表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1章1節 プロローグ

「10月16日、王城からの招待状が届きました。手紙を受け取ったグラシアンは少し嫌そうでしたが、私はほんの少しだけ恐ろしく感じてしまいました。もし、もしも私たちの行動が知られてしまったら、もうグラシアンとは暮らせなくなるかもしれない――そう思ったからです。でも、きっと大丈夫。グラシアンがいるから。そしてどうやら、私たちの功績をたたえて招待されたようです。けれど、ほんのわずかですが、何か——」

 ××××年10月16日。

 その日やけに豪華な封蝋の手紙が届いた。宛名は書かれていなかったが、ルミナはすぐにそれが自分宛ではないと気づいた。自分には手紙が届かない ―― そのことをルミナが一番よく知っている。だから、それはきっと、グラシアン宛のものだ。しかし、グラシアンはつい10分前にベッドに向かったばかりだ。最低でも2時間は眠っていて欲しい。とは言え重要そうな手紙をそのままにするのも気が引ける。わざわざ電話やメッセージアプリではなく手紙ということは、緊急な内容ではないだろう。だが、万が一ということもある。特にルミナたちにとっては。

 そんなこんなで、手紙を持ったまま、扉の前で迷っていた。開けるべきか、それともこのままグラシアンが起きるのを待つべきか。


 数呼吸のあいだ、扉の前で唸っていると、扉がゆっくりと開く、少し顔色の悪いグラシアンが出てきたのを見て、挨拶の言葉を口にする。


 「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」

 

 それに、グラシアンは首を横に振って、ふらふらと壁にぶつかりながら洗面所へ向かった。きっと、また眠れなかったのだろう。しばらくして戻ってきたグラシアンは、すっかりいつもの調子に戻っていた。

 

 「おはよう、ルミナ。さて、昼食は何がいいかね?」

 「パンケーキがいいのです!」

 

 グラシアンの柔らかな声に、自然とルミナも笑顔になる。グラシアンが台所へ向かったのを見て、共に動き出す。食卓を片付け、飲み物を準備する。今日は少し冒険して、グラシアンが最近気に入っているコーヒーを飲むことにした。砂糖とミルクを1セットだけ用意しながら、2人分のコーヒーを入れる。コーヒーを机に置くと、パンケーキを焼き上げたグラシアンが、机に皿を置く。蜂蜜をたっぷりかけて頬張ると、グラシアンは左右で色の違う瞳(ヘテロクロミア)を細めて微笑んだ。その笑顔を見るのが、ルミナは何より好きなのだ。

 

 食後、2人で今日の予定を確認し、特に仕事の依頼が来ていないことを確かめると、忘れないうちに、先ほどの手紙をグラシアンに渡した。

 

 「グラシアン、貴方宛に手紙が届いていたのです」

 

 グラシアンは手紙を受け取ると、一瞬、手が止まり、表情が消えた。それは、見間違いかと思うほど僅かな時間。瞬きをすると、もう、いつも通りの表情がそこにはあった。

 

 「ルミナ、今から1月ほど、何か大切な用事はあるかね?」

 

 突然の言葉に、頭の中で言葉の意味を考える。そんなルミナを見かねてか、グラシアンは手紙を見せながらため息まじりに続けた。

 

 「王城——王家からの招待状だ。先日の事件の功績をたたえて、特別に国王陛下の生誕祭に招待したいそうだ」

 

 “先日の事件”そういわれると、他にも事件に巻き込まれたように、思えるが、自分たちは探偵でもなければ、治安官でもない。グラシアンが経営しているのはただの画廊だ。それに、どちらかと聞かれれば、治安局に追われる側だ。

 けれど、その功績と言われたら1つだけ思い浮かぶ事件があった。

 

 

 9月20日、三日月の下――

 その夜、応接室にはまるで太陽を押し込めたような青年が大量の贈り物とともにソファを陣取っていた。

 

 「久しぶりだな2人とも!」

 

 眩しいほどの笑顔を振りまく、金髪と褐色の肌を持った男――カリーム・アル=ヌール。友好国であるラ=ケメト王国(太陽の国)において絶対的な権力を持つ商家、ヌール家の次期当主だ。月に1度、満月の日にグラシアンのもとを訪れ、”大量のお土産”を持ってくる。

 

 「贈り物はありがたく、2人で使わせていただきます!」

 

 ルミナはカリームがあまり好きではない。なんというか、こう、イライラする。今だって、ルミナの入れた紅茶をわざわざ隣に座る従者兼友人だというハーディムに毒見させてから飲んでいる。ルミナが毒を入れるとでも思っているのだろうか。

