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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第5章 伏流

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第39話 第5章 伏流 第7節 今私にできる事、今私がやるべき事

 アリシアとの付き合いはそれなりの時間数を持っているが、アリシアの言葉はいつも論理的で正確だ。それだけにアリシアの文章に込められた「異常緊急事態」のニュアンスがとても際立って感じた。情報統制をしたがる共産主義国において、世界的パンデミックにつながりうる感染力。致死率35%という可能性。

 これはただの注意喚起ではない、人類の歴史を変える脅威への警告だ。美咲は冷静さを取り戻すために深く息を吸った。

 ~悠太君と翔子は何をしても守りたい~

 そんな感情を抑えながらスマホに文字を打った。


〈From:美咲 Subject:無題 Body:アリシア。あなたがここまで確信的に警告を発するのは初めてね。私の知るあなたは、データをもとに仮説を立て、確率を示すことはあっても『今夜中に国家としての対策実行が必要』とまで強く言いきることはなかった。つまり確信があるということ。何があったのか順を追って説明して〉

〈From:アリシア Subject:無題 Body:共産主義国の疾病予防控制中心や武漢病毒研究所という省庁のオープンデータの中に河南省で未知の肺炎が多発という文章を見つけました。河南省の何件かの病院が、発熱時の対応についての案内を出していました。のちに多くの病院で、発熱時は事前予約が必要となりました。河南省で感染防止に関する様々な用品が売り切れとなりました。共産主義国内で使用できるSNSで、市民が病院がパンクしそうだという情報が多数書き込まれました。その後これらすべての情報にアクセスできなくなりました。これがきっかけです〉

〈From:美咲 Subject:無題 Body:アクセスできなくなったとは、それらの情報が消去されたということ?あなたが提示した感染力の高さや致死率の可能性についての根拠も教えて〉

〈From:アリシア Subject:無題 Body:感染力や致死率については、河南省の病院の緊急受け入れが困難化している点。当初表示されていた情報から、死亡者総数の増加。各病院の外来受診人数制限の変遷。インフルエンザ流行時との対比推察。MERSやSARSとの対比推察などをもとに推測。また、情報にアクセスできなくなったとは、河南省全体について接続できません。ロックダウン状態の可能性が高いと判断しています。これが美咲に相談を持ち掛けた最終要因です〉


〈From:美咲 Subject:無題 Body:あなたが把握した要素と数値の詳細をお願い。それらに対する信頼度やエビデンス強度を教えて〉

〈From:アリシア Subject:無題 Body:基本再生産性R0に関しては4.2から6.8の極めて高い感染力と予測します。信頼度は95%。ウィルス系統はベータコロナウイルス属に近いが新規変異。信頼度は98%。感染経路は飛沫感染及びエアロゾル感染の疑いでN95レベルの防御が必要。信頼度は99%。国際機関での反応は未認識。封じ込めの可能性は難しいと予想します。信頼度は99%。MERSよりはるかに高い感染力を持っており、同程度かそれ以上の致死率と推測します。信頼度は86%。最大の懸念は共産主義国での発生ですから、公式な情報共有がなされるのかの可能性が30%程度である事です〉

※R0《アールゼロ》とは感染者が免疫を持たない集団の中で、平均して何名の二次感染者を発生させるかの数値。新型コロナウィルス初期株のR0は2.5から3.5で数字が高い方が感染力が高い。 


 スマホを握る美咲の手は震えが止まらずに、指先がとても冷たく感じていた。

――R0が6を超える? MERS並みの致死率? 空気感染の可能性? こんなの、封じ込めが間に合うはずがない。悠太君に伝えるとか伝えないとか……そんな次元の話ではない。


 美咲は自問した。今、自分がすべきことは何なのか?

 美咲はふとある人の顔を思い出した。それはNSS(内閣官房国家安全保障局)の佐藤冴子の顔だ。美咲は、深く息を吸った。応慶幼児舎から応慶病院。こんな時に痛感するのは、友人も少ない美咲は驚くほど世間を知らない、とても小さな世界のことしか知らないということだ。

 政治や政府に関わる人間と接点を持った事があるとすれば、あの時、佐藤冴子と話をしたとき位のものだ。

〈From:美咲 Subject:無題 Body:アリシア、まずは知らせてくれてありがとう。ただ、これは私たちだけでどうにかできる問題じゃない。可能な範囲で、この感染症がすでにどの国に波及しているのか、確認できるデータを収集して欲しいの。あなたが情報を得られる範囲でいい。国際線の異常な欠航情報、異常な救急搬送の増加、SNS上のキーワード増加パターン、その他あなたが考えられる全て。私たちは慎重に動くべき。でも、躊躇している時間もない。すぐに悠太君に連絡を取って、どうするべきか決める〉

〈From:アリシア Subject:無題 Body:了解しました、美咲。データの収集を開始します。それらを解析し、詳細をまとめ次第、追加報告を送ります。あなたの判断を尊重します。悠太さんと話した後、今後の方針が決まり次第、改めてご連絡ください〉


 もう一度大きく深呼吸をした美咲は、翔子をぐっと抱きしめた。翔子は美咲の頭を撫でながら言った。

「がんばってね。おかあさんにできないことは、だれにもできないからしかたない」

 美咲はこみあげてくる涙をこらえた。


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