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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
学校編
17/45

これは特撮です

テレビの特別観覧に来た較と良美、何故かそこでは特撮としか思えない展開が発展する事に

 某テレビ局の録画スタジオ

「これは最新特撮技術で撮影されてます」

 棒読みでカメラに向って言う良美。

 その後では阿鼻叫喚地獄が繰広げられていた。



「遅れて、ごめんなさい」

 走ってきた較に良美が睨む。

「もー折角あたしが、格闘技世界チャンピオン勢揃いのイベントの特別観覧券当てたのにつれてってあげるのに!」

 本気で珍しく良美が較を招待した形になったというのに、遅れた較に不満一杯の良美であった。

「それより遅れるよ!」

「もー入れなかったらヤヤの所為だからね!」

 怒る良美にヤヤは頷く。

「その時は、あちきが力技で何とかしてあげるよ」

「その時は任せたよ、壁に大穴空けても道作るんだよ!」

「了解」

 そんな物騒な会話をしながら走る二人だったが、なんとか無事スタジオに間に合った。



「それでねーイワンの踵落としが強力なんだって!」

 番組に出演する選手のプロフィールを力説する良美。

 因みに較はあまり乗り気でない。

 正直、自分だったら秒殺出来る相手にいまいち興味は無いのだ。

「もーちゃんと聞いてる!」

「うんうん、聞いてるよ」

 適当に聞き流す較であった。



「なんでジャップに媚を売らないといけないんだ」

 世界でも指折りの格闘技チャンプ達だが、プロモータ(試合を決める人達)からの要請で、この番組の無理やり出演させられたのだ。

「仕方あるまい、俺達も試合をやって金を貰ってるんだ、その試合に客を呼ぶためだ!」

「俺は強さ証明する為に試合をしてる、観客など関係ない!」

「それだけじゃ生活できないだろうがよ!」

 そんな酷く殺伐とした雰囲気の中、一人の男が言った。

「もう決まったことだ、出るしかないだろう」

 一見優等生ぽい意見だったが、その顔にはひらすら邪悪な意思があった。

「自分達の好きな様に振舞って良いって言うんだろ、好きにやってやろうぜ」

 男たちはその男の言葉の意味を理解した。



 大して期待してる訳でもない較は呑気に欠伸をしていたが、良美は期待に目を輝かせていた。

 そんな中、入場してくるチャンプ達、その時較は確かな悪意を感じた。

 そしてチャンプの第一声。

「俺達の試合を見たいんだろう、ここで見せてやるよ、さー掛ってきな」

 そう言って、日本人ファイター達を挑発する。

 その一言に若い男が一人殴りかかる。

 だが、所詮実力差がある相手、数分もする内にぼこぼこにされる。

 そして固い床に投げつけられて、血反吐を吐く。

 スタジオは何なのかと、どよめき始める。

「こんなつまらない番組をするより、俺達が戦っていた方が面白いだろう? 誰でもいい、かかってきな?」

 絶対負けないという自惚れと、日本人を馬鹿にする思いだけで笑うチャンプ達。

 流石の良美も怒った顔をする。

 その中較が良美に耳打ちしてチャンプ達の前に出て行く。

「あちきでも、問題ないよね?」

 慌てて止めに入るスタッフと大爆笑するチャンプ達。

「君、危ないよ止めなさい!」

「がははは、日本人の子供は冗談が上手いな!」

「良いじゃないか遊んでやれよ。お前こんなガキとやるのが好きだろう?」

「ああ、中々可愛い顔してるじゃない」

 そう言って、助平な顔をして黒人のキックボクサー出身の男が較に近づく、そして良美がカメラの前に出て言う。

「これは最新特撮技術で撮影されてます」

 誰もが首を傾げたその時、較の肩に手を置いた黒人チャンプが、空中できりもみしながら床に叩きつけられる。

 口からは大量の血が吐き出され、全身の骨が折れているようだ。

 それをやった較は平然としている。

 そして残りのチャンプを見る。

「逃げても良いですよ、所詮生ぬるいショーマンのチャンプ」

 その一言に、白人初のチャンプが、得意の柔道技をかけようと接近した時、間合いに入る半歩前で、較は一歩踏み出し、その掌をむねに押し当てる。

 次の瞬間、その男は弾き飛ばされて、壁にめり込んでいた。

 チャンプ達の本能が較を恐怖したが、チャンプの中途半端なプライドが逃げる事を許さなかった。

 アメフト出身のチャンプがタックルをかけて来るが、較は左手一本でそれを受け止め、相手の腕を握りつぶす。

 のたうち舞うなか、前進する較、残りのチャンプが一斉に襲い掛かる。

 較はジャンプする。

 チャンプ達は下降してきた所を狙おうと上を向いた時、愕然とする。

 較は天井に着地していた。

 天井から飛び下がり一気にチャンプの後に着地すると、そのまま数人まとめて投げ飛ばす。

 残ったのは、最初にあの発言をした、チャンプだけだった。

 しかし、そのチャンプは懐から拳銃を取り出す。

「へへ、下らないジャップが生意気な事をしやがって。今だったら泣いて土下座すれば許してやるぜ!」

 会場はどよめくが、較は平然と返す。

「撃てば?」

 そしてゆっくりと近づく。

「拳銃の怖さを知らないな! これだからジャップは嫌なんだ!」

 そう良いながら、拳銃を引き金を引く。

 弾丸は較の腹にあたったが、それだけだった。

 床に落ちていく弾丸。

 信じられないと連続して引き金を引く、結果は変わらない。

「防弾チョッキを着てるな。それだったら、その顔を!」

 そして顔面に銃口を向ける。その時には、較は直ぐ前に来ていた。

「ご自由に」

 チャンプが引き金を引き、弾丸は至近距離から較の顔面に当ったが、それだけだった。

 そして較は拳銃を握りつぶす。

 チャンプは腰を抜かしてしゃがみ込み、服の股間の色が変わる。

 較の拳がチャンプの顔に迫る。

「止めてくれ!」

 そしてチャンプの顔の直ぐ横に較の拳がめり込んでいた。



「結局、あの番組放映されなかったね」

 良美が教室で残念そうに言うのに対して、ぬいぐるみを作っていた較が当然の様な顔をして言う。

「話題のチャンプは全員病院に行ってるんだから無理に決まってるよ。それより、次は猫のぬいぐるみ作るんだけど、黒猫と茶猫どっちが良い?」

 そんな普通の話題に周りのクラスメイト達も加わる。

「断然黒猫よ!」

「何言ってるの? 茶猫それも虎縞に決まってるじゃない」

 しかし、彼女たちは知らない。

 ここで呑気にぬいぐるみを作ってる少女が、問題のチャンプ達を病院送りにした張本人だとは。

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