 

 「相変わらず仲がいいな!もちろん2人で使ってくれて構わないぜ!そのために持ってきたんだからな」

 

 嘘ではないが、本当でもない。ルミナの目がそう判断する。ルミナの目はアルカナ過剰適性症の影響で人の言葉が嘘かどうか分かる。

 カリームが持ってきた贈り物の大半はグラシアンにとって必要のないものばかりだ。グラシアンがこの2人に求める物は談笑中に得ることのできる”情報”だ。カリームもそれをある程度は自覚しているのか、ヌール家が不利になるような話はしない。ハーディムに至っては、カリームが口を滑らせようとするのを防ぐことすらある。他の情報はポンポンと渡す癖に、自分たちが不利になるようなことは絶対にしない。さすがは天下の大商人様というわけだ。

 

 「カリーム、そろそろ」

 

 ハーディムに急かされて、紅茶を”ドン”と机に置き、慌てたように話し始める。

 

 「ありがとうハーディム。グラシアン、実はな、今日は相談があってきたんだ」

 

 やけに神妙な顔をしたカリームは、ハーディム以外の従者を外に出し、簡易的な人払いを済ませる。

 

 「ほう?珍しいな」

 

 ルミナとしては厄介ごとに巻き込まれるのは、”モルス・アルバ”としての活動に支障が出る可能性があるから断ろうとしたが、グラシアンの興味を引いたようなので口を閉ざす。

 

 「昨日、この国で、俺の妹が殺された」

 

 背筋が冷たくなる。

 王城で、外国の有力商家の娘が殺された。そんなの国家の恥だ。しかもよりによって相手は”あの”ヌール家。何代か前の当主は娘の結婚が破談になったという理由で一国を飢饉に追い込んだと歴史書にも書かれている。そんな一族だ。

 

 「ふむ、詳細な内容を聞こうではないか」

 

 グラシアンの声に驚きや戸惑いは感じなかった。きっと、その情報はすでに知っていたのだろう。あるいは、カリーム達の様子から気が付いたのか、後で聞いたら答えてくれるだろうか。

 

 「死んだのは俺の5番目の妹で、たぶん2人も1回、合ったことがあったと思う」

 

 5番目かどうかは分からなかったが、カリームの妹を名乗る少女には確かに会ったことがあった。

 

 「確か、アイーダ嬢だったか?」

 「あぁ、歌が好きな子だったんだ。今回もこの国の歌姫の歌を聞くのを楽しみにしてたんだ」

 

 カリームはやや大袈裟に肩を落とし、悲しむ。嘘くさく見えるが、決して短くはない付き合いでこれが嘘ではないことをルミナは分かっていた。

 

「時間は午後9頃だったと思う。夕食の後、場所は王城で、」

 

 ここまで聞いてルミナは違和感に気が付いてしまった。今日は満月ではない、それに加えカリームは今日、約束なしに来た。商家の跡取りとだけあって、この男はそう言うところは案外ちゃんとしているのだ。ルミナの疑問に気が付いたのか、やや高圧的な笑みを浮かべて、グラシアンが問いかける。

 

 「そうか、所で、カリーム、貴様は、なぜ、今、ここにいる?王城で殺人が起きたにもかかわらず人を外に出すほどシルヴィナール(月の国)は落ちたのか?」

 「ん?もちろん抜け出してきた!」

 

 悪びれる様子の見当たらないその言葉に、グラシアンが「側近のハーディムが哀れでならないな」と言って、ハーディムに憐みの視線を向け、ハーディムが全くだ、とでも言いたげに肩をすくめる。一方のカリームは分かっていないのか、首をかしげている。よく見る光景だ。きっと”また”ヌール家の特権を使ったのだろう——カリーム本人は無自覚で。ヌール家の当主はなぜこれを毎回許すしているのだろうか?跡取り息子にそんな甘くていいのだろうか?

 

 「検死は?まだか?」

 

 カップを持ち上げてグラシアンがややあきれ気味に聞く。

 

 「あぁ、今、父ちゃんに許可をとっているところだ。一緒に来るか?」

 

 カリームはなんてことなさそうに聞く、その質問にグラシアンは一瞬何かを考え首を横に振った。だが、ルミナだけがグラシアンの本当の言葉の意味に気が付いた。言葉の裏に二重の意味を持たす、いつもの暗号。

 ”検死”......見逃すな、という意味だ。でもいったい何を?カリームを?

