人助けをすると変質者に狙われるらしい。
一週間くらい経った。
練習に練習を重ねて、やっと練習は佳境に入ってきた。
「神聖力タンク化!できた!!」
「出力調整もできてる。じゃあ、聖女四級くらいまで落とすようにポーション作っていこう」
「頑張る!」
ポーション瓶に、赤い色の液体を詰めていく。
薄い色の時は何色だろうと思ってたけど、練習を重ねたら赤だと分かった。
いちごみたいな色でとてもかわいいし、アンリの赤色の目と似ていて、とてもきれいだ。
アンリは私が作ったポーション瓶の蓋をとって飲む。
「ふむ。味も濃くておいしい」
「よかった! 家でも練習したから!」
「売ったらかなり売れるだろうけど、ここまで甘くて美味しいと生産者探しが始まりそう」
それは困る。
自分の汁と言われてのまれるのも嫌だけど、生産者が分かってから飲まれるのはなんかやだな……。
「ポーションっていくらで売れるの?」
「人気でこのグレードだと、安くて卸で一本金30くらいじゃないかな」
金30?! 日本円だと15000円! 高い!!
えっ、じゃあ10本売ったら15万円じゃん!!!!
「売りたい! 四級聖女のもらえるお金安いから!」
「じゃあ、うちの家からどうにかして売る? もっと値段上げられると思う」
「いいの? アンリなら信じられるし嬉しい!」
ポーションを作りながら、即答する。
何割かとられたとしても、自分で売るのは大変だし、頼れる人は頼りたい。
アンリは意味ありげにこちらを見た。
「なんか、最近……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
なんなんだろうと思いながら、疲れを感じてきた。
ポーションを20本も作ると、そろそろ四級聖女レベルに神聖力が落ちた気がする。
「そろそろいいんじゃないかな」
「そうだな……あ、ちょっと使いすぎ」
アンリがそう言いながら、私の肩に手を置く。
「うん。このくらいなら四級聖女だ」
「肩に手を置くとなんか変わるの?」
「神聖力を回復させてる」
ああ、聖女って自分の神聖力を他人に分けることができるもんね。
「ありがとう。このくらいが丁度いいってことか~」
確かに、もう疲れているって感じない。疲れるのは使いすぎなのかも。
「じゃあ、今日の帰りに町に行こうかな! ごはんの食材がもうないから」
「ミユが作る?」
「うん。こっちの料理じゃなくて、元の世界の料理に似てるけど」
「食べてみたい」
「え、いいよ。食べに来る? 元の世界のだから口に合うかはわからないけど」
「いく。瞬間移動できるから、馬車いらないし」
確かに、アンリも一級レベルの神聖力がある。
「じゃあ、食材買ってから帰ろう~」
アンリがパタパタと執事に話に行く。
その背中をほほえましく見送りながら、窓の外を見た。
(……?)
向かいの家の屋根に、人が立っていた。
街の中央区にアンリの家は建っているので庭の敷地面積が狭い。
だから、米粒より小さい姿ではあったが、判別ができた。
(自殺? あぶない! どうしよう)
見ていると、ふらりと屋根から真っ逆さまに落ちていく。
(……!?)
驚いて一瞬目を閉じる。
こわごわと目を開けて落ちたところを見ると、男性が倒れていた。
(き、救急車!)
あ、よく考えたら私が聖女だった。
あそこまで50m以上は離れてるけど、ここからでも回復かけられるかな。
神聖力タンクには神聖力が満ちているから欲しい分を取り出せばいいけど、瞬間移動はしてはいけない気がした。
(よし、試そう!)
米粒より小さく見える姿に集中しながら、回復の言葉を唱える。
(回復しろ! しろ!!)
タンクから取り出しながら、相手に向かって祈る。
神聖力と言うのは、使ったからといって光ったりしない。
回復したからと言って、回復しましたよというお知らせもないので分かりにくい。
だから、どこまでかけていいのかわからずかけ続けた。
「ミユ、なんか力使ってる?!」
慌ててアンリが帰ってきた。
「なんか、今外見たら、あそこの屋根から飛び降りた人がいたの!」
アンリに説明しながら、窓の外を見る。
地面に倒れていたはずの男性は、なぜかもういなかった。
「あれ? もういない」
私の言葉を聞きながらアンリは窓の外を見て、険しい顔をする。
「ミユは、見て見ぬふりをしたほうがよかったかもしれない」
「え、どうして?」
「回復するときはポーションと同じ味がするから、癖になる」
「癖になるだけなら、死ぬよりマシだよ」
「変質者がウロウロするかもしれない。しばらくこの家には来ないほうがいい」
そう言い切ると、アンリは私を室内に押しながら窓から離れた。
「そんなに?!」
「とりあえず、街に行くから、ポーション四本分タンクに戻して」
「はーい」
ポーション四本分も外に出してたなら、さっきけっこう回復かけちゃったなと思う。
この辺の勉強や適量を学ぶ必要があるなと考えながら、アンリと街に行って、家に帰った。
今日の食事は、スープとパンと照り焼きチキンみたいなものにする予定だ。
リツキが行きつけの店で頼みこんで教えてもらった秘伝の調味料レシピだ。
普通は1から試行錯誤して元の世界に似ている調味料を探さなければいけないけど、プロに聞けば早い。
もちろん関係性とかも必要だろうけど、そこはリツキに感謝というところだ。
ロイヤルミルクティーに似たものを作り、待ってもらうように言って、料理を作る。
「美味しい。なに乳?」
「これはトリカカポ。うちの国の牛の乳と似た味がするんだよね」
トリカカポは足が6本あるカバみたいな生物らしい。
「ミユの国はわたしの口にも合うかも」
「あったら嬉しいな~」
とはいえ、海外旅行でも口に合うもの合わないものが頻繁に出ることを思えば、なかなか難しい。
母国の味が最高と思う文化はどこにでもあるけど、各国がそう思うのだから、そう簡単でもないと思っている。
(照り焼きは外国の人も好きらしいし、これはここの国の料理だし、甘めだから好かれそうだけど)
アンリは部屋の中を興味深そうに見ているので、料理を作っていった。
しばらく経ったあと、玄関がガチャリと開く。
「ただいまー」
リツキが帰ってきた。
急にアンリがいたらびっくりするだろうから、玄関まで出ていく。
「おかえり! アンリが家に来てるよ」
「なんで?!」
「一緒にご飯食べることになったの」
えぇ、とリツキは嫌そうな顔をしていた。