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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
激闘編
11/45

幼き闘士の狂気

中学生闘士その中に蠢く戦いに対する狂気の思い

 潰れたデパート

「貰ったぞ小娘!」

 そう言って、カードに書かれた対戦相手が、空中で仲間の一人の腹を割いて落下に入った較に襲い掛かる。

『イカロス』

 較の落下が遅くなり、男の攻撃が空振りで終る。

 男の背後に着地する較。

『ガルーダファング』

 較の左手の動きでの気流を増幅して出来た真空の牙は、男を一撃で戦闘不能に陥れた。



 戦闘終了が確認された後、姫子が較に近づく。

「それでは、報酬の方は……」

 姫子の後の壁に穴が開く。

 較の拳がめり込んだのだ。

「そんな事はどうでも良いよ」

 姫子は全身から冷や汗を垂らす。

「何で、三戦連続してC級とのハンデ戦なの?」

「それは、手頃な相手が居ない為で……」

 較はそのまま手刀で、壁を切り落す。

「解かったよ。所詮あちき達は金持の観客に媚を売るピエロだもんね」

「そんな事は……」

 姫子は弁明を聞くために振り返った較の表情を見て、何も言えなくなった。

「あちきは帰るよ。報酬はいつもどうりで良いよ」

 較がその場から離れた後、姫子は漸く恐怖に震える事が出来た。

「あんな表情を初めて見た。あれじゃあまるで飢えた肉食獣ですよ」



「ヤヤどうしたの?」

「どうしたってどういう意味?」

 下校途中に良美が較に問いかける。

「時々そーなるけど、何にイライラしてるの?」

「別に苛々してないよ」

 笑顔で答える較の顔を、両手で挟み良美が言う。

「何年親友やってると思ってる。較ってイライラしていると、ぬいぐるみ作らなくなるよ」

 真実である。本人は無自覚であったが、ここ暫く普段だったら作っているぬいぐるみを一体も作っていない。

「インスピレーションが浮かばないだけだよ」

 笑って誤魔化す較。

「まー良いや。悩み事が有るんだったらちゃんといいなよ。黙ってるのが後で解かったら酷いからね!」

「了解了解」



 本当に珍しい事に、良美が夕飯の買出しをしていた。

「あら大門さんじゃない?」

 良美が振り返るとそこには、一美が居た。

「えーと、一美さんですよね」

 一美が頷く。

「ええ、今日は家の手伝い?」

「妹が林間旅行なんです」

 良美の答えに、背伸びをする子供を見る目で一美が言う。

「普段はしてないのね?」

「そんな事は無いですよ」

 そう見得を張る良美に一美は、籠の中の牛乳パックを取り出して言う。

「買い物しなれてる人間は、ちゃんと後から牛乳とるものよ」

 そういって、製造日付が新しい牛乳と取り替える。

 おもいっきり、ばつがわるそうな顔をする良美。

 二人で買い物をする事にした。

「ヤヤって数ヶ月に一度、凄くイライラする時が有るんですけど、何か心当たりありますか?」

 良美が、心配そうな顔で切り出すと、少し戸惑った顔で一美が質問を返す。

「苛々してる?」

「そーなんです。本人は絶対認めないんですけど、まるで食事制限してる人間みたいな雰囲気になる時があるんです」

 良美は、はっきりしない問題に、少し苛々しながら答える。

「ダイエットしてるとかじゃないの?」

 一美の問い掛けに良美は首を横に振る。

