風水VS撃術
バトルにおいてトリックと本物の違いの意味とは?
香港住宅街にある屋敷
「さっきから色々起きてるけど、これって風水で起こしてるの?」
良美の言葉に較はあっさり言う。
「うーん、正直あんまりそんな事関係ないんだけどなー」
「関係無いってどういう意味?」
良美が頭に疑問符を浮かべながら問いに較は答える。
「これは、バトルで有る以上は、関係ないの。トリックがあるかどうかなんて」
更に疑問符を浮かべる良美の頭を抑えるとその上に炎の塊が通り抜けていく。
「まー、多分相手もその事実に気付いて無いけど」
「やってきました香港。中華料理に香港映画。ジャッキーに会えるかも!」
ハイテイションな良美に対して較は、お金を数えている。
「最初に言っておくけど、勝手に料理屋入っても、奢らないよ」
その言葉に凄く意外そうな顔をする良美。
「どうしてどうしてどうして! 億万長者が何けち臭い事いってるの!」
それに対して、較は今さっきまで数えていたお札を渡す。
「こないだの北海道旅行で、豪遊したことを家で言ったでしょう。おばさんからお金払うって言われたよ」
言葉に詰まる良美に較が通告する。
「色々話し合った結果、旅行に必要な最低限のお金以外は、自分で払わせる事になったの。それは、日本円で五千円分あるから、今日の食事代ね。その他の交通費や宿泊代はあちきが払うから必要ないよね」
「えー、それじゃあ北京ダック食べれないじゃん」
そんな良美の言葉を無視して、タクシーを止める較であった。
「おなかすいたよー。たった五千円じゃおなか一杯食べれなかったよー」
愚痴る良美を連れて較は高級住宅街に入る。
「ここに対戦相手が居るの?」
較が頷き言う。
「今度の相手は風水のレイロンっていう奴で、表向きは風水術の先生で、バトルでは風水で攻撃するB級闘士だよ」
「風水って何?」
良美の言葉に較は番地を確認しながら答える。
「簡単に言うと、風や水の流れを読む学問何だけど、世間一般では主に家を建てる時に用いられる所謂縁起担ぎの方面が強いの」
そう言ってから、門の前にある彫像を指差す。
「門の前にあーやって彫像を置くと外敵が跳ね除ける等、迷信めいた物が多いけど本質は、物の流を読み取り、その流れにそって行動する事で幸運を呼び込む事に有るらしいよ」
良美は彫像をつつきながら言う。
「ふーん、でもそれって攻撃に役立つの?」
較は腕を振り撃術を使う。
『ガルーダ』
突風が起きて、目の前に有る木を揺らす。
「風を起こして攻撃したり、逆に相手の攻撃を不可思議な理屈で防いだりしてるらしいよ」
「へー、便利なんだ」
良美が感心してるなか、較達は目的地に着く。
「ここが問題の風水のレイロンの家だよ」
「それじゃあいきますか」
呑気に先行する良美に較は一言。
「挨拶も無しに入るのは行儀が悪いよ」
その一言にこける良美。
立ち上がり較に、詰め寄る。
「そーゆー事は、これから喧嘩売る相手に気にするの」
大きく頷く較。
「人の家に入る時はちゃんとチャイムを押さないと」
そういって、平然とチャイムを鳴らす較。
『どちら様でしょうか?』
メイドらしい声に較はあっさり答える。
「バトルの対戦相手のヤヤです。入れてもらえますか?」
それには、メイドも対応に困ったらしくなかなか返答が来ない。
暫く時間が経った後、
『お待たせしました。御主人様が、応接間でお待ちです』
メイドに案内されて較達は応接間に移動した。
そこには、人にも人の良さそうな眼鏡をかけた中国人が居た。
「初めまして、鬼娘のヤヤ」
微笑み声をかけて来るレイロンに較も微笑み答える。
「初めまして、風水のレイロンさん。こっちに居るのがあちきの親友のヨシミです」
(因み日本語で会話しています)
「これから対戦するって言うのに呑気ねー」
そう言いながら席に着く良美。
較も後に続くと、レイロンも席に着く。
「しかし初めてですよ、チャイムを鳴らす闘士は」
「教育が良いから、人様の家に勝手に入っちゃいけないと知ってるんです」
レイロンの言葉に較が答えると、良美が続ける。
「因みにその教育に、人を再起不能にしちゃ駄目とか無かったの?」
「無かった」
あっさり言い切る較に苦笑するレイロン。
「所で貴女は風水を知っていますか?」
その言葉に、良美が言う。
「家を建てる時の縁起担ぎでしょ?」
その言葉にレイロンは苦笑する。
「ある意味正解ですね。広域の意味で言えば、世界の流れを知る学問です。そしてそれを知るという事は、戦いの流れを知ることになります。それが何を意味するかお解かりですか?」
そのレイロンの言葉に良美が較の方を向くと、較が答える。
「負ける道を潰していけば、必ず勝てるって事でしょ?」
「ご名答です。そして私はその術を手に入れたのです。この風水の力と共に!」
