第12話 第2章 起動 第4節 悠太君が私を好き過ぎちゃうのはまあしょうがないんだけれどね
医学部は6年間学校が続くんだけれど、5年生になると本格的な臨床実習が始まるので、キャンパスではなく病院に行くようになる。
悠太君も3年生になり、アリシア経由だったり会った時に直接だったり、悠太君の就職についての相談も聞くようになった。
アリシア経由っていうのは、アリシアに悠太君と私をつなげる伝言機能を搭載させた。言葉でも文章でも簡単に伝言できるシステムは、一般的なSNSより使いやすい。
私が言葉で「悠太君に大好きって伝えて」とアリシアにお願いすると、アリシアは私の音声とそれをテキスト化した文章で悠太君に伝えてくれる。悠太君は授業中であればテキストで確認するし、自由時間であれば私の声で確認できる。テキストで送ると、テキストで受け取るか、アリシアの人工音声で伝えてくれる。
就職に関して悠太君としては、医療機器の製造に関わりたいと考えており、それはまさに悠太君のお父さんの仕事と同じだ。悠太君としてはお父さんの会社で働きたいという気持ちもあるけれど、同じ会社で働くことによって起こりえるデメリットもあり、シンプルにはいかないようだ。
人のやっかみとか、悪口に慣れている私としては、悠太君がお父さんと同じ会社で働くデメリットを感じないが、まあ私みたいに人の評価をどうでもよいと考えている人は、とても少数派だと認識はしている。
悠太君の家でお父さんと三人で食事をすることも、もう数えきれないくらい重ねて、お父さんの意見も聞いた。
「俺としては、悠太がエリシオンに入ることは嬉しいって思うよ。良い会社だって思っているしね。美咲さんは卒業後の事、どんな風に考えているの?」
「私は専門医になるまでは、応慶病院で過ごそうと思っています。専門医になってしばらくしたら、実家の病院を継ぐ準備に入らなきゃって思っています」
「美咲さんのご実家は病院なんだね?」
「あれ?まだお伝えしていなかったのですね。片瀬にある黒田総合病院という町医者ですけれど」
「え?あの黒田総合の娘さんなの?そうなんだ。ちょっと驚いたよ」
「お父さんもご存じなのですか?うちの病院のこと」
「もちろん知っているよ。民間病院の中では、新型の医療機器を積極的に導入してくれる病院だからね」
「MRIがエリシオン社製ですけど、技師さんの話ではハードとしてはGFやカノンに劣るけれど、ソフトはエリシオンの方が良いと言っています」
「ソフトの部分は俺の部門の仕事だから、そういってもらえれば頑張っている甲斐があるよ」
「私の感覚で言うと、ハードは例えばUSBのように業界全体の統一規格がかなりのレベルで進んでいると思うのですが、ソフトはCSV程度から進化していないように感じます。もっと統一規格化されれば、ユーザーとしては使いやすくなると思っているのですが」
※CSVとは異なる表計算ソフトなどで読み取れるようになる「カンマ区切りの値」という共通標準書式
「最近では色々と進んできてはいるけれど、一度翻訳システムを通さなければならないという点においては、初めから同じ規格にすればいいのにねとは思う。でもそこには企業としての利益独占という概念が存在しちゃうから進みにくいんだけどね」
「例えば全医療機関にアリシアが導入されて、どのメーカーの検査機器を使っても、アリシアがデータを管理できるようになれば、医療機関間の連携が今よりスムーズになりますよね。ちょっと夢見ちゃいます」
お父さんが頷きながら言った。
「……悠太、アリシアの現状はどこまで進んでいるの?」
「個人でやるにはデータ量的に限界が来ているよ。美咲ちゃんが今言ったことを実現させるには、お金がかかる。資源はお金で買う以外方法がないから……お父さん。僕、エリシオン社を第一希望として就職活動をすることに決めたよ。僕がエリシオンに入って、エリシオンがアリシアを認めてくれれば、美咲ちゃんが言った事を実現できるようになる可能性が高くなるから」
……もう。悠太君ってば。私の事が大好きすぎて困っちゃう。私の希望を実現できるならどんなことでもしたいなんて。もう。