アイヌの誇りの古今
北海道の山奥で行われるバトル。真のアイヌの誇りとは
北海道の山奥
「さすがに北海道は涼しいねえ」
呑気に背伸びをする良美。
「お願いだから、下手に動いて迷子にならないでね」
較のせつなる願いも、
「もー子供じゃ無いだから、大丈夫だよ」
良美に軽く無視される。
夏とは言え、雪解け水が川を作る山道を二人は歩いているのだが、実はもう良美は二度程、迷子になりかけていた。
較が気付くのが早かった為、大事に至らなかった。(その所為で本人はあまり気にしていない)
「所で今度の対戦相手ってどんな奴?」
較はカードを見せる。
「アイヌのカムイ、A級闘士なんだ。でどんな問題ある性格してるの?」
良美の問いに較は少し沈黙した後言う。
「どうして問題が、そこに行くの?」
「だって、A級闘士って皆性格に問題あるじゃん。ヤヤってバトルマニアだし、剣一郎は女に弱いし、聞いた話だと無臭のガンマンって小さい女の子集めてニヤニヤしてた、ロリコンなんでしょ?」
良美の半ば確信をした言葉に、較は先程より長い沈黙した後に答える。
「女の子が多いのは、小さい頃は男の子より女の子の方が成長早いのと、狙撃に必要な精密動作が得意なせいだよ」
因みに自分と剣一郎のフォローはしない。
「でも問題あるんでしょ?」
良美の言葉に較はしぶしぶ頷く。
「まーね、いまだアイヌの国を作ろうとしている位だからね」
「そーいえば、時々聞くけど、アイヌって何?」
良美の言葉に較が説明を始める。
「基本的には、北海道辺りの先住民族。本土に住んでる大和民族とは違う出で、一度日本の総理大臣が日本が単一民族だって言って問題になった話は有名だよ」
「知らない」
あっさり答える良美に、較が、溜息を吐く。
「先生が授業中に話してたよ」
「ごめん日本史の授業って寝てるの」
平然と言う良美に、ホテルに戻ったら絶対日本史の宿題をやらせようと心に誓いながら、較が説明を続ける。
「農業で生活していた大和民族と違い、狩猟で主に生活していたアイヌ民族は、数で圧倒する大和民族に蹂躙されたの。まー大和民族側は、言葉を着飾って誤魔化そうとするけど、アイヌの土地をどんどん摂取していったのは間違いない事実だよね」
「ヤヤって時々、そー突き放した発言するけど、駄目だよ」
良美の珍しい正しい突っ込みに、話を変える較。
「とにかく、今アイヌの国を作ろうというのはかなり難しいよ。特に日本領土内ではね」
「まー理想は高いのはいい事だよ」
良美の言葉に、何処からともなく、返事が返ってくる。
「理想では無い、われは、真実北海道をアイヌの国にする」
良美は驚くが、較は平然としている。
「人の理想をどうこう言う趣味は全く無いけど、今は北海道には多くの大和民族が居るけどどうするの?」
声の男、アイヌのカムイが現れる。
「われは、我らの広き心を知らず蹂躙した大和民族とは違う。住むことは許可してやる。ただし、生活はアイヌ式にしてもらうがな」
その言葉を聞いて較が言う。
「それってまさか今更狩猟で生活を維持しようと考えていない?」
「当然だ、我らアイヌは自然の恵みのみで暮すそれが正しき生き方なのだ!」
較は軽く溜め息を吐く。
「とりあえず言えることは、貴方は古い人間で、今生きるアイヌの人たちさえ受け付けられない異端者だってことだよ」
「世迷事を言うな!」
カムイの言葉に、周りの木々がうねり、木の枝が較に襲い掛かる。
「嘘?」
流石の良美もこれにはおどろく。
しかし、較は平然としたもので、木々が伸びるのとほぼ同じスピードで後退する。
三メートル進んだ所で、木々の動きが止まる。
「意外と有効範囲は狭いんだね」
較がそう余裕を持って言うと、カムイが言う。
「甘く見るな!」
較の後方の木の枝が伸びて、較の後頭部を狙うが、較は振り返りもせず。
『オーディーン』
手刀で枝を切り落す。
「それに操れる数もそう多くないみたいだしね」
「ヤヤ、冷静だねー」
良美の言葉に較は頷く。
「以前負けたS級闘士、十三闘神の一人、樹神のアポポロス相手にした時は、ジャングル中の植物が敵になっていたから、あれが本当の気が休まる暇が無いって奴だと思ったよ」
その言葉にカムイの顔に緊張が走る。
「質問」
そう言って良美が手をあげる。
「そのS級闘士って言うのはなんとなく解かるけど、十三闘神って何?」
「良美には説明してなかったけ、S級闘士だけは定員制で、最大十三名しかなれないの。でも十三名埋った時なんて過去に三回あったかどうかって話し。因みに父さんも十三闘神の一人、鬼神のエンって呼ばれてます」
「お前が例え、十三闘神と戦った事があったとしても、同じA級闘士、負ける言われは無い!」
カムイは連続して木々を操っていくが、較は全く動揺せず、全てを切り落していく。
「A級闘士同士の戦いは、相手のペースに嵌まらない様に様にする事が大事。逆言えば嵌まらなければ、そうそう負けないね」
カムイの方を向く。
「あちきは自分は正しい何て言うつもりはもうとう無いけど、これだけははっきり言っておくよ。今実際にこの北海道で誇りを持って暮しているアイヌ民族の人達を無視したあんたの考え方は大嫌い!」
右手を振る。
『ヘルコンドル』
カマイタチにも似た斬撃能力が、カムイの胸にクリーンヒットする。
そして較はカムイのダメージから動きを止めた木の枝を踏み場に木々の上まで飛び上がる。
『トール』
較は踵落しの体勢で超スピード落下、その脚は強力な電撃をどんどん帯びていく。
そしてカムイの右肩を撃ち込む。
肉が焦げる臭いをさせながらカムイが倒れていく。
「殺したの?」
良美の言葉に較は細目になって言う。
「あのねー、あちきバトルの非殺率は、A級闘士随一なんだからね」
そう言って、痙攣をしているがまだ心臓は動いているカムイを指差す。
「よく生きてるね?」
「伊達や酔狂じゃA級闘士にはなれないよ。普通の人間が即死するダメージ食らったって死にやしないよ。あちきだって、樹神にやられた時は、全身から物凄い量の血を流し、間違いなく致死量の出血はしてたけど、今生きてるよ」
本当に感心し、良美が頷く
「でも、ヤヤ言うとおりだね、過去に拘り今を見ないのは間違いよね」
「だからって、過去の事を知らなくて良い訳じゃないよ」
較の言葉に嫌なものを察知して良美は下山体制に入りながら言う。
「さー、ホテルに帰って祝賀会を……」
「帰ったら日本史の宿題するの!」
較の言葉に振り返り、良美が言う。
「今こそ大切で、過去のことなんて関係ないじゃん」
「現代は勉強しないといけない事に成ってるの。さー早く帰って宿題をやるよ」
ひっぱる較に、力の限り抵抗する良美。
「嫌だ嫌だ、折角北海道に着たんだから、うに丼食べるんだ!」
「宿題終ったら幾らでも奢ってあげる」
そんな緊張感の全く無い会話をしながら二人は下山していく。
結局、帰り着いたのが遅かったこともあり先に食事をする事にしたが、食事の後直ぐに寝てしまった良美は、帰りの飛行機の中で、較の監視の下で日本史の宿題をした。
日本史の宿題にアイヌ民族に関する事が入ってたりしたのは、天の気まぐれだろう。




