ミユキ・新しい見た目が欲しくなる
次の日
昨日の夜と今日の朝の二人は、昨日の朝とはうってかわってベタベタしていた。
やったことを話すと全肯定してくれるレベルだ。全肯定すぎてちょっと怖い。
二人の気持ちはよくわからないけど、悪い方向にいかなくて良かったと思いつつ、何もしないで三人で寝た。
聖女宮に向かう。
ゾーイの部屋に直接行くと、書類がテーブルの上に置いてあった。
「聞いておいたよ~ガラレオにいた聖女はレイナード姉妹以外の四名、全員が魔族領に行きたいって」
「あとディヴィスの契約も貰っておいたけど、グイグイ凄かったから、あんまり会いたくないな」
「ありがとう。ごめんね」
「いいよ。でも思ったけど、この恰好モテるな。自分が怖い。凄まじいかっこよさなんだな」
確かにゾーイが男性っぽいパンツルックをしているとすごく似合う。
私が着てもただの女のアジア人だから羨ましいけど、好きな恰好をして困ってる人に色々なお願いをするというのも申し訳ない。
(私も神聖力でかっこいい姿に変わったら、聖女にモテモテになってゾーイの負担が減るんじゃないかな?)
それに、この黒に近い髪色と見た目はウィリアムソン家のお気に入り四級聖女として人の記憶に残りすぎている。
大聖女として動きたいなら、見た目を変えるのもアリかもしれない。
「私もかっこよくなろうかな! ねぇ、姿を変える呪文教えて!」
「えぇ? たぶん似合わなそう」
「絶世のイケメンになって、ゾーイの負担を減らしたいから」
「別にそんなに負担じゃ……それに女だから、自分もイケメンではない」
ブツブツ話すゾーイに姿が変わる術を教えてもらって自分にかけた。
グンッと背丈が伸びる。
服が体に食いこんで、ちぎれそうになった。
「わぁ!!! 服がやぶける!!!!」
「戻れ。破れたら服を貸したくても丈が合わないし、口調も女だから合わないよ」
「うぅっ」
慌てて元に戻る。
「あ~ぁ。破れてはないけど、縫い目が広がってる」
「この姿は四級聖女として目立ちすぎたから、見た目を変えたら表に立ちやすいし、ゾーイの負担も減らせると思ったんだけど」
「あぁ。そういう意図。別に大聖女として見た目を変えたらいいんじゃないか? キレイな感じに」
あ、そうか。ただ見た目を変えるだけでもいいのか。
「どんなのがいいかな」
「知らないよ。こっちが決めたらミユキの彼氏が切れそうだし、そっちで考えな」
確かに勝手に決めたら怒りそう。
考えていると、ゾーイはテーブルの上の書類の束を手に取る。
「そういえば、言われた話を具体的に詰めたいんだけど、誰に話せばいい? 一応まとめておいたけど」
「一晩で? 凄い。まずはアンリに繋いでモーリスさんに持っていくのが一番かなぁ。今から行く?」
「えぇ? 今から? 大丈夫かな……まぁいいか」
微妙な顔をするゾーイを不思議に思いながら、二人でアンリの家に行く。
いつも通り、仕事中のアンリの部屋に行って部屋に通されると、アンリがガタっと席を立った。
「ミユ、どうした」
「ゾーイが聖女を働かせる計画を詰めたいんだって。モーリスさんに繋いでくれない?」
「いや、そうじゃなくて。なんでそんなに服が」
そう言いながら、ゾーイをぎろりと睨む。
「こっちは関係ないから」
ゾーイが呆れながら何かをしている。
見た目が男性っぽいから、なんか勘違いしてる?
