女性恐怖症と入学式
無事に佐ヶ見原第二中学を卒業した俺こと「朝比奈 真比呂」は佐ヶ見原市でも有名な女子高「奏吹台高校」に入学する事になった、男の俺がなぜ女子高に行かなければならなかったのかこれにはとある理由があったそれは――
「真比呂、荒療治にはなるがこうするしかないんだやれるな?」
そんな一言が俺への父の見送りの言葉であった、幼いころから女性への恐怖心を持っていた俺はそれらを治す為に女子高へほぼ強制的に行かされる事になった、最初こそ俺は反発したが無意味に等しかった……
「もう手続きとかもしちゃったんだろ? やるしかないじゃないか……自信はないけど」
俺は心底自分のこの境遇に不幸を感じていた、幼稚園から今日までずっと女性を遠ざけていた原因は何なのか自分でもわからないがこの状況についにしびれを切らせた両親がついに荒療治の手に打って出たのだそれが今日の入学式当日だ。
「それにしてもお前がここまで変わるとは思いもしなかったぞ、さすが祭だ世界的知名度あるヘア&メイクアップアーティストなだけはある」
「あらあら、貴方だって女性への言葉使いの指導から華道、茶道の基本的なマナーの指導まで女としての必要なことを叩きこんでくれたし、真比呂が男の子ってことはバレないと思うわ」
「あ、いや治してやろうと言う心遣いは息子としてはありがたいのだがここまで徹底的にやらなくても良かったんじゃ……」
「何を言う、お前の女性恐怖症を治す為なんだやるからには徹底的にやらないとな」
「そうよ、可愛い真比呂の為だもの私としてはもうこのまま女の子になってもらいたいぐらいだわ」
「……」
俺の父と母はお互いに声高らかに笑う隣で会話の中の内容が入れ替わっていることに呆れる俺であった……しかしこれで外見は女性そのものと言っても過言ではない、なぜなら俺はこう見えても母親似で自分でもかなりのコンプレックスになるぐらいに中性的な顔立ちにルックスだからだ……
「とりあえず入学式遅れるし……行ってくるわ……」
「気をつけてな、電車に乗り遅れるなよ」
「行ってらっしゃい」
両親は満円の笑みを浮かべながら俺を見送る……ってか絶対楽しんでるだろ?
「あー……スカートってこんなにスースーするのかよ女ってわっかんねーなー」
俺は両親を家に残して独り言を言いながら駅を目指す……が、ここで思いもよらぬ難関が待ち受けていた俺の家からもっとも近い駅は尾田急佐ヶ見原駅なのだが女性恐怖症の俺が通学路で最も恐れているのは女性専用車両への乗り込みである……
「……」
女性車両を見ると徐々に俺の顔がみるみる青ざめて行く、これは地獄絵図だ……いや、でも待てここは普通車両に乗るのもアリなはずだ絶対に女性車両に乗らなきゃならないって法律もないんだし……よし、ここは――
俺が隣の車両に移ろうと後ろを振り返ると一人の女の子が立っていた、思わず後ずさりをする俺に不思議そうに見つめる女の子。
「どうしたの? 乗らないの?」
そんなに近づくなって近い近い、背中に寒気が走るもここは女性恐怖症を治す為だ堪えろ俺!
