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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
学校編
19/45

最強と最高の違い

最強と最高近くて遠い言葉である。少なくとも闘う者にとっては

 夜の武道館の近くの公園

「俺は昔ここで優勝することが夢だった」

 そういいながらも構えを取る男に較が諦めきった口調で言う。

「噛ませ犬って言葉知ってる?」

「知ってるし、普通にやって勝てない事も解っている。しかし戦わないといけない時がある」

 そんな二人を複雑な顔をして見守る良美が居た。



 教室で慢心の笑みの良美にクラスメイト達は不思議がる。

 智代が、白い猫のぬいぐるみを作る較に聞いた。

「どうしたの?」

 疲れ切った溜息を吐き、較が言う。

「このあいだ、テレビの特別観覧が駄目になったんだけど、その事で愚痴を言い続けてたから、あちきのコネで、一流格闘選手と会う約束をとって貰ったの」

 その言葉に不思議そうな顔をする智代。

「ヤヤも不思議なコネ持ってるね」

 較は微笑んで言う。

「優子が、駅前の本屋さんのアルバイトのお兄さんに発売前の新刊を貰うのと大差ない事だよ」

 眼鏡をしたクラス委員長の鈴木優子がこける。

 クラスメイト(主に女子)の視線が集まる。

「前の家庭教師といい、委員長って意外と……」

「あれは、ただ何時も本を買っているうちに知り合いになっただけなのよ。ちゃんとお金は払ってるもの」

 言い訳すればするほど泥沼に入っていく優子を置いて較がぬいぐるみ作成を再開する。



「本当はこーゆー事はいけないんですよ」

 どこか垢抜けないOLの風だが、バトル組織の較担当のエージェント、森本姫子が念を押す。

「別にいいじゃない」

 呑気に言うのは良美である。

「実際、極武空手の大鳥オオトリマコトと良くアポ取れたね?」

 少し不思議がる較。

「ヤヤさんがどうしてもって言ったんでなんとか取ったんですよ。一応うちの組織は格闘界には太いパイプがありますから。ですからこの前みたいなことされると困るんですけど」

