その名はヤヤ
夜の工事現場で戦う謎の少女
夜の工事現場。
「漫画やアニメでは良く、酔っ払いが入り込むけどそんな事はそー無いよねー」
何気ない少女の言葉に男が反応する。
「だからと言って、警告なしにナイフを投げるのはいただけませんねー」
男の手には一本のナイフがあった。
微笑む少女。どんな場所でも明るく出来るそんな微笑である。
身長は、小学生高学年位で、屈託の無い表情をし、可愛いと表現していい顔立ち。
間違っても、夜の工事現場に居るべき少女では、無い。
少女はポニーテールの髪を弄びながら
「でも酔っ払いはそんな殺気を放たないよ」
苦笑する男。男は、一見優男に見えるが、服の下に隠された筋肉はプロの格闘家並みであった。
「殺気を感じられるとは、失敗しましたね」
ナイフが男の手から消え、少女の顔の真横にナイフが現れる。
「フェイントとしてはお粗末だよね」
ナイフを投げると同時に抜き手を放った男の左手の人差し指と中指が消えていた。
「手刀で指を切り落とすなんて、人間技では無いですよ」
脂汗を垂らしながらも隙を窺う男。
「別に普通の空手の人でも可能な事だよ」
平然と返す少女。
「その年で、そんな事出来ることが化け物の証拠ですよ!」
男が少女を蹴り上げる。
少女はあっさり蹴り飛ばされ、数メートル後方で着地する。
「そんな靴履いてると、救急車で運ばれた時に怪しまれるよ」
「残念ながら、未だ救急車に運ばれた経験が無いもので」
男の靴の先には尖った刃が見えていた。
少女は、お腹の所に開いた服の穴をしきりに気にする。
「これ高かったのになー」
「それは、それは私の靴の秘密を見破り、直前で後方にジャンプしたご褒美に、私が新しい服を買ってあげましょう」
そういいながら男は間合いを詰める。
少女は首を傾げる。
「それって間違いだよ。受けてからジャンプしたから」
「馬鹿を言うな、受けていたら腹を切り裂いていた!」
男の刃付きの靴でのまわし蹴りに対して少女は平然と言う。
「受けて折ったんだよ」
男の靴の刃が少女に当たる前に、蹴りの風圧で取れる。
男の動きが止まった。
次の瞬間、男の首に少女の髪が絡みつき、男は宙を舞った。
そして男は地面に落ちる事は無かった。
「暗器に頼る奴っていまいち、強くない」
不満気な顔をして少女は工事現場を後にする。
「何時見ても人間離れしているよなー」
事の後始末をしに来た作業服の男の言葉に周りの人間も頷く。
作業服の男の目の前には、鉄筋にめり込んだ指が足りない男が居た。
「今回も鬼の娘の勝ちですね」
「まー今回はC級相手ですから当然でしょう」
「そーそーせめてB級の闘士でなければ」
「ハンデは有ったんですがね」
「足技無しの上、左手一本で相手するって位ではハンデでも無かったと言うことでしょう」
金と欲が蠢く会場の中央の大画面では、空中に上げられた男が少女に左手一本で鉄骨にめり込まされる映像がリプレイされている。
画面の中央に一言、表示されていた。
『WINNER YAYA』