 

 「断る、後で結果さえ聞かせてくれればかまわない」

 

 続けて、合図が来る。”断る”ここでの意味はきっと、カリームではなくもう1人を、つまり、ハーディムを見ろ、ということだ。ルミナのこの嘘を見抜く目で。

 

 「分かった。久しぶりにグラシアンと出かけるチャンスだと思ったんだけどな。検死はまだだけど、死因はたぶん、毒を飲んだことによる窒息死だと思うぜ!」

 

 だからか、その言葉でルミナは少しだけ2人への不満を減らす。ハーディムが毒見をするのはいつものことではあったが、今まではあくまで同じポットから注がれたものを先に飲む程度だ、だが今日はカップにまで口を付けた。どちら共、ルミナの思っている以上には気を張っていたのだろう。


 ハーディムがポケットから5枚の写真を取り出し、机に並べる。

 

 「容疑者は全部で5人。まず始めに、お茶を持ってきたメイドの女だ、毒を盛ったのであれば、この瞬間が1番やりやすい。次に料理長、遅効性の毒や初めから茶葉に何かを混入したならこの男だ。3番目は第二王子についていた護衛の男、食事の前にアイーダ様にぶつかった、あの時何かした可能性はある。4番目はカリームの17番目の母親だ」

 「17?」

 

 聞き逃すには、あまりにも衝撃的すぎる言葉に、一瞬これが事件の話であることを忘れた。グラシアンはすでにカリームの母の多さを知っていたのか、特に気にした様子もない。

 

 「あれ?ルミナには言ってなかったか?俺には23人の母ちゃんと53人の弟妹がいるぜ!」 

 

 カリームがハーディムに同意を求めるが、即座に訂正の言葉が返ってくる。

 

 「奥様は26人で弟妹が63人だ」

 

 カリームの適当な言葉にハーディムはため息をつく。ルミナにはよく分からないが、家族が多いと、そう適当にでもなるのだろうか?

 

 「続けるぞ、唯一、奥様には明確な動機がある。アイーダ様自身に恨みはなかったはずだが、アイーダ様がいなくなれば、自分の娘が、アイーダ様と婚約予定だった者と婚約する確率が上がる」

 

 以前会ったアイーダはルミナよりも幼く見えた。政略結婚、、、この国にもまだ残ってはいるが、最近では滅多に行われない。......はずだ、少なくともルミナの住む世界では。

 

 「最後、大穴だが、第二王女、」

 「アナスタシア姫がか?理由は?」

 「ああ、アナスタシアは俺たちのことが嫌いなのか会うたびに睨まれちまうんだ」  

 

 グラシアンの疑問にカリームが悲しそうに答えた。

 

 「あぁ、彼女のそれは恐らく、元来の目つきによるものだろう。彼女にはアイーダ嬢を殺害するメリットがない」

 

 第二王女、ルミナも液晶画面の中で何度か見たことがあったが、グラシアンの言う通り、お世辞にも目つきがいいとは言えそうになかった。

 なんというか、常に不機嫌そう?な雰囲気を纏っている人物だ。

 

 「そうか、なら容疑者は4人だな!」

 

 容疑者が1人減っただけで、そんなに嬉しそうにする理由が分からなかったが、それを指摘するのは無粋な気がしてやめた。何せ、彼はつい先ほど、妹を失ったばかりなのだ。63人の中の1人とは言え。

 

 「カリーム、ここ数日、アイーダ嬢に変わったところはなかったか?」

 

 グラシアンのやや確信めいた言葉に、ルミナはこの事件の真相が分かったのだと察する。

 カリームは腕を組み、唸って考える。

 

 「う~ん、ハーディムはどう思う?」

 「そうだな、風邪気味なのかくしゃみが多かったような気がする。もっとも俺は基本的にカリームと行動を共にしていたから、正確な情報ではないが」

 

 ルミナはグラシアンを見る。今のハーディムの言葉のどこかに嘘が紛れていた。多分、何かを隠している、それも意図的に。自分に嘘だという自覚がなければ、それはルミナの目にも判断できない。


 グラシアンは指先でカップの縁をなぞりながら、ゆっくりと息を吐いた。

 

 「カリーム、アイーダ嬢の検死は取りやめてかまわない」

 

 これは言葉通りの意味もあるが、同時に、ルミナへの別の言葉でもある。——ハーディムの監視は続行。

 

 「犯人が分かったのか!」

 「いや、そもそもこれは殺人事件ではない」

 

 グラシアンはきっと最初から事件の真相に気が付いていたのだろう。でも、別の何かを求めてカリームから、いや、カリームとハーディムの2人から話を聞いた。

 

 「まず、アイーダ嬢は、毒を口にしたわけではない。それは殺人事件でもなんでもなく、ただの事故死だ」

 「事故死?」

 

 カリームの言葉に隠れてハーディムの口が動いた。笑ってる?なぜ?

