体育祭パニック
体育祭それは良美が熱血する行事
私立羽鳥中学校の新生グラウンド
「戦いは何時も空しい」
良美の言葉に較は、グラウンドの惨状を見て言う。
「この修理費は流石に組織は出してくれないよ」
良美の頬を冷や汗が流れる。
「今度の日曜日は体育祭だ!」
熱血度二百%の良美の言葉に較は、気にした様子も無く応援合戦様のコスチュームの作成に勤しむ。
「ヤヤ、乗り悪い!」
良美の言葉に較が、グランドにへばるクラスメイトを指差して言う。
「多分このまま特訓続けたら体育祭の当日には全員筋肉痛で動けないと思うよ」
「情けない近頃の若い者はこの程度の特訓で弱音を吐くか!」
間違いなく近頃の子供の筈の良美の言葉にクラスメイトの智代が言う。
「もー止めようよ、たかが体育祭じゃない」
その言葉を聞いて較は溜息を吐き、良美の熱血度が三百%まであがる。
「体育祭を馬鹿にする者は、体育祭に泣く。体育祭こそ学校生活最大の山場なのよ! ここで負ければ一生物の後悔よ。そう、絶対あの一年の時の悔しさは一生残る!」
智代は較の所まで這って行き、尋ねる。
「一年の頃何があったの?」
較は遠い目をして答える。
「絶対の自信があったヨシが、ライバルのA組に宣言してたの。負けたらその年の間、P-1グランプリを見ないって。時たま泊まり着た時見たけど、P-1グランプリやってる時間にテレビをつけずにテレビの前に座り込むんだよ。あの時は怖かったよ」
少し長い沈黙の後、智代が言う。
「それで今年は何を誓ったの?」
「命より大切にしてる、大鳥真選手の手形入り色紙を燃やすなんて言ってたよ」
較の言葉に智代が言う。
「本気で全力かけてるね」
大きく頷く較の後で良美が怒鳴る。
「いくぞ! うさぎ跳び十周!」
体育祭当日、較と良美クラス二-Bの生徒達は涙を流していた。
「今日さえ終ればもう特訓しなくても良いんだなよなー」
「長かった」
やる前から疲れきっていた。
そんなクラスメイトに良美が宣言する。
「もし負けた来年の体育祭までずっと特訓だからね」
その一言に二-Bの心が一つになった。
午前中のプログラムでの二-Bの爆進は後の記録に残るほどだった。
「これは楽勝ね!」
良美が上機嫌で一美が作ったお弁当を食べる。
「頑張ってね皆さんも食べてね」
「「はーい」」
二-Bのメンバーは一美特製お弁当に舌鼓を打った。
しかし、人間気力で補えるのには限界があった。
昼ごはんを食べて、気が抜けた二-Bにリタイヤ者が続出した。
「情けない!」
一人熱血度五百%まで言っている良美が頑張るが、午前中でつけた差がどんどん減っていった。
そして遂に最終競技次第では、逆転負けの可能性が出て来る状態に成っていた。
「良いわこれこそ燃える展開頑張るよヤヤ」
熱血度八百%まで行った良美の言葉に軽い溜息を吐く較であった。
「どうにでもして」
『遂に最終競技です。どんな妨害も許可する二人三脚障害物レース。勝つのは、午前中に爆進した二-Bか? それとも、安定した力で追い上げてきた二-Aか? 全てはこの競技にかかっています』
スタートラインに並ぶ選手達。
そして熱血度が遂に九百%に達した良美が拳を握り締めて断言する。
「何をやっても勝つよヤヤ!」
その言葉に較が言う。
「イカロスつかう?」
それに対して良美が較を睨んで言う。
「ずるはいけない」
何をやっても勝つが、ずるはいけないと言う難しい注文に較はただ溜息を吐く。
『ヨーイ、スタート!』
審判の銃声で一斉に走り始める。
トップは良美。
理由は簡単、良美は一人の時と同じ走り方をしている。
較の方が、それに上手く合わせて走ってるだけなのだ。
『いきなり凄いとても二人三脚のスピードとは思えない。もはや二人は、心も体も一つなのでしょう』
