王になりたくない人達と、メイナの本心。
「ところでさ、ミユキに王がどうとかって話をされたんだけど、どういうこと?」
食事が終わって、全員で食器を洗っていた時、ゾーイが言った。
「あー、魔王の要請でそういう話が出てる。でも僕ら誰も王にはなりたくないんだよね」
「王族殺されちゃったから、早く決めないとまずいよね」
「ミユが捕まってる時に、王族の仕事までこっちに来たって魔王がぼやいてたけど、実際に王族の仕事をしてるのは側近らしいから大した量はないらしいよ」
アンリが説明するのを聞きながら、ドロテアにお菓子を作る。
今回は、すぐ食べられるか分からないから砕いたナッツやビスケットを入れたチョコにした。
「ウィリアムソンは王になりたくないの?」
「本当は家の仕事したいけど、神殿も神聖力が高い奴がいないから……やるなら神殿かな」
「そっちの弟くんは……ちょっと危ないか」
「俺はミューと平民として普通に生きたいだけだから、ミューがいるならいいけど、いなくなったら、国潰すけど」
「危ないな」
「でも、私が王様は知識もないし危なすぎる。それに二人と付き合ってるとかいかがわしいし。色んな人に弟とか……言っちゃってるし普通に生きたい」
「それは知られたくないだろうね。でも自分も普通に生きたいな。王だと絶対結婚してくれる男がいなさそうだし」
「男と結婚したいならその恰好をやめたほうがいい。嫁が欲しいなら別にいいだろうけど」
「なんで相手の性別で自分の恰好を変えなきゃいけないんだ」
「僕だってミユに好かれるために、背を伸ばしたり頑張った」
「そういやウィリアムソンってよく女装してたもんな」
「趣味みたいに言うな。上からの命令なのに」
「別に、アンリとは背を伸ばす前から付き合ってたから関係ないよ。魔王に付き合ってるってアンリが言った時も女の子だと思ってたし」
私の言葉にアンリはへらっと笑った。
リツキはなぜか硬い顔をして食器を拭いている。自分の見た目が変わったのを今更気にしているのかもしれない。
「ミユキって案外誰とでも付き合おうと思えばいけるタイプなのか」
「わかんない……でもまぁ好きじゃないと付き合わないよ」
リツキがパアァと顔を明るくした。
わかりやすい。わかりやすいね!
ゾーイは、うーんと考えながら、食器を洗う。
そして、あっ、と呟いて手を止めた。
「そうだ。こういうのはどうだろう」
そう言いながら考えたことをポツポツと話していく。
考えてもみない案だったので、全員でアリなのか?! という顔になる。
「どうせメイナの件でドロテアと話さないといけないから、今から聞いてみよう!」
作り終わって冷やしていたチョコを見ながら話す。
アンリは仕事があるらしく行かないらしいが、リツキとゾーイは魔王城に行くことになった。
個人用ポータルで魔王城に行く。
ドロテアの元に瞬間移動をした。
ドロテアは、メイナの部屋にいた。
神妙な顔をしながら、ベッドが置いてある黒い石に腰かけて座っている。
メイナは目を覚ましていないのか、朝と変わらずベッドに眠っていた。
「ああやって記憶を見るんだ。見たい時間は見る前にあらかじめ設定できる」
ゾーイの言葉に、なるほどなと思う。あれなら数人がまとめて記憶を見ることも可能だろう。
ドロテアの脇には、紙とペンが置いてある。
日付と時間が走り書きしてあるので、気になった時間などをメモしているらしい。
「なんか真剣みたいだから、声かけるのやめとこうか」
二人に話しかけると、ドロテアがこちらを見た。
「聞こえてる」
そう言って、ノートに日付と時間を書きこんだ。
「で、どうしたの?」
「ドロテア、忙しいのにごめんね。王様のこととかで話があって来ちゃったんだけど……お菓子あげる」
申し訳ないので、持ってきたチョコの箱を渡す。
ドロテアは、箱を受け取って微笑んでくれた。
「いいわよ。こっちも話があるし。じゃあ私の部屋に行く? 魔王は今、凄く忙しいから面会の時間はとれないし」
「うん。ドロテアから伝えてもらえたら嬉しい」
突然景色が反転して、ドロテアの部屋に移動する。
