本当にあったちょっと怖い話
それは、私がまだ物書きを始めたばかりの時でした。
きっと他人事ではありません。
決して逃げてはいけません。
あの時逃げ出していたら、私はきっと――。
◆◆◆
仕事帰り。
先日から、自分の物語を形にしたくて「小説」を書き始めた私は、今もスマホの画面を見つめながら推敲を繰り返していた。
会社から駐車場までは少し距離がある。
ぶつぶつと独り言――は、言ってはいないが、画面から目を離さず、それでいてスタスタと歩く姿は少し怪しかったかもしれない。
今思えば、歩きスマホだったのでよろしくなかったと思う。
朝から夕方まで一日仕事をしたというのに、帰ったらまた家事という仕事が待っている。お腹も空いたな。
ちょっとした息抜きと称して、私は近くのコンビニへ寄ることにした。
車に乗り、エンジンをかける。
近くとはいえここは田舎だ。車で10分ほど走ったところでやっとコンビニに到着した。相変わらずスマホを見ながら店内へと入る。
自分の口と相談した結果、からあげと、値引きシールが貼られていたスイーツを購入することに。
お肉の大きさマシマシのカツ丼が目に入ったが、心を鬼にして我慢した。
多くの人が帰宅する時間帯だ。店内はそれなりに混んでいて、青い制服の店員たちがせかせかと客をさばいている。
レジ待ちの列に並びながら、また私はスマホを開いた。
少しでもレジ係が早く回せるようにと思い、事前にポイントカードと決済コードを表示しておき、その後は再び推敲に。
順番が来たので、私はからあげを注文し、手に持っていたスイーツをカウンターに乗せた。
店員は慣れた手つきでレジを操作すると、からあげを準備し始めた。すぐに食べたかったので、袋は不要と伝え、私も準備していたポイントカードを表示させる。
店員はそれをハンディーでピッと読み込んだ。
軽く礼を言うと、私は商品を手に持って店の外にでた。
目線はまだスマホのまま。
子どもの迎え時間まではまだ少し時間がある。
つかの間のひとり時間を車の中で過ごそうと、からあげをかじっていた。
その時だった。
コンコン——
不意に、車の窓が叩かれた。
知らない男だった。
でも、怪しさは見られない。
背中が少しだけひやりとした。冷たさを感じつつ、何事かと思ってドアを開けた私に、青い制服を着たその男は言った。
「あの……。お会計がまだのようですが……」
その時もし逃げ出していたのならば、私はきっとここにはいなかったことでしょう。
決して逃げてはいけません。
無視してもいけません。
顔から火が出ようとも、口からからあげを吹きそうになろうとも。
そして大きくハッキリした声で言うのです。
「すみませんでしたぁ!!!」




