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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
世界編
16/45

迷宮で罠を張る牛

無敵の少女ヤヤのうちにある思いそして 第二部終了ボーナストラック付き

 ギリシャにあるミノスの迷宮を模した迷宮

「ヤヤ、大丈夫!」

 血まみれの較を見つめる良美。

 喋る気力すらなく、Vサインを出す較。

 そして壁に手を着き較が呟く。

「あちきは絶対勝つよ!」



「いつもいつも思うんだけど言っていい?」

「なに?」

 揺れる電車の中で、良美の質問に、読書をしている較が顔を向ける。

「何で何時も家に置いてきたはずの宿題が手元にあるの!」

 国語の読書感想文用の本を指差す良美。

 自分はとっくに終らせてあるので、関係ない趣味の本を読んでいる較は読書に戻りながら言う。

「基本的に同じ奴を複数用意してあるから。少しでも宿題進められる時に進められるようにね」

「別にそんなことしてまで宿題やる必要は無いとおもうけどな」

 良美の呟きに対して較は栞を挟み、本を置き言う。

「去年の夏休み、あちきが、海外遠征してて、三十日に帰ってきたら、宿題を一つも終らせてなかったのは誰?」

 良美はあさっての方を向く。

「あちきの旅に付き合って、宿題が出来なかったって言われたくないの」

「そんなあたしはヤヤの所為にはしないよ」

 良美の言葉に較は頷き言う。

「そうだね、ヨシはそんな事言わないね。その代り、無理やり手伝わせるけどね」

 頬を膨らませる良美。

「もーヤヤって、何時から教育ママになったの!」

「ヨシが家に居候する様になってから。一緒の家に住んでる以上、それ相応の責任を負うのが当然なんだよ」

 良美は読書感想文用の本で、お手玉しながら言う。

「ヤヤと一緒に旅してれば、宿題宿題って言われないで済むと思ってたのになー」

「そーゆー甘い考えは捨てて、とっとと読む!」

 そして較達は、電車の中で読書をしながら、ギリシャの田舎町へ向った。



 二人はギリシャの片田舎の町に降り立った。

「で、今回の相手は何者?」

 良美の問いにカードを見せながら較が答える。

「ミノタウロスのバッケン。自分のテリトリーであるここにある地下迷宮からは絶対出ず、必勝かつ敵を必ず殺してるA級闘士だよ」

 何時に無く真面目な較に、良美が唾を飲む。

「勝てないの?」

 その言葉に較は振り返って真面目な顔をして言う。

「あちき勝てると思って、勝負した事なんて無いよ」

 良美が首を傾げると較が言う。

「あちきだって、気を抜いた所を拳銃で撃たれれば死ぬんだよ」

 良美は信じられなかった。あの事件以来無敵だと思っていた較がこんな弱音を吐くなんて思わなかったからだ。

「あちきは負けたら死ぬ事を何時も心に止めてる。今まで何度か負けてて命があるのは、幸運だと思ってるし、次は死ぬと確信して戦ってる」

「死ぬなんて、いわないでよ」

 良美が怒鳴る。

 較は嬉しそうに言う。

「前は精一杯頑張ってそれでも駄目な時は仕方ないと思って居たよ。でも今は違うよ、ヨシが側に居るんだもんどんな事をしても負けられないよ」

 そんな較を良美はぎゅっと抱きしめる。

 そうすると、化け物じみた較の体が自分より小さい事を思い出される。

「ずっと側に居る、ヤヤが負けないように!」

「うん側に居て」

 そして二人はきつく抱きしめ合った。



 較は迷宮に入る。

「ミノタウロスってあだ名で、迷宮に潜むなんて明らかに自分を高める為だろうな」

 較がぼやくと良美がたずねる。

「自分を高めるって?」

 較は指を擦るだけで炎を生み出す。

「あちきの撃術みたいに超常現象を起こすには強い意志の力が必要になるの。その為に自分のモチペーションを上げるために色々やる人がいるの。因みに撃術の技名が神様や怪物の名前なのもその為だよ」

