第19話 第3章 連動 第4節 アリシアと私とそれぞれの変化
アリシアが進化を遂げている中、アリシアの嫁入り同様にプロポーズを受けた美咲は、事前に家族には伝えていたが、正式に美咲の家族と悠太の家族で顔合わせをすることになった。
美咲の家では、祖母の代から夫が婿養子に入る形をとってきたため、黒田というのは女性方の性である。それを知った悠太は、自分が婿養子に入ることは拒否しないと美咲に伝えていたが、美咲がそれを拒否した。
「あのね悠太君。たかだか2世代なんて歴史って言わないの。10世代続いているなら聞く耳も持つけれどね。そもそも戦後の日本で、イギリス人のおじいちゃんと、日本人のおばあちゃんが恋に落ちた。だからおじいちゃんが黒田を名乗ったっていう、ぜんぜん本筋と関係ないところがキッカケだっただけだし。私は私が悠太君のものになりたいの。戸籍でどっちがどっちのものになるなんて考えているわけじゃないんだけれど、私が悠太君の籍に入りたいの。親もそれを理解してくれているから、問題ないわ」
「美咲ちゃんが言う『僕のものになりたい』ってのが上下関係を表すものではないってことは、美咲ちゃんの生き方を見ていれば理解しているよ。でも色々な、主に病院経営のことだけれど、そこを考えた時には僕が黒田になる方が面倒が少ないんじゃないかな?」
「50年前ならいざ知らず、今日日そんな事全く関係ないわ?それに婚姻はもはや家同士の問題ではなく個人間の問題よ?だから私が決める。私が安田美咲になる。私は悠太君の妻であり家族になったということを、世界中の人にアピールしたいのよ。理解してほしいわ」
「うん、僕は……どっちでもよいって言い方もどうかと思うけれど、美咲ちゃんと家族になれるのであれば、その方法論はどっちでもいいから。美咲ちゃんの意思を尊重するよ」
美咲は赤面した顔を両手で隠し、『私のことを奪い取れるのならば、方法はどうでも良いなんて』と小さい声で言いながら、つま先で床をトントンと軽く叩いた。
――母も祖母も「入籍の方法」については、もう少し嫌な顔をするかと思ったけれど、「今時そんなことどっちでもよいわ」とすんなり受け入れてくれた。ちょっと誇らしく思うと同時に、自分と同じDNAを感じた。
私の家で集まった顔合わせだったが、話のほとんどは私と悠太君の結婚のことではなくアリシアのことになった。母と祖母は目をランランと輝かせて、私にノートパソコンを持ってこさせて、実物のアリシアの能力に驚きを隠せない様子だった。
導入コストの問題で、理事長である父はビクビクしていたが、実は幸太郎さんがアリシアをエリシオン社に嫁入りさせるときの契約事項として、私と黒田病院に対する無償提供を盛り込んでくれていた。だから黒田病院にはコスト的な負担なくアリシアが導入できる。
アリシア自体がまだベータ版ということで、あくまでもテスト導入という形をとるが、近々に黒田病院への導入が決定した。
私と悠太君は、家族が集まる会談の場の主役を、アリシアに奪われた形になったが、私が思い描いたアリシアの完成予想図に着実に近づいていることを、私は嬉しく思った。
アリシアの素晴らしいところは、医療機器メーカーの限定なく、横断的に運用できるところだ。黒田病院ではMRIだけがエリシオン社製なのだが、ほかのメーカーのレントゲンもCTも、その他の超音波診断装置や心電図モニター、血液化学分析装置など、あらゆる検査の結果をアリシアが管理してくれる。
さらにエリシオン社は製薬もやっているので、薬に関することも横断的に管理してくれる。これはエリシオン社だからできる事だ。
また、アリシアと人間をつなぐ方法として、以前はパソコンとスマホがメインだったが、腕時計型のスマートウォッチと眼鏡型のデバイスも作られたため、本当にリアルタイムでアリシアへのデータ入力やアドバイスの取り出しができるのが、私にとってはすごい事だと思っている。
腕時計や眼鏡についているカメラから、紙媒体のデータやコンピューターのモニターに映ったデータを、アリシアが読み取って解読して正しい付箋を付けて収納してくれる。患者や他の医師とのやり取りも、自動で要約してテキスト化してくれる。
大切だけれど無駄に時間がかかる部分を、アリシアがかなりの精度の高さで実行してくれるのは、医師としてとてもありがたい。
すっかり話がついでになってしまったけれど、ごくごく内輪の小さな結婚式をして、私と悠太君は東横線沿いにある神奈川県の町に、二人で住むマンションを借りた。
悠太君の家でもよかったのだけれど、これは悠太君が強く反対した。まあ、ね、私もいつでもイチャイチャできる方がね、望ましかったけれど。悠太君が「休みの日は一日中イチャイチャしたい!」って言ってくれたのがね、すっごく嬉しかった。