「ヤヤって太るとか気にしないし、基本的に好き嫌い無い、普段から食生活は整っています」

 一美は健一と剣一郎の戦いの時の較を思い浮かべた。

 あの時の較は、一美が知っている較とは、明らかに違っていた。

「大門さん、何があってもヤヤちゃんと友達でいられる?」

 首を横に振る良美。

「そーよねー」

 一美が弱々しく同意した時、良美が断言する。

「友達なんて甘いものじゃありません。ヤヤとは永遠の親友です」

 一美が嬉しそうに言う。

「それじゃあ今度付き合って欲しい事があるんだけど、良い?」

 キョトンとした表情になる良美。

「良いですけどなんですか?」



 次の日、一美はある男性が止まっているホテルの部屋の前に居た。

「良く来てくださった」

 嬉しそうにそう言ったのは、剣一郎だった。

「お邪魔します」

 そして中に入る。

 洋風の外見のホテルの中にあるには、不釣合いの完全和風の作り。

「立派なお部屋ですね」

 剣一郎は、極々普通に答える。

「闘士をやっていれば普段は金に困る事は無い」

「でも負けた場合は報酬が出ないと聞きましたけど?」

 一美の言葉に剣一郎は淡々と事実だけを答えた。

「生活が出来ないほど負けている人間が生きてけるほど甘い世界ではない」

 一美はその一言に又一つ闘士の闇が見えた気がした。

「それで、話しが有るそうだが?」

 剣一郎は実は期待していた。

 あの時はあんな展開になったが、剣道場の娘として剣の実力がすぐれる自分に、改めて恋心を抱いたのではないかと。

「ヤヤちゃんの事で聞きたい事があるんです」

 一美の一言に、剣一郎の淡い夢が崩れる。

「大門さんの言葉では、ヤヤちゃんはこの頃機嫌悪いそうです。何か心当りはありませんか?」

 一美の質問に答えられる程、剣一郎が復活するのには、少し時間が必要であった。

「……この頃まともな試合を組んでもらって無いんだ」

「まともな試合を組んでもらっていない?」

 一美が問い返すと剣一郎は頷き続ける。

「ヤヤはA級闘士の中でも連勝を重ねている。その為下手な奴とぶつけても賭けが成立しない。どうせ賭けが成立しないのなら、ヤヤが一方的に責める非常識な画を売りにする事がある。そんなバトルにならないバトルをここ暫くやらされている」

「だからってどうして苛々するんですか?」

 一美には良くわからなかった。

「前にヤヤには言った事があるんだが、俺は闘士の前に剣士、侍だ。しかし、ヤヤは違うあれは、戦う事に脅迫概念を持って居る」

「脅迫概念があるのに、戦うのですか?」

 理解できない感情に戸惑う一美。

「脅迫概念が有るから戦うのだ。あいつは強い者と戦う事でなんとか自己証明をしている。戦わない自分は認められないのだ」

 剣一郎の答えに、一美は、母親が死んだ直後の較の事を思い出す。

 あの頃の較は今にも壊れそうに儚い存在だった。

 そして父親と一緒に旅をする生活をし、自分達と暮す様になった時には、その儚さが消えていた。

 父親との旅で何か強い芯を得たのだと思っていた。

「ヤヤちゃんにとって戦う事が自分の証明になるなんておかしいわ!」

 それに対して、剣一郎はお茶を入れて差し出す。

「まず飲んでくれ」

 一美は興奮している自分に気付き、そのお茶を含む。

「闘士の中にはよくある話だ。弱いままでは自分が死ぬ、より強い者と戦い強くならないと死んでしまう。主に小さい頃に他人に殺されそうになった人間が、よく起こす脅迫概念だ」

