なの?」
良美が心配する。
「後になって期間が無いって言いたくないから、頑張るよ」
そう言ってから、お味噌汁をすする較。
「そう。それでその騎神、キッドってどんな奴?」
聞いた後、アジの開きを骨ごとかぶりつく良美。
「バイク乗りで、音速に近いスピードで動きながら、自慢のナイフで敵を切り裂く。高速で動く上、バイクに力を込めて鉄壁にする難敵だよ。まー十三闘神で難敵じゃない人なんて居ないけどね。焦げ目多すぎだよ。癌に成りたくなかったらもう少し丁寧に焼きなよ」
目玉焼きのひっくり返し確認しながら較が答える。
「すいません。以後気を付けます!」
必死に頭を下げる姫子。
「うーん。やっぱヤヤの方が料理上手」
呑気に言う良美に、殺意すら覚える姫子であった。
「傷大丈夫?」
サーキットのギャラリーの良美が聞くと、較は大きく頷く。
「反応出来たから大丈夫。でも少し静かにしてて」
その言葉に良美が黙る。
再び目を瞑る較。
広いサーキットの中を十三闘神の一人、騎神、キッドの駆るバイクが目にも止まらないスピードで疾走している。
「音速より遅いのが救いだよね」
そう呟きながらも、なんの予兆も無く、直角にカーブしたキッドを向かい打つ様に肘を出す較。
『ポセイドンランス!』
電撃を放つ肘の一撃がキッドのナイフとぶつかった。
しかし、ナイフは較の肘を斬らず、較を大きく弾き飛ばした。
吹っ飛ばされた較が慌てて体制を整えようとした時、その背中をキッドのナイフが斬る。
地面に倒れ込む較。
「ヤヤ!」
良美が叫ぶと、較は立ち上がる。
『お前の戦闘シーンは見せてもらった。お前は自分へのダメージを覚悟でこっちに攻撃を封じる作戦を使っている。十三闘神相手ではダメージ無く勝つのは無理と判断したからだろう。今も自分の肘が斬られても電撃に因るダメージを与えるつもりだったんだろう』
キッドの渋い中年男性の様な声が、サーキットのスピーカーから聞こえてくる。
『だが、十三闘神を舐めるな、そんな手が通じ続ける訳は無かろう。お前等鬼は、人を馬鹿にしている。そんな鬼を私が今日退治してやる』
高速に迫ってくるキッドの攻撃を紙一重でかわす較だったが、何かに巻き込まれた様に吹っ飛ぶ。
「今の何?」
良美が驚く。
その良美に対して、較が立ち上がり答える。
「ソニックブーム。音速を超えると発生する衝撃波だよ。まさかあちき相手に、そんな限界を超す技を使うなんて思わなかったよ」
しっかりとした口調だが、明らかにダメージは大きい様だ。
『鬼を殺す為に躊躇はしていられないからな!』
そして再び迫ってくるキッド。
較は地面を蹴りつける。
『タイタン!』
地面に衝撃波が走る。
『そんな子供騙しが通じると思うか!』
キッドの直進は止まらない。
較は大きく避けるが、ソニックブームで弾き飛ばされる。
較は今度は足から着地するがよろける。
キッドは、サーキットのコースを走りどんどん加速し、再度音速に達し、攻撃を仕掛けてくる。
『タイタン』
較は再度、衝撃波を放つ。
『無駄だ!』
さっきと同じ展開になり、弾き飛ばされる較。
「ヤヤ、どうしたの?」
さっきから同じ展開で、弾き飛ばされ続ける較に良美が眉を顰める。
『幾らやっても無駄だ!』
キッドが十数回目の攻撃に入る。
しかし、今度は較はタイタンを、地面を走る衝撃波を放たない。
『諦めたか!』
キッドのナイフが較の首を狙う。
『白地鎖』
キッドがバイクごと地面に縛り付けられる。
較は大きく膝を着く。
「上手くいったみたいだね」
『何が起こったんだ!』
キッドの困惑の声がサーキットに響く。
較は拳を握り締めて残りの力を全て集める。
「今のは、古流にある、相手の動きを封じる技だよ。本格的に修行していないあちきじゃ、タイタンで下準備をしないと出来ないけどね」
『無駄な足掻きをしていた訳じゃないと言うのか!』
キッドの言葉に頷く較。
「はっきりいって一か八かの賭けだった。古流の技を、それも十三闘神の貴方にかけるんだから。でも賭けに勝ったね。貴方がスピードと引き換えに防御力を落としてくれたから」
その一言にキッドは言葉を詰まらせた。
そして搾り出すように言う。
『詰まり私はあせり過ぎたという事か?』
較は強く頷き、拳を振り下ろし、バイクを粉砕し、そこで力尽きて倒れる。
「ヤヤ!」
慌てて駆け寄る良美。
「大丈夫。目を覚まして!」
必死に問いかけるが、較は目を開けない。
その時、キッドが立ち上がる。
良美は較の前に立ちキッドを睨みつける。
「ヤヤにはこれ以上、近づけさせないよ!」
キッドはフルフェイスのヘルメットを脱ぐ。
その下から、上に超が付く金髪の美女の顔が出てきた。
「バイクを壊された時点で私の負けよ」
そう言って中和剤を投げ渡すと、そのまま出口に向かっていく。
「男に負けない為、色々頑張った。男の十三闘神を負かしたヤヤを倒せば、男より強いって証明になるかと思ったんだけどね」
そこで苦笑する。
「でもまだまだ甘いわね勝てた勝負を焦りから落とすんだから。修行のし直しよ」
去っていくキッド。
そんな後ろ姿を見ながら良美が言う。
「……カッコイイ」
何とか目を開けた較がそんな良美に言う。
「出来たら肩貸して欲しいんだけど」
「ごめん!」
慌てて駆け寄る良美であった。
こうして較は六つ目の中和剤候補を手に入れる事に成功した。
残る中和剤候補は六個。




