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【完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
大聖女は聖女を助けたい編

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大切な人のために狂えない人間は、静かに壊れる

数日後

朝から自分の姿を変身させる。


「うん。これでいいか」

「元の姿の方が可愛いけど、ぜんぜん関係ない方向ならこれか」


二人は納得という顔をする。


緩くウエーブを描く腰まである茶色の髪は、先が金色だ。

瞳は青色と緑でオッドアイにしてある。

幼さの残る美少女が大聖女として動く時に使う私の姿になった。


どう考えても元の数十倍以上こっちの方が可愛いけど、二人は美醜の感覚がおかしくなってしまったらしい。


「ミューの森に住んでるイメージは捨てられなかったから良かった」

「今まで私、森に住んだことないけど」

「僕は清楚さだな。ミユの姿を消して、どこまで表現できるかと思ってたけど良かった」

「私の姿って清楚なの? 初めて知った」


二人につっこみながら変身を解く。

それにしても、やっと決まって良かった。

毎日ああでもないこうでもないと話しあって、正直どうでもいいよ状態だったから。



聖女宮にリツキと一緒に向かう。

あれから魔王とドロテアに契約書を渡して、ガラレオから連れてきた四人を魔族領に行かせたりした。

ゾーイは勝手に色々やっているので、私がなにか言わなくても勝手にすべてが進んでいる。


「護衛ってなにしてるの?」

「今は話し相手くらいだよ。昼とか中庭とかにいるから見に来れば?」


まったく怪しいところはありませんよという調子でリツキが言うので、そんなものかと思う。

今日は、魔族領に行く聖女を追加で募集するためのポスターをゾーイに見せるために来た。

オタクの嗜みでおぼえたイラスト技術が、今はポスターを書くのにも役立っている。


リツキと別れて、ゾーイの部屋に行く。


「おはよー! ポスター、これでいい? 言葉とかチェックしてほしい~」


入った途端そう言ってポスターを見せる。


「おはよう。今日は早いね」


ドロテアといい、勝手に入っても怒らないのはありがたい。

ゾーイはポスターを受け取ると、全体を確認するように視線を動かした。


「うん。いいじゃん。これでいこう」


OKがでたので、バッグから絵具セットを取り出して仕上げる。

一時間ほどで、二枚のポスターが仕上がった。




「じゃあ、ポスター貼ってくるね」

「あ、自分も行く。飲み物とか買いたい」


あ、ゾーイも行くなら、大聖女の姿になろう。

パパっと大聖女の姿に変身する。


「見て! 大聖女の姿。かわいい」

「ああ……モデルさんみたいだけど、今、変身する必要ある?」


褒め言葉なのか分からない言葉を言われながら二人で食堂と中庭にポスターを貼る。

中庭の壁に貼ろうと向かっていると、リツキがユラと一緒に草の上に座っていた。

少し離れた位置に、メイナが座っている。


「彼氏が他の女とイチャイチャしてるじゃん」

「護衛の仕事を頼まれてて断れないんだって」


リツキはこちらに気付いて、少し驚いた顔をする。

手を振ると、リツキはユラに何かを話して、メイナに声をかけるとこちらに歩いてきた。

ズンズンと歩いてくる姿は怖いし、目が真っ黒だ。


「なに浮気してんの?」

「え?」

「コイツ!」


勢いよくゾーイを指さす。


「ゾーイは女の子だけど……前も会ったじゃん」

「身も心も女ですけど」


あーぁという顔で話すゾーイに、リツキの目が元に戻る。

まわりの聖女がみんな注目していた。


「好きな恰好してるだけってやつ?」

「そうですね……」

「複雑すぎるッ 浮気じゃないよね」

「浮気だったら手を振らないし。早く護衛に戻ったほうがいいよ」

「うぅ、冷たい……またあとで」


注目されていることが恥ずかしくてグイグイと背中を押すと、リツキは嘆きながら帰っていった。

まったく、ポスターを貼りに来ただけでこんなことになるとは思わなかった。

ポスターを取り出して壁に貼る。


「あ」


背後でゾーイの声が聞こえた。

振りかえると、遠くでリツキにユラがキスをしていた。

手に持っていた接着剤が地面に落ちる。


リツキがユラを離して、こちらをバッと振り向いた。

大聖女の姿は、今日が初披露なので、これ以上事を荒立てたくはない。


(あの子、アンリにもキスして、リツキにもすぐにキスするなんて)


