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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
激闘編
12/45

強さと弱さと親友

ヤヤの強さの原因そして良美と較の出会い

 雨の校舎裏

「やっぱりここだったね」

 良美の言葉に較は蹲ったまま顔も上げずに答える。

「何で来たの?」

 良美が腰に手を当てて答える。

「言ったでしょ、黙ってるのが後で解かったら酷いって言っといたよ。これから酷い目に会わせるんだよ」

「何の冗談?」

 較の醒めた表情に、良美が不機嫌そうに言う。

「ヤヤのクセに生意気な態度ねー」

「あちきはヨシの事、素手で殺せるんだよ?」

 較の淡々とした言葉に笑みで答える良美。

「冗談言わない。ヤヤ見たいな弱虫が、あたし殺せる訳ないじゃん」

『ヘルコンドル』

 そう言って手を振ると良美の頬に血の筋が現れる。

「これでもそう言える?」

 傷痕を擦り良美が言う。

「こんな傷じゃあたしは殺せないよ」

 良美は較に近づく。

「ヤヤは変わってない。ここで上級生に囲まれて困った顔をしている時と」



「あの子さー何時も一人でぬいぐるみ作ってて変じゃない?」

 小学校四年の時、良美のクラスメイトが較を指して言った言葉だ。

 他人と一線を引き何時もぬいぐるみを作っていた較は、良美には凄く弱々しく見えた。

 そんなある日事件が起った。

 その当時から幼い容姿だったが、可愛かった較が上級生の男子数人に囲まれて悪戯されようとしていた。

 較自身は、正直どうしたらいいか悩んでいた。

 当時もう、闘士として戦い、すでにD級だった較にとって小学生の男子数人など一分かからず殺せたが、ここでそれをやった場合、色々問題あるだろうと思ったからだ。

 その時、良美が現れた。

 スカートが捲くれるのを気にしない、思い切ったとび蹴りをリーダー格の男子の頭にヒットさせながらの登場であった。

「あたしの友達に何するの!」

 その後、殴り合いの喧嘩になるかと思いきや、すぐさま先生が来て、飛び蹴りを食らった男子を保健室に連れて行く事になり、お流れになった。

 先生から注意を受けたが気にしない良美と一生懸命良美を弁明した較は一緒に下校していた。

「ねー白風さん、較って変な名前ね」

 本人にずけずけ言える性格は、この頃からであり、改善される様子は無い。

「お父さんが、自分を他人と較べる事なかれって言う意味の反語で、つけたらしいよ」

「反語って何?」

 ついこないだ国語で習った筈の事をしらない様子の良美に、言葉を無くす較。

 較にとって、知識は力になるもの、教えて貰えるものはどんどん吸収しないといけないし、自分から教わろうとしないといけない。

 そう思っていたから九歳の頃からお世話になっている一美さんに料理を教えてもらっているのだ。

 それなのに、教わったばっかな事を知らない良美に驚きを覚えた。

「先週の国語の授業で習ったよ」

「そう。まーいいや。とにかく、くらべって言いづらいね」

 余り気にした様子も無い様に良美が続ける。

「お父さんや一美さんからは、ヤヤって呼ばれてる」

「ふーん。何で?」

 不思議そうな顔をして、質問を返す良美に、較が答える。

「較ってヤヤとも読めるからだよ」

「了解。それでヤヤお金持ってる?」

 良美は、そういって較の方を向く。

「少しは」

 実はいざって時の為に、数万円隠して持っている較であったが、財布には年相応に数百円しか入れていない。

「だったら帰りに買い食いしよ」

 悪戯に誘う悪友の言葉に、較は、正論で答える。

「でも下校途中に買い食いは規則違反だと」

「気にしない。それじゃーヤヤ行くよ!」

 そういって、その後も良美は較を引きずり回した。

 較も普通と違うと割り切っている自分を、普通の生活に引っ張ってくれる良美の事を大切な友達と思うようになった。

 だからこそ較は、良美だけには知られたく無かったのだ。

 闘士としての自分を。



「あの時は、相手を殺したら後始末が大変だと思って躊躇してただけだよ」

 自分で思い出に傷をつける痛みを堪えながら、較が言う。

「そんなの関係ない。一人で悩んでるのがあの時と変わらないって言ってるの!」

 良美が断言する。

「あちきは、化け物でピエロなの。戦って無いと駄目なの!」

 較の言葉に良美が真剣な表情で言う。

「その言葉、あたしを見て言える?」

 較は言えない。

 自分では納得しているつもりでも、良美だけにはそう思われたくない。

「ヤヤはヤヤ。あたしの親友で、どっか冷たい所もあるけど基本的には優しい女の子」

 良美の言葉に、較は首を横に振る。

「それで、料理が上手で、お菓子をよくあたしにただでくれる」

 当然の様に言う良美に、較が顔を上げて言う。

「お菓子はヨシが勝手に取ってるだけ!」

 良美が微笑む。

「ようやく顔を見せてくれた」

 堰を切ったように較が話し出す。

「ヨシには解からないの! 五歳の時にお母さんをバトル相手に殺されて。自分も殺されそうになった恐怖が!」

 そして立ち上がる較。

「それでお父さんの側だったら大丈夫だと思っていた。でも不安だから一生懸命お父さんの技を真似していたあの頃に、バトルとは全く関係ないロリコンの変態に強姦された痛みと恐怖も!」