 

 「あぁ、急激なアレルギー反応によるな」

 「ん?確かにアイーダはナッツのアレルギーだったけど、、、それは、事前に伝えて抜いてもらったはずだぞ!」

 

 カリームが机に身を乗り出し、紅茶が波打つ。

 

 「ナッツの他にアレルギーがある可能性は?調べなかったのだろう?」

 

 図星だったのだろう、確か、ラ=ケメト王国(太陽の国)の国王は、大の科学嫌いで有名だ。ヌール家とは言え、むやみやたらと自国の王に逆らうようなことはしないはずだ。だから、アイーダのナッツアレルギーも発症さえしなければ分からなかったはずだ。

 

 「......アイーダは何のアレルギーだったんだ?」

 「ルナリアの花だ」

 「......でも、ルナリアはシルヴィナールの国花のはずだろ?前回、アイーダと来たときには何ともなかったはずだ」

 

 ルミナも、カリームと同じ疑問を持ったが、次のグラシアンの言葉でそれが解消された。

 

 「あぁ、勿論、ところで、俺の記憶によると以前、アイーダ嬢が来たのは2月だったな?」

 「あぁ、俺もそう記憶しているぞ」

 「基本的にルナリアはシルヴィナール王国の、夜に咲き続ける花だ。だが、何にでも例外はある。2月は唯一ルナリアの花が閉じる月だ」

 

 そうなのだ、この国の2月はやけに雪が多く、いくらルナリアといえど、凍ってしまう。最も、雪や凍ったルナリアを見に国外からの観光客は後を絶たないが。


 「夕食後に亡くなったのは、食後のお茶にルナリアの花が浮かべられていたからだろう」

 「そういわれると、確かに、花が浮かんでいるって、アイーダがはしゃいでた」

 「どうか料理長を責めてくれるなよ、紅茶にルナリアの花を浮かべるのはこの国において歓迎を意味している」

 「そうか、分かったグラシアン!ありがとう。父ちゃんにそう話してみるよ!」

 「あぁ、念のためアイーダ嬢の血液検査だけはしてみてくれたまえ。そしてカリーム、最初に言ったがこれは紛れもない事故だ、、、誰の責でもない」

 「それも、父ちゃんに伝えておくな、できる限りではあるけど」

 

 その言葉に、今まで、やけに満足そうな顔をしていたハーディムが舌打ちをしたように見えた。この人はこの事件を切っ掛けにシルヴィナール(月の国)にダメージを与えたかったのだろうか?

 ヌール家の当主の怒りが向けば、王座が揺らぐことでさえ珍しくない。

 それを知っていたからグラシアンは最後に”誰の責でもない”といったのだろう。あくまでこちらは敬意を尽くしただけ、アレルギーの情報を正確に伝えておかなかった、そちらにも問題があるのではないか、と。


 2人が帰ったのを見てグラシアンに聞く。

 

 「これを仕組んだのはハーディムさんなのですか?」

 「いや、ただ彼はカリームに隠していただけだろう、アイーダ嬢が、ルナリアの花にアレルギー反応を示していたことを」

 「なぜ?」

 「おそらく、単に、答え合わせがしたかったのではないか?事件をヌール家が調べても、王家が調べても真相にたどり着くことは、いや、真相を表に出すことはないだろうからな」

 

 その言葉に、納得する。彼はこの事件の真相に真っ先に気づいた。でも、それを主人であるカリームに隠して、態々グラシアンのところに来た。そしてきっと、グラシアンに”正解だ、君の推測は正しい”とほめられることを期待したのだろう。

 ——だから笑ったのだ。前にも似たような状況は何度かあった。それが段々と過激になっているのだろう。

 だがそれとは裏腹に、グラシアンがハーディムを誉めることはなく、カリームに慰めの言葉を与えた。最期の舌打ちはそれが理由だったのだ。

 

 今までは、見逃していたが、そろそろグラシアンに迷惑をかけるようなら、何かしらの対処法を練った方がいいのかもしれない。グラシアンはきっと実害が出るまでは放置してしまう。いや、案外一度懐に入れた人物の好意には疎い人だ、ハーディムの妙な承認欲求に気が付いていないのかもしれない。

