Last kiss
「本当にこれで最後なの?」
ソファーで煙草を吹かしている彼に声をかけた。
彼はこちらを向き寂しげな笑顔を見せ、頷いた。
私は目頭が熱くなってくるのを感じた。けどどうする事もできなかった。
こらえる事も、思いっきり流してしまう事も。
涙が一筋、頬を伝った。
「瑞希…。泣かないでくれ。」
彼はそう言い下を向いた。
私は涙を拭い、左手の薬指につけられた指輪を外した。
「今までありがとう。」
彼と離れるなんて考えられなかった。
彼を失うなんて考えられなかった。
けど、彼を愛しているから。
彼を心から愛しているから。
彼の幸せが私にとっての幸せだから。
彼とはさよならすると決めた。
「最後に一つだけ、わがまま言ってもいい?」
まだ下を向いたままの彼に優しく問いかける。
彼は顔をあげこちらを向く。
辛そうな顔だ。
「そんな顔しないでよ。」
私はまた流れてこようとする涙をこらえた。
「最後にキスしてもいい?」
沈黙が流れた。
彼は私に笑顔を向けゆっくり立ち上がり手を差し伸べた。
「おいで。」
優しい笑顔。
いつものように私を呼ぶ声。
いつから私たちはすれ違ってしまったんだろう。
彼の元に近づき細い首に腕をからませる。
彼の温もり──
彼の唇──
彼の吐息───
忘れてしまわないように。
いつもより長く、唇を重ね合わせる。
あなたを愛していた日々を──
あなたと心が通じ合っていた日々を──
忘れてしまわないように。
忘れられないように──
そっと唇が離れる。
「いつかまた笑って会えたらいいね。」
精一杯の強がりを口にする。
そして再び彼の細い首に腕をからめ口づけをした。
あなたとのキスを忘れてしまわないように。
そっと。
そっと。
最後のキスを。