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【完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
大聖女は聖女を助けたい編

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最後の恋

綺麗ではない道を歩いているなぁという実感がある。

他人に流されていた時は、無責任に被害者でいられたけど、今はそれもできない。


神聖力をかけて、おでこに口づける。


「アンリ、起きて」


声をかけると、まぶたが緩く開いて目覚めた。


「寝かせた?」

「ちょっと不安定だったから。美少女にキスされたのがそんなに嫌だったの?」

「いや、あれは、事故みたいなものだから」

「じゃあ、なんで」

「言っても、ミユはあいつと別れてくれないだろ」


気持ちは分かるけど、どうにもならないこともある。

この前、アンリが好きだって話をしたけど、それだけじゃ足りないのかな。


「アンリもリツキも、私からは手を離さないって決めてるから」


言いながら隣に寝ころぶ。

アンリはこちらを見たまま、不満そうにしている。


「最近、あいつとミユが仲がいいから、自分が部外者みたいに思える」

「どうして……」

「前はなんか、好きだけど内心嫌そうな感じがしてた。でも今はない」


アンリは物事をよく見ている。神聖力もチェックしているし、愛想こそよくないが、リツキにも助言するし気遣いもする。

だからこそ、気付きたくないことにも気づいてしまうのだろう。


「たぶん、二人のうちどっちかだったら、ミユはあっちをとるなって思ってキツイ」


私はアンリのことが好きだし、この前も伝えた。

だけど、きちんと説明しないで理解してもらうのは難しい。ずっと不安にさせてしまう。


(ちゃんと、ごまかさずに話そう)


「アンリにだけ、本当の話するね」

「うん」


本心を話すのは、難しい。

苦しいことと嬉しい記憶、どちらもあるのに、分からないまま涙ばかりが出てきてしまう。

話している間は顔を見られたくなかったので、添い寝のふりをして顔が見られないように、白い首と肩の間に顔を寄せた。


「リツキはね、ここに来る前とちょっと姿が違うの。でも、本人はそれを大したことがないと思ってるし、私も仕方がないと思ってた」

「でも、たぶん、アンリがいなかったら、私はあの状況は耐えられなかった。姿が違えば違和感があるし、怖い。性欲ばっかりに思えたし、避けられない状況だし」

「だけど、アンリの時は楽しいことしかなかったから耐えられた。同じようなことしてたのに優しかったから」


私は、姿が違ってもリツキを捨てられない。

家族だから? 忘れていたけど初恋だったから? 執着してるから?

分からない。でも怖くてもちょっと嫌でも、いなくなる方が耐えられなかった。

でも、幸せかと言われるとあの頃のリツキは私を通り越して、女という身体を見ているようで嫌だった。

そして、こんな人生になるくらいなら生きていたくないと思って、未来が怖いと思っていた。


「短い間でいい。私は幸せな恋がしたかったから、アンリを利用した」


アンリは利用なんてしていないと言うだろう。

だけどそうなんだ。ユウナギ邸のことが終わったら別れようと思ってたんだから。

こんな選択肢を選んでしまう自分にはもったいない相手だと理解していた。

でも、アンリが私の手を離さないでいてくれたから、私も相手の手を掴んでしまった。


「気付いてなかったけど私の初恋は前のリツキなんだと思う。でも姿が変わって耐えてるうちにわかんなくなってたら、アンリが優しい方法を教えてくれたから、私の心の優先順位がメチャクチャになっちゃった」

