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第3話 第1章 播種 第3節 カフェラテが抽象画を描く時、告白は未来を掴む

 翌日、待ち合わせの喫茶店に、待ち合わせの時間10分前に到着した美咲は、ボックス席に座りSNSでメッセージを送った。

「到着しました。窓際の奥から2番目のテーブルにいます。わかりやすいように、目印として頭の上にハンカチを載せておきます」

 送信ボタンをタップして、カバンからハンカチを取り出すと頭の上に載せた。


 その数秒後、飲み物を噴き出す音に驚き、隣のボックス席を覗き込むと、学生服を着た「かなりカワイイ」と言える男子が、ハンドタオルで噴き出したカフェラテをふき取っていた。


 その瞬間、美咲は心臓が大きく跳ねた。これまでの18年間、理論を行動基準として生きてきた美咲の中で、こんなにも思考が鳴りを潜め、感覚に支配されるのは初めての事だ。

「私はこの人と結婚するんだ」どこかの恋愛小説に出てくるような、そんな突拍子もない考えが頭をよぎり、思わず自分を笑いたくなった。


 我に返ると、中学生と言っても違和感のない幼い顔立ちの美少年が、テーブルに描かれた抽象派の絵画のようなカフェラテを拭き終わり立ち上がった。


「黒田さんですね。はじめまして。恥ずかしいところをお見せしました。安田悠太です。高校2年生です。趣味はコード叩きです。今日はよろしくお願いします。がんばります」

 悠太は自分のカバンやテーブルの上に広げてあったノートパソコンを持って、美咲が座るテーブルに席を移した。


「隣に座って良いですか?画面見やすいから」


 美咲はほんの一瞬だけ驚きとも、困惑とも言えないような表情を浮かべた。

――隣に座るの?ああ、心臓が速くなる。顔面紅潮しているのがわかる……大人の対応しなくっちゃ……

「隣、どうぞ。黒田美咲です。よろしくね。でも一体どうしたの?誤嚥(ごえん)?」

「いや、目印にハンカチを頭にって、発想自体がすごいですよね。冗談だと思ったら本当にやっているし。だから笑って噴き出しちゃいました。でも、この方法なら確実に見つけられるので、目的達成手段としては完璧ですね」


――ボックス席に横並びで座るって……どこかのカップルがやっていたら、内心鼻で笑っていたけれど、自分がやるなんて。手汗までかいているし、どうしちゃったの?私!あなた、あの黒田美咲よ?!高校2年生相手にガチガチじゃないの。恒常で平常で尋常に、いつも通りに話を進めなきゃ……

「それでは……私が作ったAIは、現状では勉強のスケジュール管理と基本的な学問のテスト作成しかできないんだけど、これをもっと進化させたいの。具体的には、ネット上から医療知識を収集して、それを自動的に整理して、いろんな角度から医療に関するテスト問題を生成する機能を持たせたいのよ」

「なるほど。論文とか医薬品の医学情報をウェブから自動で集めて、それを分類したり整理したりして使いたいってことでOKですか?」


――顔が近いのよ。顔が近いんだってば……なんなの?この人いったい何なの?なんでこんなにカワイイの?

「そう。だけど、その集めた情報をどうやって自動で『整理する』かが分からないの。自分でその文章に関わるキーワードを設定するのは時間がかかり過ぎてね……」

「まず情報を集める方は自動でスクレイピングさせる事で問題なく実行できます。分類はたくさんのライブラリがあるから、黒田さんのやりたい事にマッチしたものを使えば、問題なく自動化できると思います」


――近すぎて体温まで感じちゃう。ああもう近いんだって……匂いも好きかも……鼻だけで深呼吸したくなっちゃうじゃない……

「うん。じゃあ手伝ってもらえるって理解で大丈夫かしら?」

「もちろんです。がんばります」


「ありがとう、悠太君。ところで悠太君て呼んでも?」

「ぜんぜん。友達はみんな悠太って呼んでます。僕はどう呼ぶのがベストですか?」


「じゃあ美咲で」

「ところで美咲さん。美咲さんって何者ですか?医者目指している人が、なんで自分でAI作れるんですか?半端なく美人で半端なく頭良いって、おかしくないですか?」


「褒めてくれてありがとう。その分性格にしわ寄せがきてるから安心して。コードについては難しい事はわからないわ。だから今日は悠太君の隣に座っている訳だし。効率上げるための非効率的な努力っていうか、楽するための大変さは苦にならないタイプなのよ。私」

「ははは。なんかそれすっごい理解できます。僕も友達から遠回りにもほどがあるってよく言われるんですけど、遠回りした分、自分に体力が付くのが好きっす。どうせだったらたくさん持って帰りたいのは、欲張りですかね?」


「ところで悠太君。初対面で失礼な事聞くけど、彼女っているの?」

「いないっすね。今のところ家に一人で閉じこもって、コード叩いているのが楽しいです」


 美咲は自分の思考を確認するように、何度か頷いた。

――どうしよう。心拍数がとんでもない事になっている。でも後悔はしたくない。私は最短距離でたくさん持って帰るタイプだから……


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