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呪われた王太子を助けてあげたのに、罪を着せられ殺されそうです  作者: 四折 柊


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5/13

ステラ5

 セリーナはこなかった。来ることができなかったのだ。キャンベル公爵家は失脚した。その知らせを聞いたとき、私は絶望し、力がまったく使えなくなった。

 宰相は項垂れる私を見下しながら、吐き捨てるように言った。


「思ったより役に立たなかったな。おい、連れていけ」

「私は……どこに行くのですか? 帰れるのですか?」

「ふん。お前は牢に入るのだ。本来なら死刑だが恩赦により減刑だ」


 私は乱暴に引きずられ重罪人を捕らえるこの塔に入れられた。

 見張りの騎士が気紛れに何が起きたかを教えてくれた。

 王太子の病は呪詛によるものだった。犯人はセリーナ。彼女は呪術師を雇い王太子を呪った。そして私を連れてきて救うことで王太子に恩を売った。それはキャンベル公爵家の権力を不動のものにする。私はセリーナの共犯者として捕らえられた。聖女と偽ったことも罪に加えられている。


「そんな、嘘でしょう……こんなことがまかり通るの?」


 セリーナは呪っていないはずだ。私の存在をセリーナが知ったのは偶然だし、セリーナは心から王太子を案じていた。それに私は自分を聖女だと言ったことはない。その証拠はないし取り調べも受けていない。さらに裁判も行われなかった。だけど罪と刑は確定した。私にはもう味方がいない。助かるすべがないということに絶望した。

 セリーナと王太子の婚約は取り消された。殿下にはすぐに新たな婚約者が決まった。その女性は宰相の娘で侯爵令嬢だった。その祝事で恩赦が下り死刑から無期刑になった。


 ここに来て何日経ったのだろう……。

 私は塔の中で、外の景色を眺め、粗末な食事を食べ、ただ眠る。それでもまだ諦めていない。まだ私の力は戻っていない。でもどうにかして外に出てみせる――。


 一日一回の食事は朝届けられる。今日は昼を過ぎても監視の騎士は食事を持ってこなかった。もしかしたら、もうこのまま忘れ去られるのか。弱気になっては駄目だと自分を鼓舞する。


 夜になると、カツン、カツン、カツンと階段を歩く音が聞こえて来た。ようやく騎士が食事を持ってきたようだ。

 私は差し入れ口を見たがそこに食事は入れられていなかった。ガチャガチャという音がした。扉の鍵を開ける音だ。鍵が開錠されると扉が勢いよく開いた。


「ステラ!」

「ル、ルカ……?」


 扉を開けたのはルカだった。私は弱った足で駆け出し、ルカに抱き着いた。


「ルカ、ルカ、ルカ、ルカ……」

「ステラ、遅くなってすまない。逃げよう」

「うん」

「こんなに痩せて……歩けるか?」

「歩くわ」


 ルカが手を差し出した。その手を取ろうとしたらルカは手袋をつけていた。それは私が編んだ手袋。まだ片手分しか編めていなかったのを思い出す。ルカの手を掴んだがすぐにへたり込んでしまった。足に力が入らない。

 自分が思っている以上に体力が失われていた。ここに来てから満足な食事も与えられていなかったのだから当然だ。ルカは私に背を向けるとしゃがんだ。


「さあ、乗って」

「でも、私重いわ」

「今のステラは軽すぎるくらいだ。さあ、早く!」

「ありがとう」


 そうだ、早くここから逃げないといけない。ルカには申し訳なかったが背におぶさった。ルカは私を背負うと塔の階段を慎重に降りていった。大きくてたくましい背中は温かい。ああ、ルカの匂いがする。ルカにもう一度会えた。鼻の奥がツンとして喉が震えた。堪えきれなくて嗚咽が漏れる。

 

 不意に昔のことを思い出した。子供の頃は私の方の背が高かった。一緒に木登りをしてルカが木から下りるときに着地に失敗して足を挫いたことがあった。そのときは私がルカを背負って家まで帰ったのだ。いつの間にかルカに背を抜かれていた。今はルカに背負ってもらっている。


