第17話 第3章 連動 第2節 ダブルプロポーズ
私と悠太君のそれはそれは甘く激しく短い、その、ね。そう、それ。
もちろんその後は、帰ってきた幸太郎さんと3人で、何もなかったかのように、色々楽しい話をしながら、高島屋のデパ地下味をのんびりと堪能した。
「そんな訳で、研修医としてもアリシアと過ごすことが出来そうです。さすが私の悠太君です。幸太郎さん」
――私は幸太郎さんに(最近は悠太君のお父さんの事を幸太郎さんと呼んでいる)、最近の仕事やアリシアの事を聞かれたので、最近困っていた個人情報のことや、今日悠太君が示してくれた内容をザックリと伝えた。
「なるほどなるほど。悠太はアリシアについて、俺に何も言ってこないから、進化の速さに驚いているよ。でも実際問題、データ量的にもそろそろ個人で維持管理するのは限界点なのではないか?悠太」
「そうだね。美咲ちゃんとはデータの効率化について、どんなデータを残すべきか少しずつは話しているんだけれど、やっぱり一度得たデーターは手放したくないよねってなっちゃうんだよ。いつも」
「幸太郎さん的には、どう思いますか?」
美咲の問いかけに、しばらく腕を組んで目をつぶっていた幸太郎は、そのままの姿勢で口を開いた。
「アリシアをエリシオンに嫁に出すって事について、どう思う?」
「え?嫁に出すってどういうことですか?幸太郎さん。アリシアを全譲渡するって事ですか?」
「いやもちろん、契約金を支払ってのある意味M&A、つまりシステム買取になるとは思うんだけれど、全譲渡という言葉が間違えてはいないと言えるね」
「ああ、わかりました。悠太君がオーケーならば、私は契約金とかはどうでも良いです。金銭的利益を目的に作り上げてきたものではないので、ラッキーなお金は求めていません。それよりもアリシアが堂々と大手を振って、医師のフォローをしてくれるようになるのであれば、そんな嬉しいことは無いです」
「ちょっとあんまりにもすんなり過ぎて、正直驚いているよ。美咲さん、たぶん数千万円規模の契約チャンスではあるんだよ。だから契約はどうでも良いって簡単に言っちゃって良いのかなぁ……」
「悠太君が今までアリシアのために使ったお金は返してもらいましょうよ。私に関しては、アリシアを作るうえで得た知識や思考が凄く役に立っているから、それでチャラで。その代り今後も私はアリシアを使い続けたい。応慶が使おうが使うまいが、私は個人的にアリシアを使い続けたい。これが私が望む契約条件かな?」
「美咲さんも悠太も、俺の発言はなんとなく思いついただけの、エリシオン社としての正式なものではないことは頭に止めておいてね。美咲さんの気持ちはよく分かった。すごいね、あなたは。悠太が前向きに考えてくれるのであれば、今後会社に対して提案書を出してみようと思うんだ。それなりに時間はかかると思うんだけれど、とにかく……美咲さんとアリシアに乾杯したい気分だよ」
そのあと私たちは、悠太君のノートパソコンで最新状態のアリシアを幸太郎さんにプレゼンするような時間を過ごした。
幸太郎さんの顔は、完全に悠太君のお父さんからエリシオン社のリーダーの顔になっていた。何度も私と悠太君を褒めていた。
――もちろんよ。誰だと思っているの?あなたの息子とその……恋人なんだから。当たり前なんだから。そんな風に心の中でつぶやいていると、悠太君が不意に私に顔を向けた。
「美咲ちゃん。アリシアが嫁入りするにあたって、僕と結婚してくれませんか?あの日アリシアにディープラーニングの機能を搭載させたら、僕に告白させてほしいってお願いしました。そして僕たちは恋人同士になりました。まさかこんなタイミングで、アリシアが嫁に行くと思っていなかったから何の準備もしていないけれど、これが次のステップに移るタイミングだと認識しちゃったんだ。だから、結婚してください」
――私は頭の中が軽い……重大なパニックになった。そうなるのはわかっていたけれど、実際に突然目の前に来ると……私ってやっぱり悠太君の事になると、かなり馬鹿になっちゃうのよね。すっごい幸せなんだけどね。