部屋についたドロテアは、パパパッとお茶を私たちに入れてくれた。
促されてソファに座る。
ドロテアの隣には私が座ることになった。
「で、王様がなに?」
「まずこれを見て」
変身で大聖女の時にする姿になる。
「可愛いわね。元よりアホっぽくないし」
「失礼な。大きな仕事をする時はこの姿になろうと思うんだけど、これで王様になって、ついでに時々ゾーイと変わってもいい?」
「いいわけないでしょうが。このアホたれが。もう馬鹿よアンタは」
ドロテアに鼻をつままれる。
私達の中ではアリだったのに、だめなのか~。
「自分が考えたんだけど、そんなにいけなかった?」
ゾーイが不服そうに腕を組む。
「個人じゃないと、誰が責任を持ってくれるのよ。例えば悪気がなくゾーイが下した案件で、ミユキが死ぬこともあるのよ」
「別にいいけど。それが悪気がないのであれば」
「それに今はいいかもしれないけど、他人なんて仲たがいしたり裏切るかもしれない前提で考えないと」
ドロテアの言葉にますますゾーイは不機嫌そうになる。
「裏切るなんてめんどくさいし、死ぬようなことは起きないと思うけど。こっちだって馬鹿じゃない」
「ゾーイは賢いけど、経験値が足りないようね」
「ミューが死ぬ恐れがあるなら王になんてならなくていいよ。俺とあいつと一緒に平和に生きたらいいじゃん」
「ミユキが王になれば、貴方たちは戦地に行くことになっても、ミユキは戦地に行かなくても済むわよ。玉座を空けるわけにはいかないから」
「じゃあ王になったほうが良いな」
もうリツキは黙っていてほしい。
「今、王族の代わりに仕事をしている側近の人って、王にはならないの?」
「神聖力がないし、極度の人嫌いらしくて無理だと思うわ」
それはダメだなぁ。
それに会社の社長が一人しかいないとかと同じ理由だよねと思うけど、難しい。
「複数人はダメだとしても、私の大聖女姿で王様になるっていうのは無理?」
「魔王に聞いてみないとってところね。変身っていうのは基本的に他人にも解けるから。そんなに嫌なの?」
「二人と付き合ってるし、リツキは弟って色んなところでいっちゃったし、知識もたりないし、普通にお出かけしたい」
「確かにそうよね……醜聞みたいな感じに書かれたら嫌か。分かったわ。魔王と話してみる。ゾーイも嫌なのね」
「一人だと面倒すぎるし。結婚相手もできなそうだから表に出たくない。ミユキと一緒ならいいよ~」
「なんでこんなに権力に興味がない奴らばっかりなのかしら」
ドロテアは頭を押さえつつ言った。
たぶん、広く聞けば王様になりたい人なんて山ほどいるだろう。でも、魔王は自分の味方を探しているから、赤の他人ではダメなのだ。
大聖女や勇者であれば、王にふさわしい。特に勇者は魔王を殺せるレベルの実力もある。
だけどリツキはなんというか、賢い面も優しい面もあるし仕事はきちんとこなすけど、本当に私以外は興味がないというのが透けて見える。
女にうつつを抜かしすぎるトップはだめだ。
「ごめん。一回魔王と話しあって」
「仕方ないわね」
冷めた紅茶を飲んで、こちらをジッと見る。
「なに? 私の顔になにかついてる?」
「そういえば、メイナだけど。貴方に殺されたがっていたみたいね」
「それ、言うのかよ」
ゾーイが呆れながら言った。
私は言われたことの意味が分からず、ドロテアとゾーイの顔を交互に見る。
「どういうこと?」
「神聖力が高い聖女は、自分で無意識に治すから死ねないのよ」
「今回したことを行った後に、他人に内臓を潰してもらえばすぐに死ねる。なのに貴方が来たから断念せざるをえなかった」
「私がメイナを殺すわけないよ。犯人なのに」
「犯人じゃないかもしれない」
「……え?」
「だから、あなたを貶めて、助けてもらわないようにした」
「じゃあ犯人は」
「もっと記憶を見ないと分からない。その可能性があるというだけのこと」
「……可能性」
でも、メイナが死にたがっていて、犯人を隠したがっているのなら答えは決まってる。
だけど私はそれを考えたくはなかった。




