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縁の理(えにしのことわり)上巻~ReTake.ZERO~MORSウイルスとAIアリシアの攻防  作者: 平瀬川神木
第5章 伏流

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第33話 第5章 伏流 第1節 選ばれざる女神の奴隷(前)

 私の名前は川滝太郎。父、祖父、曾祖父とすべて国会議員だ。曽祖父は突然変異的に生まれた野心家で、相当な豪傑というかワンマンというか攻撃的な性質を持った人間だったと聞いている。

 自由だった曽祖父は、自分が選んだ弱く優しい女性を妻とした為、中和されバランスが取れた遺伝子を持った祖父が生まれた。曽祖父の人間性と時代という背景から、祖父の結婚相手は曽祖父が決めた。

 曽祖父の政界進出を後押しする権力者の意向もあり、祖父は財閥の娘と結婚した。この祖母の家系は華族と呼ばれ、戦国時代から武将を輩出してきた戦う一族。こうして川滝家の血筋に、政界でも実業でも生き抜く「戦うDNA」が注入された。

 つまり私の父は、突然変異的に生まれた豪傑と弱々しい可憐さを25%ずつと、何世代にもわたって戦場で活躍してきたDNA50%を混ぜ合わせた存在となり、バランスは一番良かったのではないだろうか?

 戦後の自由恋愛の風潮と、祖父自身の経験から、父を力で御そうとはしない教育方針を取っていたので、父と結婚する女性は、父の「趣味」で決まる事になった。

 3代目の私の父は、自分の祖父、つまり私にとっての曽祖父を見て育ったので、その強さへの渇望や憧れが生まれた。


 結果、世界大会を5連覇したレスリングの53キロ級世界女王が私の母となった。

 53キロ級の選手だった母は、身長も160センチ以下であり、とても可愛らしく美しい女性だった。だが幼い頃、一緒に入浴していた時に見ていた、6つに割れた腹筋と背中に大きなV字型を描くラット(広背筋)は、スミレの花のような優しさと繊細な雰囲気を持った母に生えた『棘』の様で、私はとても魅了された。

 自分自身大学生になる頃には、将来を考えて「取り返しがつかない」事にはならない程度の女性関係もあった訳だが、それなりの運動競技経験がある女性と肉体関係を持ってみても、母のようなシックスパットとVラットに出会えたことは無かった。普通の女性であればそれが当たり前だし、もしかすると私は幼かったが故に、母の筋肉の記憶を誇張して記憶しているのかもしれないと考えていた。


 私が自分の妻に選んだのは、結局のところ自分の血筋と同じく3代続いた政治家の娘であり、私は自分の結婚の目的を、自分の立ち位置を確実にすることに置いた。

 彼女は見た目も女性らしい美しさを持ち、気持ちも大変優しく、頭も良い女性だった。小柄な点は母に似ていたが、触れると柔らかな女性らしい肉体を持っていた。


 私と彼女の間には、2人の男の子が生まれたが、彼女は2人目の息子がまだ中学生の時に病死した。とても誇らしい妻であったし、母としても本当に申し分ない女性だった。


 早めに引退した父の跡を継ぎ、国会議員になっていた私は、子供がまだ成人する前に妻を亡くしたことを自分の武器にも使っていた。そのくらい精力的に活動をしていた。

 妻が亡くなって8年後、私の母が亡くなった。その時に絶望感や失意のどん底を思い知り、政治家としてもしばらくの間、何もできなくなった時期がある。その経験から私は本当に妻を愛していたのか自信が持てなくなった。


 母の死を乗り越えた頃の私は、当選3回目となり外務大臣政務官となっていた。

 外務大臣政務官として働いている中で、個人的に仲良くなった外務省の官僚がいる。偶然誕生日が同じであったことと、大学が同じだったこともあり、気心が通じる友人と言って差し支えない関係になった。

 その彼の体形が筋肉質に変わってきている事に気が付き、酒を飲んでいる時にその理由を聞いたところ、少し前から外務省の職員を相手に、護身術を教えてくれる教室が開かれている。そこでの研修がきっかけとなり、かなり本格的に格闘技を始めたとの事だった。


 その研修のコーチは同じ外務省の特殊機関対外戦略特別行動局という物騒な部門で働いている女性職員だと聞いた。酒の影響もあったのか、私はその話を聞いた時に、頭の中でパッと母の顔を思い出した。

 私は自分もその研修に参加したいという衝動を抑えられなくなり、秘書に重要事項として、その護身術の研修の日程を調べさせ、スケジュール調整をさせた。


 護身術教室にいたのは、赤色に近い髪の毛をポニーテールに縛った女性。身長は母よりも高めの165センチ程度。白地に赤いラインが入った、アディダスのジャージを着ていた。

 机などが片付けられた大きな会議室、二人一組で片方が暴漢の役となり、トイレットペーパーの芯を相手の体幹めがけて振り回す。

 もう一人はそのトイレットペーパーの芯を、自分の急所に触れさせないように避ける訓練をしていた。

 そのコーチは母のような世界を取った競技選手でもなく、力も大して強そうではない「どこにでもいる」女性だった。何度か私の腕や肩の向きなどの違いにアドバイスをしてくれたが、私はあの母の息子だ。そう考えるとよくわからない苛立ちがこみあげてきていた。


 私は思わず「あんたのような小娘、本気になった男相手に何ができる?」と呟いた。


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