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最強を目指す者  作者: 鈴神楽
激闘編
10/45

剣道と剣術の違いと武の道

剣道と剣術の違いとは何か?そして闘士の進む武の道とは

 夜の剣術道場

「立会人は、あちきがやるけど文句はないよね?」

 較の言葉に剣一郎が頷く。

「そんなヤヤちゃんが審判で良いんですか?」

 剣一郎に寄り添うように立つ女性が、剣一郎と相対する男に聞く。

「関係ない、俺は己の剣のみを信じるだけだ!」

 そして、お互いに木刀を構える。



「それじゃー態々刀返しに来たの?」

 較の言葉に借りていた刀が入ったバックを較の横に置く剣一郎。

「ついでだ」

 戦う男の目をした剣一郎に較は椅子から腰を上げて、いつでも間合いを詰められる準備をとる。

「B級の幻影のルシオス倒したんだよね?」

「ああ、お前に負けてから暫くやってなかったから腕ならしだ」

「腕慣らしって相手じゃ無いでしょう。あいつは光の屈折を変えて、距離感を誤魔化す能力に特化した奴だけど、その利用の仕方は強かで、A級闘士すら倒した事ある奴だよ」

 較の言葉に剣一郎は手元にあるゴルフバックを示し言う。

「拙者の居合いに距離など関係ない」

 較もそれは知っている。

 しかしそれでも、間違いなく強敵だった筈で、それを肩慣らしですませる剣一郎の実力に一層の警戒心を高める。

 カードは組まれていない。

 だが、闘士の本質は戦う事、例えカードが組まれていなくても一度負けた相手を前にして戦う本能を抑えられるかは、保障の限りではないのだ。

「すまないが本題に移りたい」

 較の緊張が高まる。

「お前のクラスメイトに綺麗なお姉さんが居る奴は居ないか」

 緊張が全て消え去っていく。

「まだ言ってたの?」

「当然だ、拙者は長男、家を継がねば成らない。当然子供を作る必要がある。結婚を前提に付き合えればなんだったら二十未満でも構わない!」

「自分の年考えたら」

 もう、やさぐれた較は、真面目に答える気は無くなった。

「拙者は三十前だ、十八歳でもたった一回りしか違わない!」

「十二も違ったらそいつはロリコンって言われるよ」

「拙者はロリコンでは無い! その証拠にお前には欲情しない!」

 較のフルパワーガルーダで喫茶店の窓から外に押し出される剣一郎だった。

「無駄な時間を使ったよ」



「うーん、流石に欲情という言葉を使うべきでは無かったか」

 反省の仕方が微妙におかしい剣一郎。

「あのーそんな所で何をしているんですか?」

 剣一郎はその声をする方向を見る。

 後に剣一郎が語る、それは女神との遭遇だと。

 引っかかっていた木の枝から、殆ど重力を無視した動きで地面に着地し

「ちょっとした肉体鍛錬の一つです」

 その女性は手を合わせ感心した様に言う。

「まーそれは熱心な事で」

「大した事ではないですよ」

 その時、野球の硬球が飛んでくる。

「危ない!」

 女性が叫ぶが、剣一郎は平然と背中から来るボールを素手で受け止める。

「少年達、気をつけるんだぞ」

 そう言って、ボールを投げ返す。

 ボールは正確にピッチャーの少年のグラブに納まる。

 ここまでのやり取りで、剣一郎は一度も後を見ていない。

 女性から目が離せないのが本音だが、他人から見たら手品にしか見えない。

「あのーどうして、ボールが来る方向が解かったんですか?」

 女性のその素直な質問を投げる。

「大した事ではない。空気の流れを感じれば例え視界に無くても何処に何が有るか解かるものだ」

 剣一郎としては、そんな物はそれこそ子供の頃から出来た児戯で、誇る所など全く無い事であったが、女性は目を輝かせる。

「凄い! 心眼って奴ですね体現出来る人が居るなんて初めて知りました!」

「お嬢様大変です道場破りです!」

 一人の剣道着を着た青年が駆けつけてくる。

「本当ですか?」

 女性が怯えた表情をする。

「そんな今までそんな事が無かったのに」

 そして青年も頷く。

「実際道場破りって言ってますが何のつもりなんでしょうか?」

「道場破りを専門にやっている人間が居る事を聞いた事がある」

 二人の視線がいきなり話し出した剣一郎に集まる。

「元々道場破りは、強い剣士が居る道場に行きその道場破った事で自分の力を誇示する意味があったが、近頃は逆に道場の師範クラスを倒し、外部の人間にその事実を知られたくなければお金を出せとその道場を脅迫するらしい」

