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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第10章 覚悟

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83/103

第83話 第10章 覚悟 第3節 思っていたのと違うっていうのはよくある事よね

【アリシアの初報331日目】

「美咲ちゃ~ん。相変わらずの美人ねー。こっちが本当は外に出したくない光也。伊藤光也ってだるまさん。美咲ちゃんより失礼な口のきき方をするけれど、まあお仲間ってことで許してあげてね」

「はじめまして。僕は冴ちゃんよりかはずっと社会性が整っていると思っている伊藤です。どうぞ、よろしく」

 二人をダイニングに通した美咲は、自分もいつもの場所に座った。

「さて、美咲ちゃん。だいたいわかっている前提で良いんだけれど、相談とは何?」

「アリシアがMORSは共産主義国が作ったバイオ兵器であると確信している訳ですが――」

 光也は自分で持ってきて口に当てていた、ペットボトルの濃い緑茶を噴き出した。

 冴子は眉間にしわを寄せて言った。

「あらあら。ごめんね美咲ちゃん。ちょっと想定外。ガンマ株の次のデルタ株では完全弱毒化が見込まれる。ちょっと痰がでるくらいになる。だから政府の色々な方針も転換期が近い。でもこんなことを発表して、違ったら学者として干されちゃう。だからその確認のためにアリシアは富岳と検算していた。って流れをNSSでは想定していたのよ。今日の相談はこれからの、規制緩和に向けてだろうと予想していたし。だから最後に光也を紹介しておこうと思って連れてきたわけだし。まあ思い返せば、光也の誘導が強く入っていたかも……」

「冴えちゃんだってノリノリだったじゃん。でも僕の嘘の流布力はやっぱりすごいよね。我ながら惚れ惚れだ」

「美咲ちゃん。だいたいわかっているとか言ってごめんね。順を追って説明してくれる?」

 美咲はキッチンからハンドタオルを持ってきて、光也に渡した。

「簡単に言えば、国立感染症研究所のワクチン設計チームが、ゲノム解析をする中で、アリシアはエントロピーとか……まあ自然界の自然変異とは思えない様な特徴のある変異を見つけた。それはアルファからベータの時も。ベータからガンマの時も同様に。状況証拠から考えて共産主義国に間違いないと思うけれど、それは証拠が何もない。で、今回富岳の力を借りて追跡調査を行ったってことだと思うのですけど」

「ちょっと光也、あなたアリシアが何のために頭良くなりたいって相談してきたのか、聞いていなかったの?」

「ウイルスの追加調査だって。言ってたから嘘はないね」

 玄関ドアが開く音がした。

「ただいま~、疲れた~、ってお客さん?」

 悠太が帰ってきた。

「あ、冴子さんこんにちは」

「悠太君久しぶりね。こっちはうちの伊藤光也ね。美咲ちゃんを男にして、太らせて、不細工にしたバージョンよ、空気読めなさ過ぎて、人前に出したくない私の部下よ。よろしくね」

「いえ、それはもう美咲ちゃんじゃないですから」

「空気読めないわけじゃないんだ。読んだうえで自分の道を譲らないだけ」

「……わかる」美咲がつぶやいた。

「美咲ちゃん、わからなくて良いから。全然違うから」悠太が美咲に言った。


――

「という訳で、アリシアはMORSウイルスを共産主義国の人工ウイルスだと結論付けている。今回のガンマ株も、アリシアと小曲博士たちの予想では、R0=7以上、致死率40%近いと踏んでいる。変異の都度悪質なウイルスになっていく。まあ一般的なものとは逆よね。一般的にウイルスは、自分の生き残り策として弱毒化していくものだから。で、こんなこと私に相談されてもどうしたらよいかわからないから、冴子さんに来てもらったの。これはまさに、国家安全保障にかかわる事でしょ?」

 美咲の話が終わるか終わらないかの食い気味で、光也がスマホをテーブルの上に置いた。

「アリシア、僕のスマホからスピーカーホンで話すよ。この部屋内はオープンだと思ってね。なんでこんな手間をかけるの?初めから強烈なウイルス撒けば良い」

「伊藤さん。私は医療特化型のAIです。軍事や政治については勉強不足で正しいお答えはできません。ですがもしかすると『実験という名の本番』なのか『本番という名の実験』なのかもしれないとは考えられます」

「ああ、つまり、最高のカステラと最高の羊羹を一緒に食べるか、色々なメーカーのシベリアを食べ比べるか?」

 冴子は腕を組んだまま光也を見つめた。

「テストとして河南省で人間に感染させたら、思いのほか感染力が高く、致死率が高かった。もう止められないぜ!ってなっちゃった。もしくは感染の広がり方や、各政府の動きを見る事が目的だったけれど、思いのほか順調だから、このままやっちゃうぜ?とか、そんなことかしら?」

 アリシアが応えた。

「冴子さん、私は冴子さんが考える流れの前者が近しいと予想します。根拠はありませんが、河南省の完全ロックダウンが事実であれば、まさに前者が原因かと」

 光也が人差し指を左右に、ワイパーのように動かした。

「アリシア。それだと僕が言った『初めから強いの漏らせばいいし、それがNOならMORSの変異なんて面倒な事させずに、違うウイルス流せばよいんじゃないの?』の答えにはなっていない」

「私にはわかりません。光也さんが初めから強いウイルスを流したり、別のウイルスをまん延させることを実行しないのはなぜですか?」

「科学の力のアリシアちゃんは、僕にアンチテーゼを出せと?」

 光也は腕を組んだ。


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