 責める視線を向けると較は笑顔で答える。

「あちきを止めたかったら何時でもどうぞ。あちきは何時でも相手になるよ」

 姫子は全身から脂汗を流しながら先に進む。

「こっちですよ」



 真は、トレーナーの男と二人、待合室に居た。

 もう直ぐ、組織のエージェントが客を連れてくる手筈になっている。

「断ってよかったんだぞ」

 トレーナーの言葉に真は首を横に振る。

「嫌、俺はあの組織との繋がりを持ちたいから丁度良かった」

 その言葉にトレーナーが詰め寄る。

「お前まだバトルに参加するつもりなのか!」

 その言葉に真は頷く。

「俺は、自分の強さに枠を作りたくない。だからこそ枠が無いバトルに参加するんだ」

 怒鳴るでもない、淡々とした口調だがその言葉に込められた思いはかなり強い物だった。

「お前はバトルを美化しているあれは単なる殺し合いだ!」

 その時、ドアが開き、較達が入ってくる。

「あのー面会の約束していた森本ですが、取り込み中ですか?」

 その言葉が終る前に、良美が色紙を持って真の側に駆け寄り、目を輝かせて言う。

「ファンなんです、サインをして下さい」

 意外な展開に戸惑う真とトレーナー。

「ヨシ、もう少し段階を踏もうよ」

 興奮する良美をそう言って宥めながら較は真の方を向く。

「取り込み中でしたら、時間をずらしますが?」

 その言葉に真は立ち上がり言う。

「別に構わないよ。ところでおなかが減ってないか?」

「減ってます!」

 イの一番に答える良美。

「よし、話は食事の場所でしよう」



「ここって高くないの?」

 超高級料亭に案内されて驚く、良美。

「まさかこんな所に連れてこられるとは君は、結構お金持の娘さんなんだね」

 少し驚いた風な真とトレーナーそれに対して較が答える。

「確かにお父さんはそこそこお金持ってるけど、ここの支払いはあちきが稼いだお金でします」

 驚く二人に対して、良美が言う。

「やっぱA級闘士って儲かるんだ」

 良美の言葉に戸惑う真達。

「A級闘士ってどういう事だ!」

 そう興奮する真に対して、較は軽く溜息を吐いた後言う。

「まー話は食事をしながら」



 食事をしながら、較は自分がA級闘士である事など簡単に説明をした。

「……信じられない」

 真の言葉に頷くトレーナー。

「信じてくれなくてもいいよ」

 平然と言う較。

「えーとそんな事より、真さんはどうして空手を始めたんですか?」

 そんな事と言い切る良美に少し驚きながら真が言う。

「君は平気なのかい、となりに居るの友達が人殺しでも?」

 良美が胸をはって言う。

「ヤヤは親友です。人殺しだろうがなんだろうが関係ありません」

 その言葉に較は恥ずかしげに頬をかく。

「それよりあたしの質問に答えて下さい!」

 良美が問い詰めると、真が話し始める。

「父親を早く亡くした俺は、母親を助ける為に強く成りたかった。だから空手を始めた」

 トレーナーが言う。

「そうだお前は強くなった。母親も天国で喜んでいる筈だ!」

 その言葉に真は机を強く叩く。

「それを決められたのは母だけだ!」

 その言葉に良美が首を傾げる。

「でもお母さんは死んでしまったんですよね?」

 その言葉に真は頷く。

「だからだ。死んだ後、母に会った時に間違いなく強いと認めて貰う為に、俺は最強を目指しているんだ!」

 強い意志を込めた言葉だったが較は平然と言う。

「最強なんて言葉は幻だよ」

「何だと!」

 真が詰め寄った瞬間、較は指先を動かすだけで真を宙に飛ばす。

「一応あちきの父親が最強と呼ばれてるけど、多分違うよ」

 真はふすまにめり込みながらも反論する。

「だとしても最強は必ず居る!」

 その言葉に較が首を横に振る。

「強さって比較でしかないし、強さって相手より勝っているって事じゃない。相手より自分が優れている部分を攻めれることだよ」

「詰まり、相手より勝ってるって事だろ!」

 ふすまから抜け出してきた真の言葉に較は首を横に振る。

「A級闘士の中には小さな女のを使って、狙撃してる人も居るよ。相手より強くても勝ってるって居るって事じゃないよ」

「俺は力で相手を勝る!」

 その言葉に大きな溜息を吐く較。

「まー若い闘士に良くある勘違いだね」

 その言葉に姫子が言う。

「って貴女は十四歳じゃなかった?」

「あちきは、闘士暦五年以上だもん」

 その後、不機嫌ながらも純粋なファンの良美と話をした真。



「楽しかった」

 嬉しそうに居間で食事を何時もの様に何もせず待っていると、玄関のチャイムが鳴る。

「ヨシ、今手が離せないから出て!」

 台所から較が言うと、面倒そうに言う。

「もー、ヤヤも他人にお客様対応させるなんて常識無いなー」

 自分が人の家で我が物顔で振舞っている非常識さを棚に上げて、立ち上がる良美。

 そして良美が玄関を開けるとそこには姫子が居た。

「昨日はどうも」

 その元気な返事に対して姫子は暗い表情で言う。

「悪い話を持ってきたの」



「つまり罰ゲームの一種な訳ね?」

 その較の言葉に姫子が頷く。

「はい」

 較はバトルの対戦相手のカードを見る。

 そこには、真の姿があった。

 困った表情をしてうろうろする良美に較が言う。

「今回はまともなバトルにならないから見学止めとく?」

 その言葉に良美はほんの少しだけ躊躇したが直ぐに答えた。

「やめない!」



 そして武道館での試合の後、真の元に、較と良美が来た。

「対戦カードは受け取ったよね?」

 その言葉に真は頷く。

「場所くらい選ばせて上げる」

 較の言葉に構えを取って真が言う。

「場所は関係ない」

 次の瞬間、真の体が壁に押し付けられる。

「自分の力を理解しなさい。ここが自分の力を発揮出来る場所じゃないでしょうが」

 直ぐに離れて較があきれた顔をして言う。

「姫子に頼んで側の公園を人払いするから来なさい」

 そう言って離れる較に、良美が近づき言う。

「なんかヤヤの態度嫌だ」

 較も頷く。

「まーね。あちきあーゆーの嫌いなの。バトルは所詮ショーでしかない。その中で自分の中にしか価値が無い物を得る為にあちきは戦っているけど、あの人たちはルール無用の最強を決める戦いなんて嘘に踊らされてる」