「あ、いえ……その……」
「あ、もしかして普通車両に行こうとしてた? ダメだよこういう便利な車両があるんだから乗らないと痴漢とかにあっちゃうかも知れないしわざわざ乗りに行く必要なんかないって、ささ乗った乗った」
女の子はそう言うと俺の背中を押しながら女性車両に乗り込むとタイミング良く電車が目的地へと向かって動き出すそして――
「いやああああああああ!!」
俺の心の声が無情にも空高くへと響き渡るのだった……
それから数十分後、目的地の奏吹台前駅に到着すると電車のドアが一斉に開き今日入学する新入生、在校生達が一斉に電車を降りる。
「――っ……はぁはぁ……死ぬかと思った……」
「大丈夫? もしかして電車酔いした?」
息を切らす俺を横に女の子は心配そうに背中をさすろうとした瞬間俺は反射的に後ろにさがる。
「だだだ、大丈夫よ? ちょっとトイレに行ってくるわ先に行ってて」
俺は女の子にそう促すとそそくさと駅のトイレに向かったが思わず男子トイレに入りそうになり他の客には不審にみられたりして駅で行動するだけでもこんなに気苦労するとは思いもしなかった……ちなみに補足事項なのだが俺の女性恐怖症がどんなものかをここで説明しておく必要性がある。
まず第一に俺に女性が触れると触れた場所が拒否反応を示して湿疹が出て失神必至……かも、第二にある一定の範囲内に近づかれると悪寒が走る、血の気がひくなど諸症状が出るなど自分がどうしてこう言う体質になったかもよかわからんのが一番の理由だったり……
さて、長話もしているうちに奏吹台の坂道に差し掛かると何故か複数の視線が突き刺さる。
「あ、そうそう自己紹介まだだったよね? 私は寧々、夕崎寧々(ねね)あなたの名前は?」
「えっと、お……私はまひろ……朝比奈まひろ」
「えー! すっごい可愛い名前だね! それによく見ると美人……むぅ負けたぁ……」
何の勝ち負けの勝負をしてるのかわからんが肩を落とす寧々……けど待てどこかで聞いた事のあるような名前だ……思いだせん、まぁ気のせいか。
「じゃあ、私はまひろって呼ばせてもらっていいかな? もちろん私も寧々って呼んでも全然いいから」
「あ、うん……じゃあ寧々はどうしてこの学校に?」
「制服が可愛かったから……かな?」
「制服……?」
「そう! 制服! めっちゃめちゃ可愛くない!?」
キラキラと瞳を輝かせてる寧々だがまったく共感が持てない俺だが空気を呼んで適当に相槌をうっておく、そんなこんなであっという間に坂を登り切り昇降口で靴を履き替えその先にある掲示板を見る。
「えっと、クラス配置はっと……」
俺と寧々は掲示板に掲げられたクラス配置を記された紙を見上げる。
「えーっと……あ、まひろとクラスは隣……あー、別だね」
「う……うん、そうだね」
ガックリと肩を落とす寧々、その横では俺は内心ホッと胸をなでおろす、寧々は別に嫌いとかそういうのではないがこうやって仲良く(?)なった人がいるとろくでもないことがあるに違いがないと思ったからだ、でもよくよく考えてみると女性恐怖症を治すチャンスもあったわけだが今の俺にはまだまだハードルが高いわけであって……
さて、俺達は自分の教室に向かう、ちなみに俺は1-B、寧々は1-Cで隣同士のクラスだった、それぞれが教室に入るといきなり大歓声が沸き起こった……
「あの子よ! すっごい美人の子!」
「わー! 噂通りの美人さんだー!」
「名前なんて言うの? 教えて!」
様々な歓喜に満ちた声が教室に響き渡る。
「え……え? なに? 何なの?」
俺は周囲をきょろきょろと見渡す、誰に言ってる? もしかして俺? いや、だって俺はおと……あ、今は女だけど……そんなことをしどろもどろやっているとあっと言う間にクラスの女子達に囲まれる。
「ちょっ……」
「ねぇ、あなたすごい美人さんだけど名前は?」
「え……朝……朝比奈……まひろだけど……?」
「へぇ、朝比奈まひろさんって言うんだ可愛い名前だね」
一人また一人と俺に近づく女生徒達そして徐々に俺は窓際へと追い込まれる……誰か俺を助けてくれこのままじゃ死んじまいそうだ。
そうしているうちに教室の扉が開けられ担任と思われし女性の先生が教室に入ってくる。
「はいはーい! 皆席に着いてー、私は本日より皆の担任になった天宮寺晴菜です、これから君たちと共に3年間いろいろ学びそしていろんな思い出を作っていければと思いますのでよろしくお願いします」
