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第13話 第2章 起動 第5節 セフレも命もシベリアも、得る為に与えねばならぬものがある

 私の名前は佐藤冴子。この名前は内閣官房国家安全保障局外事課の上村課長がつけた名前だ。生年月日も彼が決めたのだけれど。

 医師であった父は、小学校に上がる前の私と、とても優しく可愛らしい記憶が残る母を連れて、NGO活動を行うために東アフリカの某国に向かった。国境なき医師団というやつだ。不安定だったその国では内戦が激化していき、反政府側が主導権を握った段階で、私たち家族は拘束され、私の両親は時間をかけて残虐に殺害された。今でも耳に残る叫び声の中で。


 黄色人種は珍しかったため、彼らは私の利用価値を見出し、諜報員として暴力の中で20年以上教育、いや、調教、そうねぇ……製造した。

 女としての顔立ちと体型に恵まれたことと、目で見えたものを瞬時に覚える能力が異常に高かった私は、色々な意味での「道具」として生き残る道を選択した。


 私の目の前で私の両親を、思いつく限りの痛みと凌辱を加えて殺害したムハンマド・クルファン。600人のテロリストを束ねる大隊指揮官と呼ばれるこの男との間に子供を産んで、その子供を人質に取られた状態で、私は日本へ諜報活動員として送り込まれた。

 入国後すぐにその足で私は外務省に出向き、自分が入国した真の目的を申し出て内閣官房に保護された。暴力で私の全てを奪い支配した大隊指揮官に対して、ポジティブな感情を持つ訳もなく、だからその男との間に生まれた子供に対しても、憎しみ以外の感情は持てなかった。それは私の人間性の欠如なのかもしれないけれど、自分が産んだ子供であっても、私にとって彼は人質として機能しなかった。

 その後、内閣官房国家安全保障局(NSS)の管理下で、日本人としての再教育を受け、現在はNSSの外事課特殊戦術係の係長、佐藤冴子として海外からの日本に対する攻撃への防御対応を行っている。


 似たような経歴を持つ私の部下(と言っても5歳くらいの年上だと思われるが)、介入班CQB(射撃、破壊、近接戦闘を専門とする局員)の伊藤光也が「気になる」という情報を上げてきた。

 光也の本職は、現場最前線で人と戦ったり、何かを破壊したりすることであり、いうならば兵士だ。実際に総合戦闘能力においても、日本で5本指に入る実力を持っている。全くそう見えないのだが。

 しかし彼は、本来情報分析課の通信傍受係がやるような情報の収集や、内政課危機管理係情報保全班が行う、嘘情報の流布などをやらせてもめっぽう凄い。まったくそうは見えないのだが。


「冴ちゃん。ちょっとこれ見てよ」光也が自分のデスクのモニターを指さした。


「なぁに?これ」

「ネット潜っていたらさぁ、素人が書いた割にそこそこ有能で思考が大変個性的で、結果かなり危険なAIを見つけちゃったんだよね」


「超法規的に人の秘密を覗いていた光也が見つけたAIの何が危険なの?」

「いまは医療データや受験勉強向けの情報を集めて解析しているだけっぽいけど、このまま進化すれば、生物兵器とか、相当危険な技術を作り出せる可能性が高いんだよね」


「どういう事なのよ?」

「思考ルーチンの素質が良いってことを前提に、企業が作るAIなら、普通は安全装置というか、社会的な倫理観を踏まえたブレーキが設けられてるんだけど、これは個人が趣味で作ったものだから、そんなものが全然ないんだ。『やっちゃいけないこと』の線引きがないフリーハンド状態。簡単に言うと冴ちゃんみたいな感じ」


「ちょっと失礼ねぇ。私だって今は人前で放尿なんかしないわよ」

「人前で放尿って……エンゲージメントゾーンアンブッシュ(交戦地帯の待ち伏せ中)じゃないんだから。まあ冴ちゃんの放尿シーンはさぁ、僕とか一部の人にはご馳走なんだけど、生物兵器を作れるAIなんて代物は、冴ちゃんの製造国である東アフリカ某国とか僕の製造国である中央アジア某国のご馳走でしょ?とにかく行く末が危なくって心配だよ、これ」


「変態光也が危ないっていうんだから危ないんでしょうね。どのレベル?」

「まだ様子見で良いけれど、5年以内に超法規的に破壊が必要になる可能性を感じちゃうから……B5Eってところかなぁ」


「光也はどうして見つけられたの?そんな将来予測リスクが最強レベルのAIなんて」

「医療関係者とその周辺人物のデータ通信監視に引っかかったんだよ」


「どこ?」

「エリシオン社。プロジェクトリーダーって役職の安田幸太郎さんの息子の悠太君。大学生だね。政治的、宗教的思想に危険因子は見えない、いたって平和な子だよ。応慶医学部の彼女の為に作ったAIみたいだね。メッセージのやり取り見ても、なかなかの熱々カップルだよ」


「趣味悪いわねぇ。人の恋路の覗き見までするなんて。上申の必要性は?」

「僕なら上げておくかな」


「わかった。ご褒美は?放尿以外だからね?」

「……じゃあ僕の体に合ったスーツ買ってよ。サイズがまたちょっと……ねぇ?」


「羊羹とカステラのサンドイッチの食べ過ぎなのよ、光也は。早死にするわよ?」

「シベリア食べると食べないじゃ、ネットセキュリティーの突破時間が3割以上違うんだよ」


 私は光也に手を振って部屋を出て、名付け親の上村課長に報告。現時点では対応一任という事だったので厚労省関東信越厚生局に向かった。


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