 道場破りが現実的に成る事でより一層女性の顔が青褪める。

「師範が居ない時に限ってどうしましょう?」

「お父様も年ですからそんな人達の相手なんか出来ないですし。どうしましょう」

 完全にパニックになった女性に剣一郎が言う。

「その様な無頼の者の対処でしたら拙者に任せてくだされ」

「貴方に?」



「どうした、ここの道場にはまともに剣を振れるものは居ないのか!」

 ヒゲ面でいかにも女にもてず、学生時代は剣道一筋だったと言い訳してそうな男が木刀を振り回し、道場の門下生達を威嚇する。

「我慢も出来ん男が、一人前の剣士を名乗るか」

「何だと!」

 いきなりの言葉にヒゲ面の男は怒鳴り返し、奥の扉から入ってきた剣一郎を睨む。

「ここには貴殿のような半人前の剣士と交える剣は無い。早々に立ち去って貰おう」

「ふざけおって! 俺に勝てる人間が居ないから追い出そうと言う腹積もりなんだろうが!」

 そう言って木刀を一振りする。

 それを見て門下生達が息を飲む。

 少しでも剣を齧っていれば、木刀の振り方一つで、相手がどの位の使い手なのか解かる。

 そして、ヒゲ面の男は青春を無駄にした(もう決定事項)だけの事はある振りであった。

 この道場の主人の娘である女性にもそれが解かったのか不安げな顔をするが、剣一郎は微笑み言う。

「すいませんが、あの半人前に、自分のレベルを解からせる必要が有るみたいだが、宜しいか?」

「でも、宜しいのですか?」

「任せて貰おう」

 そして剣一郎は壁に架かっていた木刀を取り、悠然と構えを取る。

 ヒゲ面の男は無意識に半歩下がるが、さっきの言葉が頭に再生されて、木刀を構える。

「上等だ行くぞ!」

 ヒゲ面の男の踏み込みは、それこそ全国大会に出場してもおかしくない位の物であった。

 しかし、剣一郎の剣はレベルが違う。

 男の木刀が振り下ろされる前に、剣一郎の木刀は男の首筋に当っていた。

 その眼光を見たとき、ヒゲ面の男は自分が虎の前に立たされた兎だと言う事を知った。

 そのまま言葉も無くその場に崩れるヒゲ面の男。

 何事も無かった様に木刀を片付ける剣一郎。

 誰の目にも、どちらかが勝者で、どちらかが絶望的な敗者かは明確だった。

「騒がせた」

 余裕たっぷりのその態度に誰もが飲まれた。

 自分達とは別次元に居る人間の剣と態度に。



「ねーねー、聞いた?」

 智代が女学生特有の、謎の質問形式で良美と較に話しかける。

「優子が先週、男の家庭教師の先生と一線超えたって噂だったらもう聞いてるけど」

「だからそれは嘘だって言ってるでしょ!」

 較の答えに優子が完全否定する。

「でも、一緒に買い物してたのって本当でしょ?」

 較の鋭い問いに顔を赤くして優子が言う。

「そ、それは前回のテストで、百点取ったご褒美で……」

 惚気モードに入るのが解かったので、良美がとっとと斬る。

「でどうなの智代?」

「違うよ。あたしとしては優子の件も気になるけど、良美にはこっちの方がいいと思うよ」

 惚気を続ける優子の言葉を気にしながら智代が続ける。

「ほら、較の家がある方に小さな剣術道場あったでしょ?」

「うん、あそこって規模こそ小さいけど師範のお兄さんが全国大会で優勝した事もあるし、道場主の黒林コクリン雄一ユウイチさんが教え方が上手いのと、その娘の一美ヒトミさんが綺麗なんで結構門下生が居る所だよ」

「もしかして、ヤヤの家のライバルだったりするの?」

 較は首を横に振る。

「お爺ちゃんの代の時は、何かどっちが護身向きだって門下生同士が争った事があったらしいけど。家としては仲は良いよ。お母さんが死んだあと、一美さんに預けられてた時期があった位だもん」