 そもそも出会った当初から気に食わなかった。異様なまでにグラシアンの承認を求めるあの目。蛇獣人特有の、絡みつくような視線。同じ混血だからって、自分がグラシアンと並び立てるつもりなのだろうか。いっそのこと、年下に甘いグラシアンに代わって、、、”違い”を、教えてあげなくては——

 

 

 何やら、若干危なげな思考へ飛びかけていたルミナの意識を現在へと引き戻したのは、グラシアンの深いため息だった。

 

 「生誕祭、絶対に行かなくてはならないのでしょうか?」

 「そうだな、いっそのこと郊外に逃げるというのも1つの手段ではあるが、さすがに王族直筆の招待状となれば、断ると後に差し支える」

 

 ルミナもグラシアンも、調べられると困るところばかりだ。何しろまず戸籍が捏造されたものだ。もちろん、そう簡単にばれるようなものではないが、万が一にも”モルス・アルバ”とつながってしまえば、暗い塀の中で過ごすことになってしまう。

 平和のための活動とはいえ、犯罪は犯罪だ、それもネット上にいくつもの伝説を残す大犯罪者。

 

 「さて、気を取り直して、準備を始めるとしようか、ルミナ」

 

 グラシアンはもうすっかりと吹っ切れた様子で、胸に方手を当て、もう一方の手をこちらにを伸ばしている。とりあえずグラシアンの手を取り、疑問を投げかける。


 「買い物ですか?」

 「あぁ、国王の生誕祭ともなればいつもの服装で行くわけにもいくまい」

 「なるほど、そうと決まればさっそくお出かけの準備なのです!」

 

 一旦互いの部屋に戻り、出かける準備をする。

 互いに化粧も着替えも済んでいるから、やることと言えば荷物を整理するだけではあるが。先に支度が終わったのはグラシアンのようで、手袋を家用の物から外出用のハーフグローブに変えていた。

 外に出ると、今の季節は冬だからと、グラシアンがコートを羽織らせてくれる。ルミナはアルカナ過剰適性症のせいで特に寒さを感じることはできなかったが、ありがたくそれを着る。

 

 「買い物はいつものブティックに行くのですか?」

 「いや、できるだけ足がつかないようにしたい。ルミナ、少し遠出になってしまっても?」

 「もちろんなのです。どこへ?」

 「エトワレットル王国(星の国)だ。服飾に関して、あの国に並ぶとこはないからな」

 

 そう決めると電車に乗りエトワレットル王国(星の国)に向かう。ルミナにとっては生まれて初めての外国だ。窓に映る風景が見慣れた物から色鮮やかなものに変わっていく。胸の奥で小さな花が咲くように心が躍った。電車に揺られること約1時間。ようやく2人は目的地へと到着した。両国の間に検問なんてない。9年前のアルカナ大災害まではあったらしいが、今はもう、そんな無駄なことを行っているのは雲華帝国(雲の国)くらいだろう。

 

 「グラシアンはエトワレットル(星の国)に来たことがあるのですか?」

 「あぁ、昔、何度かな……」

 

 ということは、ルミナと出会う前ということだ、そして付け加えるとすると、グラシアンが言葉を濁すときは決まって、前のモルス・アルバでの活動時期だ。グラシアンが、今は裏切者と罵る人物と並んでいた時期。

 

 街を歩き出すと、ちらほらと視線が集まってくる。

 グラシアンの美しさは毎日見ているからよく知っている。光を受けて輝く長い白銀の髪、吊り目気味の瞳は左右で違う色をしてる。右は灰青、左は赤だ、左目の下に並ぶ2つの黒子が、グラシアンのミステリアスさをよりぐんと高めている。その前では、血色の悪さも、薄化粧でも隠れない隈でさえも、美しさを飾り立てるアクセサリーにしかならない。

 

 集まってくる視線の内、何個かはルミナに引き寄せられたものもあるが、それはグラシアンの数パーセントにも及ばない。

 もちろんルミナは自分の容姿に自信がある。藍色の髪はグラシアンとお揃いのシャンプーを使っているし、赤い瞳はグラシアンとお揃いだ、ついでに左目の黒子も。

 何度もよく似ているとも言われた。それはルミナにとって最高の誉め言葉。


 目的としていた店につくと、1人の店員が出迎えてきた。

 

 「店長殿に国王の生誕祭の服を新調したいと伝えてくれ」

 

