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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第11章 再起

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第97話 第11章 再起 第9節 ReTake

「ReTakeはその名の通りやり直しだね」

「リズムとしての時間はあるけれど、帯としてつながっている時間なんて存在していないんでしょ?無いものをどうやって巻き戻すのよ」


「巻き戻さないよ。やり直すだけだよ」

「言っている意味が分からない。あなたの言う『やり直す』ってなに?」


「僕たちはね、情報伝達をする『なにか』だということはさっき話したよね?で、全てはつながっているというか同一だということも伝えたよね?だから『これはマズいなぁ』という状態、つまり『人間の存亡にかかわるきっかけが生まれたんじゃないか?』っていう情報を全員共有しているんだ。その段階で合意が取れれば、その瞬間の世界の全てを複写しておくんだよ」

 美咲は頭を抱えだした。


「ここまで相当背伸びして、頑張って聞いてきたんだけれどね。もう大概にしなさいよって感じ。いよいよこの世のコピペとか言い出したわよ。良いわよ。乗るわよ。どこによ?そんなコピーどこに作るのよ?」

「人間がブラックホールと呼んでいるのがそれだよ。事象の地平線の向こうがわ」


「……つまりパラレルワールドってこと?」

「うーん、概念にもよるけれど、多分違う。放棄された世界の生物は、すぐに死に絶えるよ。人間やその他動物、単細胞生物や植物を合わせた生物は、肉体や細胞などの『ネタ』に僕たちがつながると『命』になるんだよ。肉体に魂が宿るみたいな言い方になるのかな?僕たちはReTakeによって、コピー先の世界に移る。いや、空間なんて無いからこの世界にも向こう側の世界にも僕たちは行き来する、だから移るわけではないんだけれど、例えば悠太君の種にマッチするアニマはごく限られているから、そのアニマが新しい種にくっつくと、今の悠太君は抜け殻になる。だからブラックホールの外側?にある世界の生物は死に絶える」

「ちょっと待ちなさいよ。悠太君を殺すなんて絶対に許さない。この場であなたを先に殺すわ」


「待って待って。死に絶えるって言葉が悪かったね、ゴメン。魂が抜ける?の方がショックが少ないかな?悠太君をモデルとして話すとね、今回やり直す段階では悠太君と同じ肉体はまだ出来上がっていないんだけれど、悠太君のお父さんとかお母さんの肉体は出来上がっているんだ。前回僕らが人類滅亡の危機として複写を行ったのは1993年だからね」

「……1993年?なにがあったの?」


「インターネットと呼ばれるWWW、ワールドワイドウェブの普及が一気に進んだタイミングだね。クリックだけで情報にたどり着ける、初のブラウザ『Mosaic』がリリースされて、ハイパーリンクという概念と共に提示された。インターネットが商用利用に解禁されたのもこの時。ヨーロッパのセルン(CERN、欧州原子核研究機構)が、WEBページを作成するためのソースコード『HTML』を無料公開したから、誰でもWEBページが作れるようになった。そして現代ではグーグル、ビング、ヤフーが主流だけれど、これらのプロトタイプと言える検索サービス、アーチ、ゴーファー、ベロニカが登場したんだ。情報の重要性と、人間の弱さや傲慢さを知っている僕たちは、これは人類の危機かも知れないと全員が感じた瞬間だったんだ。ちなみにその前は1962年のキューバ危機の時ね。あの時も核ミサイル撃ちあいになったからね」

「あの時『も』って、あの時は核ミサイルの打ち合いにはならなかったし、『も』って言うからには、それ以外にも核ミサイルの撃ち合いがあったってこと?」


「キューバ危機の時は多分3回か4回やり直してミサイルを撃たない道にたどり着いたんだよ。今回の流れだって、共産主義国が日本生意気だ!核攻撃する!ってなって、アメリカやイギリスが先に叩く!みたいになって、ものすごい沢山の数のミサイルが飛んだんだよ。だからReTakeがかかった」

「……さっきからね、流れを追って理解したいのに、次から次へと疑問が生じちゃうから、全体として理解できないのよ。まったく!つまり、共産主義国が日本生意気だってなってReTakeしたのであれば、しかもやり直しが1993年からであれば、すでに私は2回……そのぉ、悠太君と、出会い、恋に落ち……ってことなの?」

「美咲ちゃんが悠太君と恋に落ちたのは2回以上だね。今回のMORSウイルスがらみ以外でも、僕らが歴史の転換点とは気付けなかった、遺伝子編集技術の開発。これが開発されちゃって、おかしなことをして、人類滅亡危機が数回あったからやり直している。たぶん美咲ちゃんと悠太君は5回か6回か……もっと夫婦をやっているはずだよ」

「悠太君と6回も恋をやり直しているだなんて、もうそれはすっごく満足なんだけれど……だって初めて会った品川のカフェから、問題が起こるまで平均20年として、120年分も夫婦やっているんでしょ?でもなんで毎回恋に落ちるの?私と悠太君の愛の、運命の深さなの?私たちは特別?だって、いうならば、歴史を変える事を目的にやり直しているんでしょ?なのにどうして私と悠太君の出会いは変わらずに結婚できるの?」

「原則的には『なるべくしてなっている』から変わらないんだよ。まあそれを運命と呼ぶなら運命だし、宿命と呼ぶなら宿命だ。サイコロ振るのと違って、大きな運命という川が流れていくのと同じというか。コピーしておいた同じ肉体に同じ魂が宿るから、結局同じ流れができる。もちろん川岸の石が川の中に転がり落ちたり、ほんの些細な部分は変わることもあるんだけれどね。思い出の品が、焼き小籠包ではなく、月餅になっていたとかね。逆に言うとね、だから人類を滅亡への歴史から、存続への歴史に変えるのが大変なんだよ。そういう流れを変えなければならないからね。何度もやり直さないと上手くいかないこともある。ちなみにだけれど、悠太君と初めて会った時に、なんだか運命の出会いみたいな感じがしたでしょ?」

「この人と結婚するって思った。乙女漫画の主人公みたいに。自分が気持ち悪かった。そもそも、コピーしておいた肉体は、なぜ腐敗しないのよ?」

「僕たちがつながっていないから、細胞分裂が始まっていないからね。岩と同じだよ」

 真理雄は当たり前の顔をして言った。


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