「そこに凄く強くてカッコイイ師範が入ったんだって。何でも道場破りをたった一振りで撃退したってはなしだよ」

「確かにそっちの方があたし向きだ」

「でしょ。それじゃああたしは、優子の方に回るから」

 智代は自分で振っておきながら優子の惚気話に入っていく。

「という事で、帰りにその道場まで案内してね」

「良いよ。あちきも久しぶりに一美さんの顔を見たいから」

 良美の言葉に、較があっさり同意する。

 因み、優子の惚気話は公園でキスしそうになった所まで話した所に、教師が来て少し問題になった。



「一美さんこんにちは」

 そう挨拶して較が道場の裏手にある家に入ると一美が出てくる。

「あらヤヤちゃんいらっしゃい。エンのおじ様は元気」

「こないだも、世界の裏側から、マイナー武術の蹴りの出し方の特殊性を、長々と話してくれました」

 較の少しだけ嫌そうな答えに苦笑する一美。

「変わらないわね。所でそちらのお嬢さんは?」

「親友の大門良美だよ」

「始めまして」

 較に紹介されて、頭を下げる良美。

「今日は、新しい師範の人を見に来ました」

 明るい較の言葉に、一美は笑顔で言う。

「そう。いま丁度道場に居るから見学してって」

 そして較と良美は道場に入る。

「ほら、相手をちゃんと見ろ。相手と自分その距離感こそが剣道で一番大切な事だぞ」

 剣一郎がそう指導をしている姿を見てこける較。

「あの人が新しい師範の先生で……」

「剣一郎! ここで何してるの!」

 較が怒鳴る。

「ヤヤではないか。見て解からないのか? 剣術の指導をしている」

 較は一度だけ良美をみてから、剣一郎を引っ張って外に出る。

「もう一度だけ聞くけど、裏で殺しすらするバトルに出てる人間が表の人間に何教えてるの?」

 較が真剣な表情で聞くが、剣一郎は、あっさり答える。

「剣道だ。これでも実家で剣術を教えてた事がある」

「日本三大剣術の一つ、一文字流抜刀術宗家の人間でもそんな事するんだ?」

 嫌味を含んだ較の言葉に、剣一郎は、気にした様子も見せずに答える。

「一部の高位師範達を集めて指導をするのだ」

 大きく息を吐いて較が言う。

「冗談はここまで、一美さんの道場の門下生の剣を汚さないで」

「殺しをした人間は人に物を教える資格が無いと?」

 剣一郎の言葉に、即座に頷く較。

「だからうちは道場をしめた。お父さんは人に技を教える事より、自分の技を磨く事をとったんだよ」

「ご立派な理屈だな。拙者は闘士の前に剣士であり、剣士は人を斬る者だ。刀は所詮人を斬る道具だ」

 二人の気配が戦闘モードに移行しようとした時一美さんが顔を出す。

「良美さんに聞いたんだけど、一文字さんと以前からの知り合いだったのね」

「そー、出会い……」

 較の口を押さえる剣一郎。

「ここで師範として雇って貰えるまで、副職しか出来ず、食事取れなかった時にヤヤにお弁当を貰った事がある」

「そーだったんですか。ヤヤちゃんの料理どうでしたか? ヤヤちゃんに料理教えたの、私なんですけど?」

「そうですか。食事をご馳走になった時に以前食べた記憶があったが、謎が解けた。もちろん一美さんの方が美味しかったがね」

 そのまま、較を置いて、道場に戻っていく二人。

「剣一郎の奴一美さんに惚れたな!」



 そのまま数日が過ぎた。

