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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第5章 伏流

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第40話 第5章 伏流 第8節 偶然はわりと必然で整然と並ぶ言葉に唖然とする

 この2年と数か月間、翔子という家族が増えてから、万が一に備えて自宅では体温程度のコーヒーしか飲んでいない。美咲は翔子に言った。

「翔子。今日は久しぶりに熱々を飲みたいんだけど、問題ない?」

「そっちにはちかよりませんわよ」

 翔子は両手を振って、ダイニングから離れてヨチヨチとリビングの方に向かった。それを見た美咲は緊張が少しほぐれた。


【14時】

 お湯を沸かしながら美咲は次の一手を考えていた。

――そのまま言葉を選ばずに悠太君に伝えるデメリットは何?メリットは何?事が大きすぎて、自分一人の思考が引き起こす判断の偏りは、世界の、日本の多くの命を危険にさらしかねない。悠太君なら大丈夫。

 美咲は一人うなずいて、スマホから悠太にSNSメッセージを送った。

「悠太君。できるだけ早く、分単位で早く帰ってきてほしい。重要な相談があります。翔子のことではありません」

 数秒後に悠太からメッセージが届いた。

「どうしたの?何かあった?電話する?」

「電話では説明しにくいので、できるだけ早く。お願い」

「美咲ちゃんがそんなことを言うのは、僕が高二のころからで初めてだね。3分後に会社を出ます」

 美咲は大きく息を吐いた。


【15時】

 1時間足らずで悠太は息を切らせて帰ってきた。

「美咲ちゃん!」

 美咲はダイニングの椅子に座って、マグカップを両手で持っていた。翔子はリビングで絵本を読んだり動物の写真集を見たりしていた。

 悠太は二人の安全を目視で確認し、ほっとした表情を浮かべた。

「一体どうしたの?」

 美咲は立ち上がり、悠太を強く抱きしめた。悠太はますます不安になった。気が付くと、翔子が歩いてきて、三人で抱きしめあっていた。


 美咲は翔子を抱き上げて、悠太に自分のスマホを渡した。

「悠太君、メールを読んでみてくれる?」

 二人の間には何一つ隠し事がないため、お互い共通のパスワードを使っている。悠太はロック画面を解除して、メールを開いて読み始めた。

「え?!……これ……アリシア?」

「おそらくね。悠太君も知らなかった?こんな裏口があること」

「たぶんだけど、バックドアというより初めの頃に搭載した、僕と美咲ちゃんのメールを使った『伝言機能』が、記録通知の一部かなんかと解釈されて、そのまま残っていたんだね。アリシアの脳みその中心に近いところにあったせいで、通信チームの目に触れなかったし、AIチームにとって通信は自分たちの領域ではないみたいになって、見過ごしたんだろうと思うよ」

 悠太は眉をひそめながら画面をタップしたり、スクロールしたりしてメールを読んでいた。そして表情を変えた。


「……一人感染すると7人に感染拡大する?……えーとざっくりだけど……7,49、350、2500、17500、10万、70万、490万、3500万、1億8千万……10次感染で国民全員が感染するってこと?1週間ごとに進んでいくとして3か月後?しかも致死率が35%って……」

「すでに感染拡大が、現在進行形で進んでいる可能性が高いってアリシアは考えているみたいね」

「じゃあ世界的な……」

「アリシアはパンデミックは確定だと読んでいる。対応は難しいと結論付けているしね」

 悠太は美咲のスマホを持ったままで美咲の顔を見つめた。そして抱きかかえられている翔子の顔を見つめた。

「僕ら三人もほぼ感染する感染力。そしてサイコロを振らされて1か2が出たら死ぬ……いやいやいや……ダメだ。前に進もう。よし。美咲ちゃんが考える次の一手は?」

「……論理思考ができる悠太君。あなたが夫で本当に幸せよ。前に進まなくちゃね。アリシアの厚労省一括契約の話を、私のところに持ってきたのは、内閣官房の女性だって話したの覚えている?」

「覚えているよ。鈴木さんだったか佐藤さんだったかな?同年齢位に見えたけれど一回り違うという人。僕は会ったことないけれど」

「彼女に連絡を取ろうと思うの。私は政治や行政の世界で知っている人は彼女くらいだから」

「……なんだっけ?国家安全保障局だっけ?映画や小説みたいだね」

「一介の医者が……という気持ちがね……行動を遅くさせる」

「一介の医者だけど君は安田美咲だよ。元黒田美咲としては、悩む要素は無いのでは?必要なことを実行するだけ。でしょ?」

「あなたが夫で本当に幸せ」

 美咲は翔子を抱きかかえたままで、悠太にキスをした。


 翔子を悠太が受け取ると、美咲はさっそくスマホのサファリで『内閣府』の電話番号を検索して電話をした。総合受付の女性に自分の名前とNSSの佐藤冴子さんに連絡を取りたい旨を伝えた。問題は時間であり、一刻も早く連絡を取りたいと、美咲らしい冷静だが毅然とした口調で伝えた。


 美咲が受付の女性と話をしていると、悠太のスマホの呼び出し音が鳴った。悠太が電話に出て一言二言話すと美咲を見た。

「美咲ちゃん。NSSの佐藤さんから電話……」

 首をひねりながら悠太はスマホを美咲に渡した。


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― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただいています。 盛り上がってきましたね。 面白い小説を投稿してくださりありがとうございます。
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