「来てくれてありがとう」

「もっと早く助けたかったのに。俺のせいでステラをこんな目に遭わせてしまった。すまない」


 ルカは自分を責めていた。あなたのせいじゃない。


「違うわ。ルカは悪くない。あなたを助けられてよかった」

「この国から一緒に逃げよう。もう離れないから」

「うん」


 逃げ切れるかわからない。それでも二人一緒ならいい。きっとルカもそう思ってくれている。塔から出ると森の中を進む。


「向こうにボロ馬車を隠してある。それに乗ってこの国を出る」

「どうやって手配したの?」

「騎士団長さんが用意してくれた。金ももらってある」

「そう」


 アーサーは約束を果たそうとしてくれたのだ。見捨てられてなかったことに驚きながらも、感謝した。しばらく進むと馬車が見えた。だが、馬車の横に人影があった。


「誰だ?」


 ルカが鋭い声で問う。


「罪人が逃亡した。抵抗したので切った、といったところだな」


 そこには宰相がいた。そして私たちの後ろの木々の間から、隠れていた騎士が現れ囲まれた。


「罠か……」


 ルカが苦々しく呟いた。


「その女、力が戻ればまた使い道があると思ったが見込みがなさそうだ。それなら生かしておく理由がない。まとめて片づけてしまえばいい」


 宰相がそう言い放った瞬間、宰相の後ろに大きな人影が現れた。


「そうはさせない。宰相、お前の企みは露見した。呪術師を手にかけた騎士を捕らえてある。呪術師とお前のやり取りした手紙も見つけた」


 低い声が暗闇に響く。その姿が月明りで顕わになると、私は驚きに目を見開いた。声の主は騎士団長であるアーサーなのだが、以前見た風貌とは別人のようになっていた。厳しくも優しそうだった表情は消え、目は怒りでギラギラと怪しく光っている。頬はげっそりと削げていた。その姿は命を刈りに来た悪魔のように見えた。


「ステラさん、ルカさん、すまない。二人を囮にした。だが私はどのような手段をつかってもセリーナの敵を討ちたかったのだ」

「諦めていなかったのか。お前ら。アーサーともどもそいつらを殺せ」

「おい、やめろ!」


 宰相は冷酷に騎士に命じた。私たちの後ろにいた騎士はアーサーの制止ではなく、宰相の命令を実行するために動いた。アーサーはこちらに向かって走っているが間に合いそうもない。ルカは逃げられないと判断して、私を地面に下ろすと庇うように私に覆いかぶさった。


「ルカ。もういい。私を守らなくていいのよ」

「ステラ、ごめん。ううっ!!」


 騎士がルカの背中に剣を突き立てた。その剣先はルカの体を貫き私の胸元にまで届いた。私の傷は深くはなさそうだが、血が流れていることは感じた。まだ死ぬわけにはいかない。

 私はルカの体に腕を回ししがみ付いた。ルカの体から溢れる血が手を真っ赤に染めていく。知らず瞳から涙が溢れ出す。許さない。私からルカを奪うことを許さない。

 私は強く、心が張り裂けそうなほど強く願った。


(もう一度、ルカを助ける。いいえ、何度だって助けてみせる!)


 私たちは生きて幸せになる。一緒に死ぬのは今じゃない。しわくちゃになるほど年老いてからでいい。


「ス、テ……ラ……愛し……る……」

「私も愛してる。ルカ、また……すぐに会えるから」


 私は本能のままに力を解放した。

 すると二人の体は眩い光に包まれ……そして漆黒に呑まれ、溶けていった。




 *****




 最初に聞こえたのは鳥の囀り。眩しさに目を薄っすら開ける。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

 すぐに最後の記憶を思い出した。私は隣に視線を向けた。するとルカと目が合った。


「ステラ!」

「ルカ!」


 私たちは布団から跳ね起き抱きしめった。生きている! そして二人とも無傷だ。私は願った通りに力を使えた。時間を戻ることができたのだ。カレンダーを見れば、ルカが大けがを負う十日前だった。


「すぐにここを出よう」

「そうしましょう」


 ルカは商会まで走っていくと、田舎の両親が急病だと言い訳をして辞めさせてもらってきた。私は待っている間に荷物をまとめる。荷物は最低限のものしか持ち出せない。着替えと少し貯めたお金を袋に詰めていく。


「ただいま」

「おかえり。商会の方は大丈夫だった?」

「すぐに今までの給料を用意してくれた。見舞金までくれたよ。嘘を吐いたのは申し訳ないが金はあるほうがいい」


 私たちはすぐに出発した。追手がかかる可能性が高い。セリーナの手の者か、王太子の手の者か、アーサーかもしれない。

 ルカと相談して国を出ることにした。まずは国境沿いを目指す。


 二人一緒ならどこにいても頑張れる。

 私はルカの手をぎゅっと握った。ルカも応えるように握り返してくれた。

 この温もりさえあれば大丈夫だと思えた。




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