第44話 第6章 奔流 第4節 ここだけで開示される世界の危機
【18時】
首相官邸大会議室で開催される臨時閣議には、海外に出ていたり、地元に戻っている4人以外の大臣、副大臣が集まっていた。その場所には上村と冴子、そして何も知らされないまま出頭した小曲博士もいた。
大渕官房長官がしゃべりだした。
「皆様、急な招集ご苦労様でございます。内閣官房の国家安全保障局から重大なご報告があります。では上村課長」
「はい。詳細については後に佐藤からお話しさせていただきますが、共産主義国で新型ウィルスの感染が広がっている可能性が大変高いという情報をつかみました。一般の風邪の3倍程度の感染力であり、致死率は35%という情報をつかんでおります。詳しくは佐藤から」
上村が発した数字を耳にして、この場に集まった誰よりも『愕然』とした表情を浮かべている小曲博士の肩を叩いて、冴子が話し出した。
「ここにまだ何の情報も知らされていない、国立感染症研究所所長である小曲博士をお呼びしました。ご許可いただければ、現在わかっているデータを小曲博士に開示したいのですがよろしいでしょうか?」
首相と官房長官は顔を見合わせ、3秒後にうなずいた。
「ご了解いただいたと認識して開示しますね」
そう言うと冴子は、情報データを表示させたタブレットを小曲博士に渡して話を続けた。
「分刻みでのタイムスケジュールが必要な案件でございます。本日午後、厚労省が一括採用したエリシオン社の医療連携システムAIアリシアから、このAIを作成した応慶大学の医師である安田美咲医師に通知が入りました。このAIは最新の医療情報を集めるために、世界中のネット情報を監視している訳ですが、この中に共産主義国で未知のウィルス感染の情報がありました。R0という指標がございまして、これは一人の感染者が集団の中に入ると何人くらいの人間に感染させるのか?という数値でございます。この数字が6.8程度であり、一般の風邪であれば2.0弱と言われていますので、大変強い感染力を持っていると言えます。そして今回の問題は、現状の少ない情報内ではございますが、致死率が35%を超えているというデータでございます。これが事実であるとすると、日本国内に飛び火した場合、2か月後には全国民が感染して、そのうち35%ですから4000万人以上が亡くなり、国民総数が8000万人になってしまうという事になります」
会議室内が大きくざわついた。冴子の発言中から「ふざけるな!そんなバカな話があるか!」「すぐにWHOに確認を取るべきです!」「国民にどう説明するんだ!」などの野次ともいえる発言が相次いだ。
冴子が話し終えると上村課長が一歩前に出た。
「バカな話と言える情報を得たので大臣方にご報告をしております。また、WHOへの問い合わせも含めて政府としての判断が無ければできない案件です。国民への説明は皆さんのお役目です。皆様方におかれましたは、パニックを起こさずに冷静にご判断を願います」
冴子は少しだけ微笑んで上村と目くばせしながら発言した。
「では専門家のご意見も聞いてみたいのですが。小曲博士。お願いできますか?」
冴子は小曲博士に説明を求めた。
「え、えぇとですね、私もたった今このデータを見たばかりですので、何とも言えませんが、とにかくですね、いまお話に出ていた数字はあくまでも仮定的な単純計算でありますが、例えば実際の致死率がその半分だったとしても、いや……1割だったとしても400万人の死亡者であり、東日本大震災の死亡者数が1万6千人と言われていますので……ちょっと……」
困り果て、驚愕の表情を崩せずにいる小曲博士を見て冴子が話し始めた。
「ありがとうございます。現状では公式発表ではない情報から算出している数値ですので、これがどこまでの信頼性を持つのかは判断できません。そして他国においてこのような情報が出回っている形跡も見られません。ですがWHOへの問いかけも含めて、分単位での対応が必要な案件であることは間違いありません。とても運が悪いことに、このタイミングで大臣でおられた皆様方の両手には、4000万人の国民の命が預けられた状況でございます。対応のご指示をいただきたいと存じます」
この後の1時間は議論にならない議論が繰り広げられた