アナウンサーの言葉と裏腹に、冷め切った表情で追随する較が器用に急ブレーキをかける。
そして二人の前には高い壁があった。
『おー最初の難関は、高き城壁、この城壁は時間の経過と共に下がっていきます。二-Bの二人は早すぎた為、とても超えられる高さではありません』
較が小声で囁く。
「あちきだったら飛び越せるよ」
その言葉に良美は少しだけ悩んだあと言う。
「よじ登ろう」
そういうと同時に、良美は壁に飛びつくとぶつかっても痛くないように発泡スチロールで出来ているのを利用してよじ登って行く。
因みに、較は鉄の壁でも同じ事出来るので、平然としている。
何とか上り終えて、次の難関に向う二人。
『第二の難関は地獄の一本橋。すべる様に油を塗られた一本橋を通ってください。正しその一本橋の周りには地雷としてカンシャク球が無数に埋っています!』
場内からざわめきが起る。
「ヤヤ行くよ」
「はいはい」
二人は、背中合わせになって駆け出す。
前向きで走る良美はともかく、後ろ向きで滑る一本橋を渡る較ははっきり言って人間業を越しているのだが、良美の暴走状態に誰も気付かない。
一本橋の途中で、良美が足を滑らす。
較は慌てて撃術でフォローしようとした時、良美が怒鳴る。
「ずるは駄目!」
そして二人はそのままカンシャク球の海に落ちていく。
物凄い爆裂音が響く。誰もがやりすぎと思った中、良美は立つ。
そしてさらに熱血度を上げて、遂に千%に達していた。
「あたしは負けない!」
カンシャク球の海を突き進みスタート地点に戻ると再スタートする。
今度は無事クリアして、次の難関に挑む。
『えーと次の難関は、……誰だこれ考えたの!』
良美と較の前に、猛獣の群れが居た。
「あのライオン見覚えが有るんだけどな」
アナウンサーは最後の諦めの気持ち持ちながらも手元の紙を読み上げる。
『サファリパークダッシュ。猛獣は、近くに住む奥様からの提供だそうです。えーとその奥様からのメッセージを読ませてもらいます。「ヤヤちゃんこれはいつも子供がお世話になっているお礼よ」との事です』
「やっぱりあのライオン、八子おばさんが拾ったライオンみたいね」
較の言葉も良美には届かない。
「やってやるぜー!」
良美はその猛獣も群れの中を走る。
ライオンが迫り、チータと競争し、象に正面から体当たりをかます。
因みに突っ込むのは良美だが、対処するのは較の役目。
二人がサファリパークダッシュを抜ける。
そして二人の爆進は続く。
『皆さん危険です。猛獣がサファリパークエリアから抜け出しました。急いで逃げてください』
アナウンサーの決死の叫びと観客の悲鳴があがる中、良美と較は最終関門に達していた。
『もう自棄だ! 最終関門は二人別個に筆記問題です。全問解けるまで進めません!』
較はあっさり解くが、
「何で体育祭で筆記テストやら無いといけないの!」
暴走良美は解けない様だ。
結局暴走良美が筆記問題を全問解いたのは十五分後であった。
そして二人がゴールに着いた時、周りには誰も居なくなっていた。
カンシャク球の爆発と猛獣達が暴れた性で折角作り直したグランドは半壊状態であった。
「あちき不思議に思うんだけど、誰がこんな競技の承認して、準備したの?」
良美は暫く考えた後、手を打つ。
「ハードな奴をやろうと実行委員に頼んだら、自分達で準備するなら良いって言ってたんで、こないだ遊びに行った時、困った事があったら相談してって言われたから、八子おばさんに頼んで準備してもらったんだ」
較は大きな溜息を吐く。
「八刃の人間はどうしてこう常識ないのかなー」
その後、私立羽鳥中学校の体育祭では、二人三脚・障害物競走があがる事は無かった。