 店員はやや驚いた様子であったが、店の奥に案内すると紅茶と菓子が運ばれてきた。

 少しすると初老の男が姿を現れ、恭しく膝をつくとアベルと名乗った。

 

 「グラシアン・グラキアリスだ。本日はよろしく頼むアベル殿。こちらは——」

 「ルミナ・グラキアリスと申します。同じくよろしくお願いするのです」

 

 名乗り終えると、アベルは向かいに腰を下ろし用件を確認する。

 

 「来月に控えたシルヴィナール王国の国王様の生誕祭でのお召し物でございますね?」

 「あぁ、参加は最終日だけのつもりだから1着ずつ頼む」

 「かしこまりました、デザインはどのように?」

 「そうだな......」

 「ルミナはどうしたい?」

 「そうですね、、、今とそこまで大きく変わらない物、でしょうか」

 「そうか、では、ルミナの物はゴシック調のカジュアルドレスを、俺の物はそれに合わせたデザインで、他は貴公に任せる」

 「それはそれは、腕が鳴りますな。では採寸の後、色をご提案しましょう」

 

  採寸を行うためにそれぞれ別室に向かった。

 

 「ルミナ様ドレスに対する要望などはございましょうか」

 

 女店員の問いに、どうしようかと考えたが先ほど伝えた以上の希望はなかったため、そう伝える。

 ルミナが戻るとグラシアンとアベルは既に採寸を終えていたようで、何やら小声で話していたが、ルミナが来ると口をつぐんでしまった。

 アベルと店員は何か話すと何枚かの切れ端を持ってきた。

 

 「お2人にお似合いになる色ですと、この中にあるものたちが最もふさわしいと思います」

 

 出された中の一色に惹かれた。ブルーグレイの布は角度によってキラキラと輝いて見える。それがグラシアンの左目と同じ色に見えたからだ。きっと、良く似合う。

 

 「どうやら決まったようだな」

 

 配送先などの細かいことを決め終えてから、従業員たちに送り出されて店を後にした。

 

 「ではぜひ、またお越しくださいませ」

 

 やや見送りが過剰なような気もしたが、気にせず街を歩く。

 グラシアンの髪飾りが壊れたのもあってか、行きよりも多く人に見られている気がする。

 

 「さて、ドレスは決まったが、装飾品はどうする?」

 「どう、とは?」

 

 その言葉に、グラシアンは心外だとばかりに顔をゆがめる。

 

 「俺の画廊では一応、装飾品の類もある程度扱っているのだが?」

 

 そういわれて、ようやく思い出す。週に3回ほどしか開けていないから経営、というよりも趣味ではないかと思っていたところだ。大体そんなことをしなくても、生活には困らないのだから、そろそろ本当に趣味だ。

 

 「それは、趣味ではなかったのですか?」

 「趣味を兼ねてはいるが、割と利益は出ているぞ。それに、上流階級とのコネを作るのにも役立っているしな」

 

 後半はともかく、話を聞くにやはり趣味の様だ。

 

 「どうせなら、すべて、買いに行きましょう!先ほど壊れた、髪飾りも新調しては?」

 「では、そうしよう」

 

 何店か回って、その場で買えるものは購入して、メインとしている拠点に送ってもらう。何個かは今回の件に関係なさそうなものもあったが、互いに気にしない。

 

 そのまま夕食も外で済ませて、買うべきものももうないが、先週好きな漫画の新刊が出たのを思い出して、グラシアンに本屋に行きたいと伝えた。

 

 互いに目的とする本は違うので、買い物が終わったら入口付近で落ち合うことを約束して分かれる。

 グラシアンが近くにいないことを確認して素早く、目的地に向かう。女子向けの本が多く置いてある場所の一角、男性同士の恋愛が書かれている本を何冊か手に取る。表紙の男性はどれも髪の色が明るく長い人や左右で目の色が違う人ばかり。それをたまたまだと言い訳して、少し離れた、少女漫画がおいてあるコーナーに足を踏み入れる。

 手に取った本は”イケメンの兄に愛されすぎて幸せです”と書かれた本の3巻。

 頭の中でサングラスを掛けた知人がため息をついた気がするが、気にしない。むしろその人物をかき消すようにして会計に向かう。そんな態度をとっていても、その知人がルミナの買った本を興味深そうに読んでいるのは知っているのだ。

 

 すっかりあたりが暗くなってから2人は帰りの電車に乗る。そして、そのままエトワレットル(星の国)を後にした。

タグ、わかんないです。間違っていたら申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