「結局一文字さんってどうなの?」

 良美の言葉に不服そうな顔で較が言う。

「師範としては優秀らしいよ」

「何か不機嫌ね。一文字さんの事がそんなに嫌いなの?」

 表情から較の気持ちを汲んだ良美の質問に、較が大きく頷く。

「行き倒れになるなんて人間として間違った生活しか出来ない人の事は好きに成れないの当然だよ」

「珍しいね、ヤヤが他人に対する嫌悪感を表に出すなんて。何時も嫌いでも言わないのに」

 暫く歩いた所で、良美が分かれた時、一人の見覚えが有る男を見つける。

「あれって確か、一美さんの道場の師範で全国大会で優勝した森田モリタ健一ケンイチさんじゃなかったっけ」

 較はあっさり声をかける。

「森田さん、こんにちは、今日は道場の方はいいんですか?」

 それに対して、まさに青春を正しく剣道に捧げ、ついでにマネージャーと恋仲だっただろうと推測される健一が答える。

「確か、白風道場の娘だったな。俺は、もう人に教えるのは止めた」

 その言葉に較は首を傾げる。

 較の印象では、まさに天職で、何れは一美さんと結婚して黒林道場を継ぐと思っていたからだ。

「何かあったんですか?」

 健一は手に持った包みを強く握り締めて言う。

「所詮こんな町道場の剣は偽者でしかなく、本当の剣術の前には遊びでしか無いって事実に気付いただけだ」

 較は反論はしない、前剣一郎が言った事は真実だとも思っているからだ正し、

「黒林道場は剣道道場ですよね。別に人殺しの技でしか無い剣術と、比べる必要は無い思います」

「お前に何が解かる! 俺は剣に全てを捧げたんだ! その剣で負けるなんて許されないんだ!」

 今の健一の言葉と同じ言葉を較は何度も聞いた事がある。

 そんな一般生活と相容れない人間だけがバトルに参加して、そして消えていく。

「自分の人生なんですから、自分を大切にすればいいんじゃ無いんですか?」

 言ってて説得力無いことは較自身解かっている。自分が間違いなく戦闘の強さを追い求める探求者であるから。

「俺にはこれしかないんだ!」

 そういって握り締めた包みの中身が何であるか、較は最初から気づいていた。

「日本刀を無闇に持ち歩くと捕まりますよ」

「大丈夫だ。俺はこれで戦う方法を見つけた」

 それがバトルだと言う事は較には十分予想できた。

 バトルを運営している組織は、各業界の狂気を内存した人間を常に探し、スカウトしてくる。

 その大半が只の殺し合いであるE級闘士のまま終るが、その中の一部の人間がD級、C級そしてB級にあがり、死と隣り合わせの戦いの中から常識を超越する術を手にいれA級闘士になる。

 一度入ったら抜け出せない、地獄の道であることを、較は良く知っている。

 そしてはっきり解かる事があった。

「止めなよ。健一さんに闘士の才能は無いよ」

 較の言葉に、健一は驚く。

「何で闘士の事を知っているんだ?」

「剣に人生捧げる覚悟があっても、人に技を伝えられる人間に出来る物じゃないよ」

 較は、即答するが、健一は、受け付けない。

「どういうことだ!」

「相手や自分を殺す覚悟だけじゃ足らないって事。身内を危険に晒し、自分のやっていることが、人からは単なる殺人ショーで有る事を認識した上で、割り切れるだけ良心を捨てられる人間じゃないと、闘士にはなれ無いって言ってるの」