 その言葉に流石に顔を顰める良美。

「そして、その男を自分の手で殺した時から、あちきは、闘士として生きるしか無いって思い知らされたの!」

 涙を流す較の頭に良美のチョップが入る。

 較は涙を流しながら良美を見る。

「本当にいっぱい黙ってたんだ。本気で許さないからね!」

 怒った顔をする良美。

「そーだ。これからは、あたしもそのバトルの対戦に連れて行く。そーしないと一生許してあげないからね」

 あまりもの展開に、さっきまでの悲しさや何やらの感情が何処かに飛んでいき、戸惑いだけが残った較が答える。

「でも、今回みたいに場所が指定されてる事って殆ど無くって。相手から責めてくる事もあるから、連れて行くのはむりかと」

「だったら、あたしヤヤの家に住む。そんで二十四時間体制でヤヤに張り付く。そうすればバトルに立ち会えるよ」

 良美のとんでもない提案に較が慌てる。

「駄目、危険だよ!」

「だったら、ヤヤがしっかりあたしをまもってよ。強いんでしょ?」

 良美の自分勝手な発言に、較は必死に説得をする。

「あちきだって勝てない相手だって幾らでもいるよ」

「関係ないよ。これはヤヤがあたしに黙って居た罰なんだから。罰はちゃんと受けないといけないよ」

 良美の余りに一方的な言葉に較は苦笑する。

「ヨシも変わってない。あの頃のままだよ。少しは妥協ってものを知らないと世間を渡っていけないよ」

 良美は雨が降りしきる中なのに、太陽(?)を指差し宣言する。

「関係ないよ。あたしはあたしの道を行くだけ。較はその後を付いて来れば良いの」

 較はその時ようやく、良美に勝てない事を理解した。

「因みに親の説得等はどうするの?」

「ヤヤに任せた。食費等はそっち持ちだよ」

 無責任な事を平然と言う良美に、苦笑する較。

「知ってるそれって世間では、紐って言うんだよ」

 良美は頷き言う。

「そうだよ。あたしはヤヤの首に紐をつけて、どっか行かない様に監視するのが仕事だよ」

「なんかあちき、鵜になった気がする」

 雨が降り、服がぼろぼろなのに較は、凄く暖かい気持ちになっていた。



「本当にありがとう」

 白風家のリビングで一美が良美に言った。

「親友だから当然の事をしただけだよ。第一、ヤヤのクセにあたしより強いなんて許せないもん」

 良美の言葉に苦笑する一美。

「あたしはずっと一緒に暮してたのに気付かなかった」

「ヤヤは優しいから一美さんに迷惑かけたくなかったんだよ」

 良美の答えに、寂しそうな顔をして一美が言う。

「でしょうね。でも気付いてあげたかった。気付いてあげられてたら、あんなに苦しませないで済んでたと思うから」

 そして、自分で淹れたお茶を飲む。

「怖くなかった?」

 一美の言葉に良美が手を見せる、その手は震えていた。

「怖くないわけ無いよ。でもそれって拳銃を持ってる人を怖がるのと一緒で、ヤクザの持っている場合と違って警察官が持っている場合は、平気なのと同じ。ヤヤがどんなに強くて怖い存在でも、ヤヤである限り信用できるの」

 嬉しそうな顔で一美が言う。

「ヤヤちゃんは本当に良い親友を持ったわね」

 その時、較が戻ってきて言う。

「ヨシ、もう少し家の手伝いした方が良いと思うよ」

「どうしたの?」

 首を傾げる一美に、較が答える。

「ヨシのお母さんに、あちきの家が最近お父さんが余り帰って来なくて怖いから、暫くヨシに住んでもらって良いですかって聞いたら。家事を全くやらない子だけど良いのって、いくつも具体例出されたよ」

 少しの沈黙後、良美が言う。

「ヤヤの家って、家事の大半は、ハウスキーパーの人がやってくれるんだよね」

 改善するつもりは無いようだ。

「本当いい親友を持ってるわね」

 苦笑する一美であった。

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