第78話 第9章 探求 第8節 アリシアが誰かを探している夜
【アリシアの初報330日目】
「冴ちゃーん!冴ちゃーん!」
NSSのOpsルームで、光也が自分のスマホから目を離さずに冴子を呼んでいた。
「なあに?いつから光也はそんなに偉くなったわけ?」
「まあ、これ読んでよ。思い出しちゃうよ。このお祭りが始まったあの日のことを」
少しだけ遠い目をした光也は、自分のスマホを冴子に渡し、代わりにシベリアを持った。
〈From:アリシア Subject:重要なご相談があります Body:直接お話をした事はありませんが、伊藤さんのご活躍は存じております。グローブ号の船内感染を見つけたあのプロシージャは、私には生み出せないものです。そんな伊藤さんにご相談があります。24時間、私に力を貸してくれる強力な頭脳を探しています。できれば私と並列処理ができるのが望ましいのです。48時間以内に、私に力を貸してくれる頭脳をご紹介願えればと切に願います。なお、この通信はバックドアからですので、私にアクセスしている他の人々には感知されません〉
左手でスマホ、右手で髪をかき上げながら冴子は顔を天に向けた。
「あぁー。これはデジャブーっていうのかしら。私が良いんじゃない?と言ったら、光也はどうするの?」
「そうだね。まずは狙いを聞いてみようよ。やるとしたら富岳に繋げちゃうよ」
冴子はビックリの表情を浮かべて光也を見た。
「あの世界一にもなった、スーパーコンピューター富岳?え?富岳って潜れるの?」
「……だって僕だよ?まったく冴ちゃんときたら。富岳はすごいけど、置いてある神戸の理研はそれほどでもないよ。電源をどうするかは考えなくちゃだめだけど。文科省にお願いしてみるか、適当に言い訳作るか」
光也はパソコンで、メールの続きを打ち始めた。
〈From:伊藤光也 Subject:無題 Body:はじめましてだね。元気してた?目的は何?言い出しっぺは誰?〉
〈From:アリシア Subject:無題 Body:言い出しっぺは私です。相談は伊藤さんが初めてです。目的はウイルスの追加調査です〉
〈From:伊藤光也 Subject:無題 Body:じゃあ僕なんかに相談していないで、厚労省や文科省に直接相談して正道を進みなよ〉
〈From:アリシア Subject:無題 Body:色々な意味で正道を踏むのはお勧めできません。小曲博士たちは、私達が発見した仮説を部外に出したがっていません。自分たちの研究者生命にかかわると。ですので私がその仮説に対する反証を行い、結果としてその仮説を打ち崩せなければ、これは確定と言えるものになります。仮定の段階での話ですし、時間もありません。ですから伊藤さんを頼った訳です〉
〈From:伊藤光也 Subject:無題 Body:小曲さんは良い人だけど小心者っぽいからな。ウイルスについての研究確認を短時間で進める為、アリシアはどうしたらよいか悩んでいる。そして僕に相談することにした。それでOK?〉
〈From:アリシア Subject:無題 Body:その通りです。裏道に詳しい伊藤さん頼みです〉
パソコンのモニターにメーラーを表示させて、冴子と二人で読みながらアリシアと会話をしていた光也は、両手を頭の後ろに回した。
「僕を頼って内緒のメールを送って来たっていっても、すでに冴ちゃんに秘密を漏らしちゃっているし。どうしたもんかな」
「小さな秘密が大きな軍隊を瓦解させることもあるわよね?」
「そんなもん、何度も見て来たよ」
光也はOpsルームのメインモニターに、自分のパソコンに映し出されている、アリシアとのやり取りを映し出した。
Opsルームがざわついた。上村課長が叫んだ。
「どうする気なんだ?光也!」
「そんなもん富岳一択でしょ。電源をどうやって確保するか問題は、皆のアドバイスが欲しいかな」
「よぉし、みんな300秒でアイディアをまとめろ、その後ディスカッションだ」