そう言って、腕を振る。
較は、テーブルを蹴り上げると、テーブルが切断される。
そしてレイロンの視界を塞いでいたテーブルがなくなった時、較は良美を担いで、ベランダに居た。
「こらー。人を荷物扱いするなー!」
「因みにこれから三階のこのベランダから飛び降りるんだけど自分で降りる?」
良美は少し考えた後に言う。
「降りてから離してね」
そんな較達が飛び降りる姿を確認してレイロンが言う。
「助っ人じゃないのか?」
そして少し考えてから、いやしい笑みを浮かべて言う。
「まーいい、私の『風水』の前では、例えA級闘士でも無力なんですから」
「トリックか風水か関係ないってどういう意味?」
良美の言葉に、突然発生する水の柱をあっさりかわしながら、較が言う。
「あちきからの問題。包丁を持っている相手と、包丁の様に斬れる手刀持っている相手どっちが怖い?」
その言葉に良美がうなる。
「そんなのどっちも怖いに決まってるじゃん」
頷く較。
「そーゆーこと、今起ってる現象がトリックであっても、そうでなくても、あちきにダメージを与える事には変わりないんだよ。だから今起ってる事が本当に風水で起こしていても、何らかのトリックであってもあんまり関係無いの」
「確かにそーだわ」
良美も納得する。
「でもこれってあちきに対しての事で、相手にとっては違うって事なんだよね」
そういって、振り返るとそこには、レイロンが立っていた。
「私の風水の力の前では、貴女がどれほど強くても、関係無い事が理解して頂けましたかな?」
較は腕を振る。
『ヘルコンドル』
相手を切り裂く衝撃波が、レイロンの前に立ちふさがった水の柱にあたる。
「面白い技ですね」
微笑み続けるレイロンに較は髪の毛を抜き投げつける。
『ベルゼブブ』
再び水柱が現れて、髪の毛が刺さり水が爆散する。
流石に表情を崩し、慌ててレイロンが怒鳴る。
「ブラスチック爆弾でも仕込んでる見たいですけど、私の風水には通用しない!」
較に向って土が盛り上がっていくが、較は地面を思いっきり蹴りつける。
『タイタン』
蹴りの衝撃が増幅して、土の盛り上がりを粉砕する。
そして地面の下から、不自然な金属片が顔を覗かせる。
「ヤヤあれってもしかして?」
良美の言葉に較が頷く。
「トリックの種だね」
「何のことでしょうか」
平然そうにレイロンが言うが、較は無視して続ける。
「多分この人の一番の能力は先読み、相手の行動を読んで、事前にトリックを仕込む。そして風水なんて言ったのははったりでしょうね」
何も言わないレイロンに較は続ける。
「多分慌てたでしょうね、あちきは普段は迎えうけるタイプだから、その準備してたのにこっちから来たからね」
較はゆっくりと近づく。
レイロンは必死に較を凝視する。
「最初に言っておくけど、いくら探してもトリックは見つからないよ」
ここにきて、レイロンは風水というはったりを捨てた。
「トリックで無い訳無い。何処の世界に腕を振るだけでカマイタチを発生させたり、髪が爆発したりする人間がいるもんか!」
それに対して良美が較を指差して言う。
「ここの世界そこに居るよ。あたしは、こないだ木の枝を操る奴見たよ!」
「はったりだ! トリックだ! そんな非科学的な事がある訳ない!」
必死に水柱や炎の弾を出す。
「改造したスプリンクラーに、火炎放射器を屋敷に仕込んでんだね。襲撃受けた時の用心?」
較は、ジャンプして避けて、空中で浮きながらたずねる。
「それもトリックだ! きっとピアノ線が仕込んであるんだ!」
較はゆっくりと地面に着地しながら言う。
「言いたいことはそれだけ?」
言葉を無くしたレイロンに無言で近づき、その胸に手を向けて言う。
『インドラ』
そしてレイロンは感電して倒れた。
「結局弱かったねあいつ」
屋台の椅子に座って良美が、隣に座る較に尋ねると較が苦笑する。
「あれは、只単にこっちのこけおどしにのって、馬鹿やっただけだよ。まともにやってればもう少し苦労したよ」
「どーゆー事?」
首を傾げる良美に
「バトルの最中にも言ったでしょ、トリックだろーがそうじゃなかろうが関係無いって」
「言ってたね。でもトリックだから楽勝だったんでしょ?」
較が首を横に振る。
「関係ないよ、レイロンの強さの秘密は先読みにあったの。トリックだったとしても不意打ちされたら駄目だった。問題はレイロンがこっちの技もトリックだろーと勘違いした事。トリックではないと思い、冷静に対処できれば勝てる可能性は十分あった筈だよ」
「色々複雑なんだねー」
そして、ヤヤの前だけに料理が並ぶ。
「ねーヤヤ奢って」
昼飯に全額使ってしまった良美が較に強請るが、較は一向に気にせず屋台で素朴だが、味わい深い中華を食べる。
「鬼、悪魔、人殺し、A級闘士!」
良美の非難の言葉は次の日まで続いた。