 その言葉に、一美の頭に浮かんだのは、強盗に襲われて死んだ較の母親と、その場に居合わせた較自身がどんな気持ちだったのかという疑問だった。

 そして、その答えが剣一郎が言った脅迫概念の下地になっている事を理解した。

「一つお願いが有るんですけど構いませんか?」

「条件がある」

 その剣一郎の言葉に唾を飲む、一美。

 あの後、較に剣一郎は結婚に異常な執着心を持っていると言う話しを聞いて居た。

 もし結婚を条件に出された時、自分はどうしたらいいのか正直解からない。

 較を救い出す為には、どうしても剣一郎の協力が必要不可欠なのだが、自分には健一が居る。

 しかし、較は救い出したい。自分にとっては、妹や娘みたいな存在なんだから。

「その条件ってなんですか?」

 剣一郎は真剣な眼で言う。

「貴女の元クラスメイトの未婚の女性を紹介して貰いたい!」

 全身から力が抜ける一美であった。

「そんな事でしたら任せてください」

「頼みます。私は……」

 熱弁する剣一郎を無視して一美がつぶやく。

「後は、大門さん次第ね」



「今回、私、死ぬかも」

 姫子が組織のエージェントに割り振られた部屋で呟いた。

 誰も答えない。

「私の前任者は確か、C級闘士との対決、四戦目の後入院したんだよね」

 姫子が振り返ると一斉に視線がそらされる。

「私が倒れたら、次は誰があの化け物の担当なのかしらねー」

 その言葉に全員が最悪な想像をする。

「私達の給料が高いのって、闘士の気分次第では、死ぬ可能性があるからだって言う話し本当よね」

 全員が全員給料が下がっても良いから、こんな仕事辞めたいと思っただろう。

 万が一にもヤヤのエージェントになったら、ほぼ間違いなく病院送りなのだから。

「あーあ。同じA級闘士だったら、一文字剣一郎の担当がよかった」

「冗談でしょ、会う度に結婚申し込まれたりするのよ。それも凄く真剣な目で。断った途端殺されそうで、はっきり断れないのよ」

 そういって剣一郎のエージェントが入ってくる。

「それに今回は、こんな変な雑用を頼まれるし」

「変な事?」

「ええ変な雑用よ!」



「またC級なんだね」

 その較の言葉に、明確な殺意を感じながらも姫子が言う。

「場所は前回と同じデパートでお願いしたいそうです。今回のハンデは、三階内から動かないで欲しいそうです」

「ふーん、何でもありのバトルなのに随分制限があるんだね」

 明らかに不機嫌さを増しているのに気付きながらも、命令違反をするわけには行かず話しを続ける姫子。

「ハンデが無ければ、まともな勝負になりませんから。よろしくお願いします」

「解かったよ。所詮あちきはただ戦うしか出来ないピエロですからね」

 そして較は潰れたデパートに向う。



 較は潰れたデパートの三階に上がると、そこには数十人の拳銃を持った男が居た。

 相手は較の姿を見て明らかに侮っていた。

「あんな小娘一人倒せば、二億円貰えるんだってよ信じられないなー」

「俺は、もう少し大きいと思ったから動けなくなった後犯してやろうかと思ったのにあれじゃ俺のでかいのは入らねえなー」

「お前のしょぼいのだったら丁度いいだろう」

 爆笑する一同に較は、誰一人として無事に帰すつもりは無くなった。

「人数だけは居るから少しは楽しめるかな」

 そして肝心要の対戦相手が言う。

「A級闘士だと言った所で、この人数で限定された空間どうしようも無いだろー」

 そして一斉に拳銃が構えられる。

「撃て!」

 一斉に拳銃から弾丸が放たれる。

『アテナ』

 無数の弾丸が較の体に当る。

 無論一発も較に傷を負わせることが出来なかった。

 較は男達に向ってゆっくりあるいて行く。

 何百発の拳銃の弾丸が較に当るが全く意味が無い。

 そして、一番手近の男、勝った報酬の話しをしていた男の顎が毟り取られる。

 拳銃はひたすら撃ち続けられる。

「来るな来るな!」

 較に入れようとしていた男は股間を変色させながら必死に拳銃を撃つが直ぐに股間を真っ赤に変色させる嵌めになった。

 男達はこの時になって、自分の目の前に居るのが、人間で無い事に気付いた。

 男達の脳裏に降伏すれば助かるのでは無いかと言う淡い希望を持ち、拳銃の射撃を止める。

「もう少し位抵抗してね」

 それは死刑宣告であった。



 無数の半死人の中で較が拳を握り締めていた。

「C級の癖に拳銃を撃つしか芸の無いクズだったみたいね」

 傷一つ無いが、服は破れ、もうその役目を果たしていない。

 ある意味扇情的な服装だが、ここに居る男達にそんな事を気にする余裕がある人間は居ない。

 正式な対戦相手はもう、両手を拳銃ごと踏み砕き戦闘不能にしてある。

 本人も必死に首を横にふり戦闘意思が無い事を示そうとしている。

「最低」

 そして止めを刺すために近づく。

「ヤヤちゃんもう止めて!」

 その声に振り向く、このビルの隠し部屋に人が隠れていたのは解かっていた。

 敵意が無いことから酔狂な金持が目の前でバトルを楽しみたいと、言ったんだろうと思っていた。

 以前に戦闘場所を態々指定してくる時、そーゆー事があったからだ。

 しかしそこには意外な人間が居た。

「一美さん、どうしてこんな所にいるんですか?」

 次の瞬間男の一人が動き、一美を人質にする。

「動くな化け物! 俺は一人で死にたくない。こいつを道連れにされたく……」

 男の言葉は最後まで言えなかった。

『ベルゼブブ』

 一本の髪が刺さると同時に男の手の骨が粉砕された。

 そして怯んだ次の瞬間、較は男の目の前に居た。

「人質を取らないで大人しくしてたら、一生ベットの上に居る必要なかったのにね」

 男の両肩に手を当てる。

『バジリスク』

 次の瞬間、両手から放たれた増幅された超振動が男の全身の骨を粉砕した。

 そして、一美の方を向いて言う。

「なんでこんな所に来たんですか、今みたいに危険な目にあう可能性が高かったんですよ!」

「そういう言葉は、銃弾の雨の中を突き進んだヤヤには、言われたくないよ」

 較はその時一番聞きたくない声を聞いた。

「ほら、あたしの方を向きなよヤヤ!」

 拳銃の弾丸すら恐れなかった較が、恐怖の表情で声のした方を向いた。

 次の瞬間、較は窓から飛び出した。

「待ちなさいよヤヤ!」

 そこには較が絶対知られたくなかった相手、大門良美が居た。

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