「本当に好きになって……だから、私はけじめとしてアンリが最初がいいっておもったの」


アンリの腕が、私の身体をギュッと掴む。

ボロボロと涙が落ちて、髪と布団を濡らした。


話しているうちに気付いてしまった。

あの頃の私は、生きたかったけど死にたかったし、生き返らなくて良かったと思っていた。

優しい二人と付き合うという贅沢な行為は、自信がなく責任感だけはある私にとっては、自分を殺す毒だった。

その中で自分を許すために決めたのが、一人の相手とけじめをもって進んでいくこと。

着ていない姿はリツキに最初に見せたけど、あれだってアンリが先にその権利は持っていたから、自分の中では折り合いがついていた。


「アンリの気持ちはこの前聞いたからわかってるし、最初から事情があるって分かってたけど」

「でも本当の気持ちだった。それだけがこの変な人生で正しいことだった。そうならなかったけど」


リツキが最初だから嫌だったとかじゃない。リツキもリツキで好きだし優しくしてくれた。

それに、あの時の初体験はたぶん誰にとっても、成功とはいえなかった。

でもそういう問題じゃなくて、私がそうしたかった。


「あの日、リツキの参加を許した理由は……」


この前、アンリが気にしていたから、説明する。

でも、これを言えば相手を責めるようであまり言いたくなかった。


「だって、二人にとっては正しくないことをしてる私が、拒否なんてできるわけないよ」


私は二人を失うのが怖い。

どこまで言ったら嫌われるのか分からない。

アンリは乗り気じゃないように思えたし、リツキは待てないと言っていた。

切実な思いを知っている私が断れるはずがなくて、あの時私ができることは、覚悟することしかできなかった。


「ごめん…ミユ……」


頭上から涙声が聞こえて、身体が抱きしめられる。


胸が苦しい。

鼻水は出るし、顔もたぶんぐしょぐしょできれいじゃない。

まるで、私の恋みたいだ。


鼻水は浄化でどうにかなるのかなと浄化をかけてみると、とりあえず綺麗になった。

顔を上げてみると、涙でべしょべしょなアンリがこちらを見ている。


ああ、好きだなと思ってしまった。


「王子様で、好きな人で、最後の恋にしたいのはアンリなの」


濡れた赤い瞳が宝石みたいだと思いながら、伝える。


「本当はね。私、アンリを解放してあげるのが一番いいんだって知ってる」


私は残酷だ。

神聖力を除けば、自分のような人間はたくさんいると知っていながら手を離せない。


「でも、無理なの。私からは離れられない」


だからといってリツキの手も離せない。

相手が望んでくれるなら、相手が離れるまでは一緒にいようと願ってしまった。

それが、いつの日か自分自身を亡ぼすとしても。


「この関係が嫌な時はアンリが決めたらいいと思ってる」


「無責任でごめん……でもこれが本当の気持ちで。今も……複雑だけど、心が潰れてもいいと思うくらい真剣に想ってる」


「伝わったら、嬉しいんだけど」


どう伝えたらいいだろうと、真剣に少しずつ言葉にした。

アンリが、隠すように腕で目を隠してから、小さく頷く。


「信じなくて、ごめん」


「後悔が……本当にちゃんと好かれてた」


抱えるように抱きしめられる。

顔が見えなくなってしまったけど、その方が安心できた。


「言い訳になっちゃうけど……僕は、結果でしか褒められてこなかったから、数字がないものは信じられない。自信がないんだ」

「愛とか、好きとか……誰だって言ってくるし、すぐ移り変わる。本心がどうかなんて分からないから、苦しい」

「データは嘘をつかないし良い結果は自信を与えてくれるけど、人を好きになるのは、正解がわからない……」


アンリはいつも私の話を聞いてくれたから、余計そうなのだろう。

お互い初めてなのに、私が後から自分のことを汚いと言い出したり、3人で付き合うことになったり、めちゃくちゃだ。

不安定になっても仕方がない。好きじゃなければ相手のことなんてどうでもいい。どうでも良くないから辛いのだ。


「不安にさせてごめんね……」


細い背中を抱きしめて言う。


「いや。嘘でもいいと思える強さやミユの言葉を信じていれば、こんなことにはならなかった」


そう言うと、私を抱きしめたまま、身体を起こした。

私も体勢を直そうとすると、向かい合わせになったまま、アンリの上に座る感じになってしまった。


私と自分に浄化をかけつつ、赤い目をしたアンリは微笑む。


「さっきミユが行った、最後の恋ってやつさ」

「うん」

「僕も、あっちが嫌になっても、最後まで残るのは自分だからいいと思ってた」

「アンリも最後の恋でいいの?」

「僕は最初で最後だけど、ミユがいい」


泣いて白目まで赤くなった瞳が私を見つめている。

本当に私でいいの? と思ったけど、聞いたら無くなってしまう気がして聞けなかった。

綺麗な道ではないし、不安にさせてまで繋ぎとめるなんて傲慢だ。そう思っているのに。


「頑張って、幸せにする」


キスをしようと、肩に手を置きながら目を閉じる。


「頑張らなくてもいいよ」


耳に優しい言葉が聞こえた後、アンリからキスをされた。

そのまま押し倒されて、服がしわになるけどいいやと思いながら、そのまま足を絡める。


暗い部屋の中、衣擦れの音と、呼吸音と、互いの声だけが静かな部屋に響く。

いつもより少しだけ激しい心も体も受け止めた時、ふと気付いた。


苦しくても努力してしまうのは、愛なのかもしれない。


恋は、愛に変わる。

初恋も最後の恋も本当だけど、二人同時に続けるのはおかしいといつも真面目な自分の心と喧嘩する。

二人の身体を受け入れる私を、いつももう一人の私がこの行為は恋ではなく欲なんじゃないかと問いただしていた。


(やっと理解した)


汚くても、苦労しても手を離せないのは、愛に変わったから。

恋も分からないと思っていた私の本心が、知らない間に変質していた。



「愛してる」


伝えたかったから、身体を寄せて伝える。

アンリの腕が私を抱きしめた。


「はじめて聞いた」

「はじめて言ったから」


恋の終着地の初めては、これが最後なのかもしれない。

いつだって本当の初めてはリツキで、最後はアンリだった。


「僕も愛してる」


間近に聞こえた声に、呼吸が止まる。

不器用な私たちは、不器用なまま愛を重ねていた。







初恋の対が最後の恋なので、これに関しての伏線説明活動報告を今から書くので、良かったら読んで下さい。

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