 その時、鼠が較を襲い掛かる。

 較は反射的に叩き落すが、次々に襲ってくる。

 較は両手を大きく開きそして閉じる動きと共に言う。

『フェニックス』

 そして両腕から炎が出る。

 本来ならば動物は炎を怖がり、近づかない筈のだが、その鼠達は怯む様子も無く突き進んできた。

 大技を使って隙が出来た較の脚に、何匹もの鼠が食いつくが、較は倒立と同時に回転蹴をする。

『トルネイド』

 両足が起こした風はまるで竜巻の様になり、周囲に居た鼠ごと弾き飛ばした。

「ヤヤ、大丈夫」

 良美が近づくと、両足から血を流した較が言う。

「早くバッケンを見つけないと、やばいみたい」

 そしてついさっき弾き飛ばされたばかりなのに、鼠達はさらに迫って来た。



 較は体中に鼠の噛み痕があった。

 入ってから三時間、敵の姿を捉える事は出来ないで居た。

 そして、執拗なまでの鼠の攻撃に較は確実に追い詰められていた。

 何時も楽勝してる較しか見ていない良美にとっては信じられない事だった。

「逃げるわけには行かないの?」

 良美の言葉に較は言う。

「この迷宮見た目は古風な癖に、機械制御されてて、もう出口閉じられてるよ。誰も逃がさない、念が入った細工だよ」

「だったら少し休んでて、少しだったら鼠くらいあたしだってなんとかする」

 良美の言葉に較は首を横に振る。

「これはあちきの勝負だよ。それに良美は見学だけでしょ。間違ってもこっちの世界に入ってきて欲しくないの解かって」

 その言葉に良美が悲しそうな顔をする。

「良美が選んだんだからね、見てるって」

 良美は涙を拭いながら言う。

「解かったずっと見ている。だから絶対に負けたら駄目だからね」

 較は大きく頷く。



 そして更に一時間経った。

「ヤヤ、大丈夫!」

 血まみれの較を見つめる良美。

 喋る気力すらなくVサインを出す較。

 そして壁に手を着き較が呟く。

「あちきは絶対勝つよ!」

 左手の平が壁に衝撃波を放った直後、右の拳がその衝撃の中心を打ち抜く。

『ツインテール』

 壁に大穴が開きそして目の前には肥え太った豚の様な男が高そうなリラックスチェアから立ち上がる。

「馬鹿などうしてここが解かったんだ!」

 それに対して較は笑みを浮かべる。

「あちきは無駄に迷宮を彷徨っていたと思ったの?」

 後に居た良美が言う。

「えっと隠れてた、こいつを探してたんじゃないの?」

 その豚男バッケンも思わず頷く。

「自分の迷宮から出ない男が、自分に通じる道を開けておく訳無いよ。鼠を操ってると解かった時点で、わざと大きく動いて、鼠のコントロール能力の強弱を見て、ここを割り出したんだよ」