 較の辛辣な言葉に、激怒する健一。

「ショーだと言うのか俺の剣が!」

「剣術は人を殺す術、そして今の世界で殺しの術は皆闇の中でしか生かせない。特に闘士は金持の道楽を提供するピエロ以外の何者でもないよ」

 お互いに沈黙する。

 沈黙を破り、較が言う。

「本物の闘士と戦えば直ぐわかるよ、ピエロになろうと、剣術を追求する狂った人間がどんなものか」

「バトルにでれば、解かるという事か?」

 較は首を横に振って続ける。

「今黒林道場で師範をやっている、一文字剣一郎は、闘士の中でもA級闘士って呼ばれる人間だよ。遣り合えば、剣術に人生すら捧げた人間がどういう物か解かる筈だよ」



「一文字剣一郎は居るか!」

 健一は道場に駆け込むと、第一声でそう言った。

「誰だ?」

 剣一郎のその言葉に、門下生達は嬉しそうに答える。

「一文字師範がここに入る前からここの師範をやっている森田師範です。長い間休んで居られたんですが戻ってこられたみたいです」

 剣一郎には、一美さんとの恋愛を邪魔するお邪魔虫とインプットされた。

 そしてその排除する為に、どちらが上かを明確にする方法の検討に入っていた。

 門下生の言葉から剣一郎を判断し、近づき健一が言う。

「お前に勝負を挑む。剣士としての真剣勝負だ!」

 剣一郎は内心小躍りしそうになるのを押さえ言う。

「気が進まないが良いだろう」

「それじゃあ、今夜一美さんが見ている前で木刀で試合する事で良いよね」

 較が勝手に仕切りに入る。

「俺達も観戦していいですか?」

 門下生の代表が質問するが、較は指を左右に振って言う。

「駄目だよ。男と男の真剣勝負だよ。一美さん一人居れば立会人は十分。わかるよね?」

 事情を察した古株の人間が、残りの門下生を納得させる。



「ヤヤちゃん、どうしてこんな事に?」

 相対する二人を心配しながら一美が尋ねる。

「これから言う事は、秘密にしといてくれる?」

 較の少し困った顔から何かを察して頷く。

「うちが道場畳んだのは、お父さんがバトルって裏賭け事の闘士に成ったからなの」

「そんな事だと思ったよ」

 そういって入ってきたのは、ここの道場主である、黒林雄一であった。

「何時頃からか、あいつの拳に黒い闇が纏わりついて居た。そしてヤヤお前もだな」

 較は素直に頷く。

「それってどういう事?」

 一美の質問に、雄一が答える。

「バトルの話しは、この世界にいれば嫌でも聞こえてくる。その中で最強と呼ばれる鬼神エンそして、その娘とされるA級闘士の名がヤヤ直ぐに解かった」

「ヤヤちゃんどうしてそんな事を!」

 一美に詰め寄られながらも較ははっきり言う。

「あちきはお父さんの子供なの。例えそれが金持向けのショーのピエロでも、戦いの中でしか生きられない生き物なの」

 言葉を無くす一美。

「そして一文字剣一郎の名も又聞いたことがある」

 雄一の言葉に較が言う。

「そうです。剣一郎もA級闘士で、あちきは一度殺し合いをした事あります」

「冗談でしょう二人とも生きてるじゃない」

 一美は信じたくない気持ちを込めてそう言うが、較は首を横に振る。

「本当、あちきも剣一郎も相手を殺す覚悟の元に戦ったの。死ななかったのは結果的にそうなっただけだよ」

 崩れる一美。

「今の世の中で武の道に生きるには、そんな闇の中しか無いのだよ。そして闇だろうと武の道を進むためには構わないと思う人間がいる。私には出来なかった事だ」

 較はその表情と口調から雄一さんも又、闘士としての狂気を潜ませた人間だった事が解かった。

「一美さんが居たから光に残れたんですか?」

 雄一は、較の言葉には答えなかった。

 当っていたのか外れていたのかは、その答えは多分墓の中まで持っていくつもりだろう。

「健一よ、事情は解かっている。お前も武の道を行くのならその男と剣を交えよ。自分が本当に闇に落ちる事が可能なのかその剣で確かめろ」

 健一は、師の言葉に頷き自分の人生を大半を費やして身につけた、上段の構えを取る。

 対して剣一郎は獲物が木刀なのに、まるで鞘に収めている様な居合いの構えを取る。

「なんで二人ともあんな構えをとるの?」

 道場の主の娘で、多少なりとも剣の事を知っている一美には不合理な気がした。

「健一にとって剣は攻撃であり、守りでは無い。自分の最大限の攻撃で、相手を倒す、それこそが健一の剣だ」

 健一の剣を雄一が説明すると、続いて較が剣一郎の剣を説明する。

「剣一郎にとっては居合いこそ剣。たとえ得物が違っても、やることは一緒なんだよ。相手の攻撃より先に、自分の居合いの一太刀が相手の胴を切り裂ければいいんだよ」

 較の説明に一美が驚く。

「切り裂くって、木刀で人を斬れる訳は無いわ」

 較は平然と答える。

「剣一郎の技は得物を選ばない。木刀でも十分人を切り裂けるし、その覚悟を持っているよ」

 緊張が高まる。

「一撃で決まるな」

 雄一のその一言が引き金になった。



「どうしてくれる」

 剣一郎の言葉に較は平然と答える。

「それじゃあ聞くけど、剣一郎は一美さんの為に剣を引ける?」

 剣一郎は何も答えない。

「それが答えだよ。一美さんは偶々、自分の言葉が届くと思った健一さんにすがって止めるように言って、その言葉に逆らえず、健一さんは剣を引いた。そんな剣を引いた健一さんを一美さんが選んだそれだけの事だよ」

「拙者にも機会があってしかるべきではないか?」

 すがる様に言う剣一郎に、較ははっきり言う。

「それじゃあ、剣一郎は同じ事されたら剣を引けた? 引けないよ闘士って進む道は細く険しいもんだよ。人一人通れるかどうかのね。だからお父さんは、お母さんを亡くし、あちきはお父さんの後から出てきた」

「拙者は若い女性と付き合いたい」

 一人いじいじする剣一郎を置いて、家路につく較あった。

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