担任教師は教壇に立ち挨拶を交わす。
「さて、今日は皆さんにとっては喜ばしい高校生活最初の最も記念すべき入学式です! 我が校では入試時にもっとも成績が良かった人を入学生代表として挨拶をしてもらいますがこの1-Cで上位合格者が一人います朝比奈まひろさん壇上へどうぞ」
担任が俺に視線を合わせてくる俺は席を立ち教壇の前に立つと少し息を整えそっと口を開ける。
「この度、成績を上位でとらせて頂いた朝比奈まひろです今回の皆さんの記念すべき入学式で新入生代表として在校生ならびに各教員の方々に挨拶をさせて頂く事になりました、宜しくお願いします」
俺は一通り挨拶をすると盛大な拍手を受け少々照れる。
「はい、では皆さん廊下に並んでクラス順に体育館に入ります、また学年代表者の朝比奈さんにはその先頭に立って入ってもらいますのでよろしくお願いしますね」
先生にそう言われると生徒全員がサッと廊下に出る、俺は学年全員が出揃ったことを確認すると体育館に向かい歩を進める、体育館は俺たち一年生の教室から階段を下りさらに渡り廊下を渡った先に位置する、俺たち一年の生徒は堂々とした態度で体育館に入り並べられた椅子の前に各々が起立するとさっそく入学式が始まった……だが……
「……きつい……」
入学式が始まったと言うのに皆の視線は講堂に向けられずに俺に向けられている、お前ら前を見ろよ……
さらには隣の女子がひっきりなしに俺にくっついてこようとしてくる、俺はそれを巧みに避けようとするが逃げ場がないって言うか下手に動けば先生に目を付けられかねない。
「ちょっと近い……」
俺は小言で隣の女子に話しかけたが相手は話を聞いてもらえない……このままでは俺の体が持たないどうしたら……そうだ!
「あ……あの、少しトイレに行ってもいいですか?」
少し恥じらいを出しながら近くにいた教師に話しかけ俺の入学生代表の挨拶までの時間稼ぎと言う強硬手段に出た俺はトイレへと足を運んだ。
「はぁ……なんかどっと疲れた、入学式でこれだもんなぁこれからも大変な事になりそうだ」
俺は便器に跨りながらがっくりと肩を落とす、なんでこんなこと俺がしなくちゃいけないんだよ……はぁ、不幸だ……
俺は腕時計に目をやり時間を見る、入学生代表の挨拶まであと五分か……そろそろ出て行くか。
「すみません、戻りました」
俺は教師に一礼をすると丁度挨拶がはじまろうとしていた、
「これより入学生代表による祝辞です、新入生代表1年B組朝比奈まひろ」
俺は進行役の教師に紹介されながらゆっくりと壇上に上がり長々と綴られている紙を広げて読み始めた。
「春麗らかな4月私達新入生は晴れて奏吹台高校に――」
祝辞も約3~4分はかけただろうか? 長々と述べた祝辞も昨晩必死に試行錯誤を繰り返してやっと書きとめたものである。
「――以上で新入生代表による祝辞を終わります」
長々と読んだ祝辞も終えると多大な拍手を受けながら壇上を降りた、この後は粛々と入学式が進行して無事に終えることができた。
「ふう……」
俺は自分のクラスに戻ると席に着き一息つく、今日は入学式と明日からの学生生活に必要な教科書の配布、各説明等を聞いて解散であるやっとこの地獄から解放されると思ったのだがそうはうまくは行かなかったみたいだ……
「朝比奈さーん!」
「まひろちゃん!」
様々な呼び名で一斉に俺に群がる女子達……いや、こうなるかなーって大体は予想はついてたけどさ……
「もういい加減にしてくれー!!!」
俺の安息の地はここにはないのか、俺の悲痛の叫がこだました。
はじめまして、作者の朱膳と申します。
この度は初投稿作品と言う事で緊張しています、まだまだ駆け出しと言う事もあって今は自分が書いてて楽しいっと思える作品を皆様にも読んで頂ければと思います。
カテゴリー的には「恋愛」となっておりますがどちらかと言うとラブコメ(?)っぽくなっています、主人公が悩んでいる女性恐怖症……はたして治す事ができるのでしょうか? これはまた後々読んで頂ければわかると思います。
まだまだ初心者ではありますが、いろいろとご指導ご鞭撻を頂ければ幸いですのでこれからも宜しくお願いします。
ではまた「俺が女装をして何が悪い!」第二話でお会いしましょう。