 バッケンはあとずさる。

「逃がすと思う」

 較が笑顔を向ける。

 正に豚の様にはいずくばり、逃げ出そうとしたバッケンに較は一気に間合いを詰める。

 相手の両脇を撃ちぬく様に両手を打ち込みそのままバックドロップの要領で頭から地面に叩きつける。

『ミノタウロス』

 バッケンは完全に意識を失う。



「今回は辛勝だったね?」

 較は首を横に振る。

「今回も、もっとやばい戦いだって幾らでもあったよ」

 帰りの電車の中で読書をしながら答える較の体には、かなりの包帯が巻かれているが、元気そうである。

「ところで、途中で出たツインテールってどんな生き物なの?」

 良美の言葉に較はあっさりと答える。

「ウルトラマンで出てきた怪獣」

 なんとも言えない顔になる良美。

「それで良いの?」

 較は強く頷く。

「イメージだからね」

 良美は何か激しく違うと思う中、較は良美が本を読んでないことに気付き聞く。

「所で読書感想文様の本、読み終わった」

 良美は頷く。

「ばっちり」

 較は原稿用紙を取り出す。

「じゃあ感想を頑張ってね」

 良美が窓の外を見て一言。

「読んだ事は読んだけど、その後のバトルが激しくって忘れた」

 暫くの沈黙の後、二冊の本を取り出す較。

「同じ本もう一度読むか、違う本を読むか好きな方を選んで」

「えーもう本なんて一年分読んだから嫌よ」

 そんな言い合い結果、同じ本を飛ばし読みした良美の感想文は、たんなるあらすじになっていたとだけ言っておこう。



第二部 夏休み世界編 終了ボーナストラック



 八月三十一日 良美の家の一階の居間



「ねえ、一つくらい学校始まってからも良いじゃん」

 そんな良美の言葉に監視役の較が言う。

「そーゆー台詞は、書いてるなんていい加減な事を言って、最初の一週間しか夏休みの日記を書いていない人間の言うことじゃないよ」

「でも日記なんていい加減で良いんだからさー」

 あさっての方を向きいう良美に較は机の上に参考用にと広げられた自分の日記を指差して言う。

「この夏休みあちきとずっと一緒だったんだよ、違った行動とっていたって書いたら直ぐばれるに決まってるよ」

 確かに較の日記には良美の事が書かれている。

 そして小声になって言う。

「それと、間違ってもバトルに関係してる事書かれて無いかあちきがチェックする必要があるの」

「別に良いじゃないの?」

 平然と言う良美に溜め息を吐く較。

 そこに良美のお母さんが麦茶をもってやって来る。

「本当にごめんなさいね。この馬鹿娘の為に白風ちゃんの貴重な夏休みの一日潰させちゃって」

 較は笑顔で言う。

「良いんです、ヨシとは親友ですから」

 良美を横目で見ながら良美の母親が大きく溜め息を吐く。

「うちの良美によく、こんな良い友達が出来るなんて不思議ね」

「うるさい」

 その時、良美の妹、良華ヨシカが来る。

「ヤヤお姉ちゃん、宿題でわからない所あるんですが教えてください」

「おい、良華なんでヤヤに聞くんだ!」

 不思議そうな顔をして良華が言う。

「どうして? お姉ちゃんに良華の宿題解かる訳無いのに聞く意味ないじゃん」

 良美は額に血管を浮かび上がらせて言う。

「妹の宿題位、解かるわよ」

 そういって、良華の手からドリルを取り問題の箇所を見て、少し考えた後。

「ヤヤお願いね」

 あっさり較に渡す。

「良華ちゃん、こっちでやろうね」

 較は空いている方の机に移動する。

「はーい、ヤヤお姉ちゃん」

 いくつかヒントを教えた後、較は良美の側に行き、耳打ちする。

「今日までに宿題が終ったら、豪華客船の話しは有効だからね」

 その一言にがんぜんやる気を出した良美。

「頑張るぞ!」

 そして四苦八苦して日記を作り終える。

 内容は較の日記をアレンジしたレベルだが、一応生まれて初めて夏休みの宿題を終了した。

「ヤヤ、約束大丈夫だよね?」

 良美のその一言に較は宿題の確認をしながら答える。

「あちきは別に良いけど、何時行くの?」

 その言葉に良美が間抜けな顔をする。

「夏休みは今日で終わりだし、確か二学期は大きな空手の大会があるから部活休めないんだよね?」

「そうだけど……」

「あと文化祭や体育祭等イベント盛り沢山だよね」

「ヤヤ、それ知っててさっきあんな事言ったな!」

 怒る良美に、較は宿題を纏めて言う。

「まーね。でも勘違いしないでね、あちきは別に構わないから、来年でも行ける時に言ってくれればプレゼントするよ」

「本当だからね。約束したよ」

 指きりがするが、実際いける時にはすっかり約束を忘れたのはやっぱり良美であった。



 そして夏休み最後の夜は終っていく。

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