「でもルール無しだったら純粋な強さが測れるんじゃない?」

 良美の言葉に首を横に振る。

「それこそ無意味だよ、ルール無用だからこそ、対戦相手次第で強さ弱さが変わるんだから」

「そんなもん?」

 良美が理解できないように首を傾げるが較は断言する。

「そう、強さなんて自分以外には関係ない事なんだよ」



 真は人気のない公園に移動し、後ろの武道館を見て言う。

「俺は昔ここで優勝することが夢だった」

 そういいながらも構えを取る男に較が諦めきった口調で言う。

「噛ませ犬って言葉知ってる?」

「知ってるし、普通にやって勝てない事も解っている。しかし戦わないといけない時がある」

 そんな二人を複雑な顔をして見守る良美が居た。

 最初の一撃は真だった。

 渾身の力を込めた正拳打ちを放つ。

 真自身もまともに決まるとは思って居なかった。

 避けられると思いながら打った一撃だったが、正拳はまともに較の胸に当たる。

 しかし、後退したのは真だった。

 打ち込んだ拳から出血がある。

「ただの人の拳なんて避ける必要も無いよ」

 無造作に近づく較。

 真は必殺の回し蹴りを較の側頭部に決める。

『ボキ』

 真はそのまま倒れる。

 打ち込んだ足の方が折れたのだ。

「ヤヤ、真さんの来月の試合のチケット買ってあるんだからね」

 良美の言葉に較が眉を顰める。

「そーゆー事は先に言ってよ、後で治療しないと来月の試合なんて出れないよ」

「ふざけるな!」

 真は気力で立ち上がる。

「俺はまだ負けてない!」

 較は何もしない。

 真は動けない。

「それでどうするの?あちきはただたってるだけで右足の骨折で貴方は体力が無くなっていって戦闘不能になるよ」

 その言葉に真は、必死に折れた足を動かそうとするが逆に倒れてしまう。

 較はそんな真に近づいて言う。

「あちきは強いよ。でもそれって他人に誇れる強さじゃないよ。闇に生き、人から隠れて戦う、自分の為だけの強さ。あなたが欲しいのはそんな強さ?」

 その言葉に真は戸惑う。

「お母さんに誇りたいんでしょ?だったら最強なんて目指すなんてやめなよ」

「だったらどうしろって言うんだ!」

 真が怒鳴ると、較が言う。

「最高を目指せば良い。自分が納得するルールの中で。同じ条件のなかそれだったら相手に負けないと胸を張って言える物を手に入れれば良いんだよ」

「それこそ自己満足じゃないか!」

 真の言葉に較は首を横に振って良美を指差す。

「ヨシは認めてくれるよ」

「そーよ、拳銃ぶっ放して強いなんて言う馬鹿なんて、あたしは強いなんて思わないよ!」

 断言する良美。

 そして較は武道館を指差して言う。

「あそこには貴方と同じルールで同じ高みを求める人達が居るよ。貴方はその中で最高を手に入れる事が出来るって言うの?」

 真は武道館を凝視した後言う。

「絶対手に入れる。最高の力を」



「今日の真さんの試合凄かったね」

 良美が東京ドームでの真の試合の帰りに自分の事の様に嬉しそうに言う。

「まー前より高みに近づいたのは確かだね」

「ヤヤは高みを目指さないの?」

 良美の言葉に較が言う。

「あちきは、自分の為に戦うの。自分が強いと思える様になりたいから。だから、他人からどんなに低く見られても良いの」

「そう。今夜の夕飯外で食べていこうよ!」

「駄目、あまり外食させないでっておばさんに言われているんだから」

「けち!」

 そんな呑気な会話をする較と良美であった。

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