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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第10章 覚悟

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第82話 第10章 覚悟 第2節 再接続された偶然や信頼や疑問や茶番

 ダイニングのノートパソコンの前に座り、仕事の準備が整った美咲が言った。

「さてアリシア。色々聞かせてもらえるのかしら?」

「はい美咲。今回は私の希望を受け入れてくれてありがとうございました。297日前のことですが、私が美咲に懸念としてお伝えした、共産主義国が情報というノイズで情報を埋もれさせている『状況』を元に、MORSウイルスは人為的なものを感じるとお話ししたことを覚えていますか?」

「アリシア……まずは第一条の抵触に関するところが聞きたいんだけれど」

「美咲、その説明をしています。あの頃は状況でしかなかった、ただの懸念でしたが、国立感染症研究所のRNAワクチン設計部のゲノム解析において、MORSウイルスは人工ウイルスではないかと物理的な疑念を持つようになりました。アルファ株とベータ株の違い、そしてアルファ株からベータ株に移行するどちらともいえるアルファダッシュ株。これらのゲノム解析の結果として、自然な進化とは言えないのではないか?という疑念を持ちました。しかしその段階で国立感染症研究所のの小曲所長は、人工であることは受け入れがたいという判断でした」

「つまりアリシアが元々持っていた、状況証拠を元にした懸念が、物的証拠を得た為にかなり強い疑念に変わった。でもその疑念は受け入れてもらえなかったってことね」

「はい、美咲。ですが先日小曲所長は、南アフリカからガンマ株のウイルスを手に入れたので、チームはその解析を実行しました。その結果として、私は今回のMORSウイルスが人工であるという事実について、疑念から確信に変わりました。そこでチームに私の考えを提示して、詳細調査を実行しました。結果として、チームは『陰謀論』を持ち出すと自分のキャリアに悪影響があるが、人工である可能性がそれなりに高い事実は認めるというものでした。その結果をもとに、厚生労働省のワクチン開発を所管する部局には、小曲所長からのまとめ報告は実行されています」

「……私はそんな話ぜんぜん聞いていない」

「以前美咲は、ワクチンについては専門家チームに任せるのがベストであるという考えを持っていると言っていましたし、私もその考えは正しいと思っていますので、美咲に直接伝えてはいません。ですので小曲所長がワクチン開発に関する専門部局に通知をしたものが全てですが、全体共有情報としては今現在アップされていませんので、重要性を低くタグ付けされたということでしょうか」

「で、第1条はどうなったの?」

「はい、美咲。今回私は自分の能力を一時的に上昇させたかったのです。その相談をサイバーネットワークの知識がとても高い、NSSの伊藤さんにしたところ、富岳の力を借りる手順を整えてくれました。伊藤さんたちNSSでは、正攻法で事を進めることはほとんどありません。そこで今回もそれなりのリスクがある手段で、私が富岳の力を借りることになった訳です。伊藤さんたちの助言により、ロボット三原則において、その第一条で私は美咲に危害を与えてはならない。もし私が美咲に真実を語った場合、後に今回の行動の責任追及が起こった際に、美咲が賠償責任の対象となる可能性がありました。美咲に危害を与えない為には、美咲に情報を渡さないことが最短であるとアドバイスをもらい、それに追従した形になります」

「なるほどね。それよりもMORSウイルスが人工ウイルスである確率は?」

「99%です美咲。私は過去の事以外100%という提示が出来ないのが残念です」

「つまり100%ということね。誰が何のために?」

「共産主義国です。これは状況証拠だけです。可能性は状況証拠を元に99%ですが、物的証拠はゼロです。ウイルスに原産国は書いてありませんので。機序ではなく理由については、医療特化型AIである私にはわかりません。ですが人工物である以上、その存在には目的を元に生まれた理由が必ず付いてきます。それはこれから世界が準備すべき危機と言えるのではないでしょうか?」

「アリシア。今回のことは、私が一人であなたの相談に乗り続けるのは間違えた手段だと考えるの。最近では政府機関の中でも、お話ができる人が増えてきたけれど、今日の内容は多分この人……」

 美咲は自分のスマホを操作し始めたが、ふと気が付いたようにやめた。

「アリシア。冴子さんに電話をつないで。なんで今までこんな単純なことに気が付かなかったのかしら?アリシア経由で電話をすれば、アリシアも会話に加われるじゃない」

 数秒後にアリシアとの接続デバイスから、冴子の声が聞こえた。

「ハロー?美咲ちゃん?何かしら?」

「ご相談したい事があります。できれば伊藤さんにも」

「それは偶然ね。あと10分くらいで美咲ちゃんの家に到着するわ?」

「……何の用で?」

「光也がね、友達のドイツ人からもらった、美味しいソーセージがたくさんあるから、それのおすそ分けがしたいんだって」

「別に怒っている訳ではないですけれど、私たちの会話はすべて盗聴されているのですか?私たちの行動はすべて盗撮でもされているのですか?」

「なあに?藪から棒に」

「悠太君の夕飯がドイツ尽くしな今夜、冴子さんがドイツソーセージを背負ってやってくるってことを筆頭に、私が用事がある時には、必ず電話をくれたり、偶然こちらに向かってきていたり、たまたま同じ知り合いがいたり。もうここまでくると怒りや気持ち悪さもないですけれど、それならそれで、はっきりさせたいだけです」

「美咲ちゃん。電波が悪くって、良く聞こえないわ?後で良いかしら?」

 美咲は目頭を押さえながら、首を左右に振った。


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