「服は男に変身しようとしたら伸びただけだよ」
「男に? なんで」
「ゾーイが好きな恰好したらモテて困ってるみたいだから、私もイケメンになろうと思って」
「どういう思考回路? 似合わないからやめたほうがいい」
「私、この見た目で目立ちすぎたから、上に立つときは違う見た目のほうがいいと思ったんだけど」
「ああ、それは確かに。それにまたぼくのお気に入りだからって狙われても困る。大聖女として表に出るなら変えたほうがいい」
「美人になってみようかな」
とりあえず、ドロテア風の絶世の美女になってみる。
水色の髪に、胸は大きくて、腰はくびれている涼やかな流し目の美女になっていると思う。
「大聖女バージョン! どうかな」
「好みじゃない」
「ミユキは言動がアホっぽいから、もっとアホっぽくしたほうが合うんじゃないかな」
「失礼な」
これでも最近はちょっと自信が付いてきたくらい色々できてるのに。
アンリはうーんと考えながら、本棚にいくと、中から数冊の本を取り出す。
「これに、大聖女の挿絵が載ってた。それに合わせたらいいかもしれない」
ペラペラと探して、こちらに渡してくる。
清楚な聖女が書いてあったので、それになってみる。
「うーん……ミユが好みだから、これもあんまり」
「可愛いけどね。ところで家でやんなよ。こっちは関係ないんだから」
ゾーイが呆れながら、書類を差し出す。
アンリは首を傾げながら書類を見つめた。
「なんの話?」
「聖女宮の仕事を上手く動かすためには、こういう流れでいきたいって言うのを書類にまとめてきたんだけど」
「なるほどね」
書類を受け取ったアンリは簡単に読むと、なるほどと言いながら閉じた。
「これはモーリスに見せた方が早いな。僕も行きたいけど今は忙しすぎる。二人で行ってきて」
「わかった」
返された書類を受け取ったゾーイはこちらに歩いてくる。
変身を解いて、ゾーイの腕を掴むと、アンリに手を振ってモーリスの元に瞬間移動した。
「ここは?」
「たぶん神殿」
ノックをしながら待つと、扉が開いた。
中に入ると、にこやかなモーリスが出迎えてくれる。
「どうしたんだい」
「ゾーイ……あ、この人なんですけど、聖女宮の聖女を働かせる仕事のまとめを頼もうと思って依頼したんです」
ゾーイの後ろにまわって、前に出す。
「そしたら、案がまとまったそうなので見てくださいませんか」
「初めまして。ゾーイ・クーパーです」
私の紹介に、ゾーイは挨拶をして書類を差し出した。
モーリスが書類をペラペラと読んでいく。
「詳しい話をしようか。そこに座って」
二人が詳しい話をしているのを横から聞く。
話が専門用語とか地形の話とかが出てきて、外出制限や会う人に制限があった私には分からない話が多かった。
これは、本格的に私が王は危なすぎるなと思う。
知識もなければ地名すらわかっていない人間が神聖力が上だからという理由で上に立つのはまずい。
「ミユキさんが眠そうだね。お茶を入れよう」
モーリスが立ち上がってお茶を入れてくれる。
別に眠いわけじゃないけど、ちょっと落ちこんでしまった。
「私、この世界にきて間もないので色々なことがわからなくて。お役に立てそうもないので、ポーションに効能とか入れてましょうか」
「ああ、そうだね。この前と同じものを作ってくれたら」
「帰ったら分かりやすく説明するから」
ゾーイの言葉に蚊帳の外じゃないんだなと嬉しくなる。
お茶を出されて、二人が話している横で、膜に入ったポーションに効能を足していった。
一時間後。
話をまとめたゾーイと一緒に聖女宮の部屋に戻る。
色々教えてもらっている途中に、ゾーイが嫌そうな顔をしながらこちらを見た。
「なんか、ミユキの話に出てきた登場人物が分かってしまった」
「どういうこと?」
「神官だもんな。なるほど。でもそうなるとミユキはモーリスさんと二人で会わないほうがいいな」
「もうアンリにもドロテアにも言われてるよ。今日はゾーイがいたから一緒に行く許可が出たんじゃないかな」
「次は付いてこなくていいよ」
「ゾーイも女の子なんだよ。二人きりにはさせられないよ」
私が危ないなら、ゾーイも危ないに決まっているんだ。
「いや……ああ。確かに女だから危ないか。そういえばガラレオに行く途中に薬盛られて処女なくなってたから忘れてたわ」
突然の告白に驚いて相手を見る。
本当にどうでもいいのか、ゾーイは椅子に座って頭を搔いていた。
「そんな簡単に」
「それ以外は兵器を開発とかしてて、そういうのはないから、あんまりショックもないんだけど」
「ショックがないこともないと思うけど」
なんでいきなりこんな話になったのかなと考える。
ゾーイは閉じこめられてたし、聖女宮だと発情する人しかいないから、内心ストレスが溜まってるんじゃなかろうか。
変なことを思い出させてしまったから、ストレスを軽減させる必要があるよね。
「抱きつく?」
「は?」
「人間は抱きあうとストレスが軽減するらしいよ」
ゾーイは椅子に座ったまま、こちらを目を座らせて見つめる。
別にシャーリーとも抱き合うくらいしたし、ジュディとしたっていいから怪しいことはないはずなのに、なんでそんな目で見られるんだ。
「しない。お前そういうことしてるから、他人を落としまくってんだよ。早く帰れ」
「自分から言ったのは今日初めて……あ、確かにモーリスさんもアンリに言われて抱きあったことある」
嫌なことを思い出してしまった。この国に来て正面から抱き合ったのってモーリスが最初だ。
そのせいで相手が惚れたとしたら戦犯はアンリだ。
「怖いな。嫌だ。ミユキは生きる呪いだよ。気を抜いたらおしまいだ。帰れ帰れ」
ゾーイが騒ぎながら私を部屋の外に追い出す。
別に女性なのになと思いながら家に帰った。