「とんでもない顔になってる! 行くぞ」


ゾーイに連れられて、ズルズルと部屋に戻る。

ムカついている私をソファに座らせると、ゾーイはお茶を入れた。


「ジュースは、あとでいいや。その姿で怒ってられると嫌だから戻って」


姿を元に戻す。


「あの子、この前アンリにもキスして、今日はリツキにもした」

「ええ、そうなんだ? まぁあの子ずっと酷い目にあってたらしいから、記憶をなくしても染みついたものがあるんじゃないかな」

「メイナからも可哀想だから貸してみたいな感じのこと言われたけど、貸せない」

「そりゃ貸せないよ」


プンプンと怒っている私に、ゾーイは苦笑していた。


「まぁ、大丈夫。勝手にしてきたキスなんて事故みたいなもんだし。数に入らないよ」

「入るよ! 私の初めてのキス勝手にされたし! そのせいで弟と恋人になるというめちゃくちゃな人生!」

「は、あいつ弟なの?」

「あ、言わないでおいたんだった。義理だから血の繋がりは一応ないよ」

「それは、本当に幸せなのか? 丸め込まれてるだけじゃないのか?」

「大丈夫だと思う! だって今腹が立ってるから!」

「そんなの証明になるかァ」


呆れているゾーイは向かいのソファに寝ころんだ。

そして少し目を座らせると、ドアの方向を見る。


「外にメイナがいるけど、中に入れる?」

「え、外に?」

「邪魔な時はドアが叩かれても音が鳴らないようになってる。でも知らせは届くから」

「たぶん、用は私にだと思うけど、ゾーイが迷惑じゃないなら入れてほしい」

「いいよ。じゃあ入れる」


ゾーイは扉を開けて、メイナを中に引き入れる。

引っ張られるように、中に細く美しい身体が室内に入ると、こちらに顔を向けた。


「大聖女様! 騎士様がもう来ないと言って帰られてしまって」

「それは……キスをしてくるお客さん相手には、仕事ができないんじゃないでしょうか」

「妹は、少しふわふわしていて、していいことと悪いことが少しだけ分からないだけなんです。聖女様から騎士様に言っていただけませんか?」

「嫌です」


なぜ私がと思いながら断る。

善悪の区別がつかないから犯罪をしていいことにはならない。


「大聖女様には、二人も要らないじゃないですか! なんで可哀想な子一人に慈悲もかけられないんですか」

「そういう問題じゃ……」


この人の中では、相手の意思は関係ないことになってるの?

ちょっとおかしいんじゃないだろうか。


「私達、神殿のせいでずっと苦しんでいたんですよ。大聖女様だって見捨てていたくせに、酷いじゃないですか」

「いや、ミユキがこの世界に来てから半年も経ってない。神殿の不手際をミユキのせいにするのは違う」

「だとして! じゃあ恵まれているじゃないですか。汚い奴らを相手しなくても、あんな二人に相手してもらえるなんて……」


それもそれで最初は嫌だったけど、と思うが、それより酷い状況にいた人に言えることは何もない。

運が悪かった、という言葉では納得できない現実がそこにある。


ズイ、とメイナが私に顔を近づける。

肩を掴まれたけど、振りほどくのも罪悪感があって、そのまま固まっていた。


「どうして、こんなに人生に差があるの? ユラの方がずっと純粋なのに」

「メイナ。お前、いまマトモじゃないぞ」


私の肩に爪を食いこませている手を剥がすと、そのままゾーイの方に引き寄せられる。

メイナはボロボロと泣いていた。


「私はいつだってまともよ! 狂っていたのはいつだって世界だった!」


ああ、どうしようと思う。

言葉が通じるから錯乱ではない。メイナは狂えないのだ。


「記憶、消しませんか」


恐る恐る話す。

ギロリと睨んだメイナがこちらに手を振り上げた。


(あ)


どうしようと思った瞬間、身体が後ろに瞬間移動して、ゾーイと一緒に床の上に転がる。

身体を抱えられていたことを思い出した。


「簡単に言わないでよ! 記憶を消したら、この恨みを忘れてしまう」


行き場がなくなった手が、ソファを叩く。

私が持ってきたバッグが落ちて、中身がばらばらと床の上に散らばった。


「私が忘れたら、誰があの子の無念を覚えておけるの? 誰もが私達を死んでもいい存在だと利用していたのに」

「メイナ。ここは閉鎖的だし、ユラと一緒に魔族領に行ったほうがいいと思う」


ソファに倒れこんでいるメイナに向けてゾーイが止める。

ギッと顔を上げてこちらを睨むと、メイナはゆらりと立ち上がった。


「嫌。私に指図しないで。なに、ゾーイまで大聖女の味方なの? いいご身分ね。やっぱり聖女と大聖女は立場が違うのね」


メイナは泣いたまま、入り口に向かって帰っていく。

私は何も言えないまま、その背中を見送るしかなかった。





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