男装っぽいゾーイは聖女宮でモテる
翌日、また聖女宮に行く。
今日はメイナにアンリのことを断って、ゾーイと会いたいなと思っていた。
レイナード姉妹がいる部屋に行き、呼び鈴を鳴らす。
今日は留守なのか、出てくることはなかった。
(仕方ない。帰り道にまわして、ゾーイに会いに行こう)
瞬間移動で飛ぶと、ドロテアが住んでいた部屋の前に着く。
どうやらゾーイはドロテアのあとに住んでいるらしい。
「こんにちは~ミユキです~」
ドアをドンドンと叩くと、部屋が開いた。
「あ、ふしだらな女。なんでここに?」
「今後のことについてちょっと、お話したいなと」
変な呼び方は止めてほしいと思ったけど、そんなことより王になる資質があるかどうかの方が大切だ。
ゾーイは、前回会った時とは違い、パンツルックの男性っぽい恰好でちょっと髪の毛もスッキリしていたので、かっこよく見えた。
「中に入る? 模様替え中だけど」
「うん。ありがとう」
中に入ると、荷物がたくさん置いてあった。
壁一面がすべて本棚になっていて、実用品以外の物は何もないという感じだ。
「神殿から見舞金みたいなもの貰ったから、色々買って蔵書を入れた」
「素敵だねぇ。お金じゃ納得できないだろうけど、貰えるだけでもよかったのかな」
そうだねぇ、と言いながら椅子に座るよう促してくれる。
「で、なんで来たの?」
「ゾーイさんが帰ってきてから、なにか嫌なこととか要望はある? 上に伝えとくけど」
「うーん。なんか気の毒な目で見てきて、同情するふりをして被害があったかとか聞いてくるのがうざい。自分はいいけど、他の子はきついだろうな」
「そんなこと聞いてくるの? 最低な人間だ。箝口令をひかないと」
メイナやユラに聞く奴がいたら、指を折るしかない。
デリケートなどうしようもないことを聞きたい人間っているんだなと思ってしまった。
「ミユキは上と繋がりがあるの?」
「うん。あるよ。だから要望があったら言ってくれたらどうにかする」
「そうなんだ。他は特にはないけど、自分も二年くらい監禁されていたから、どういう状況か分からないから、教えてくれる?」
「聖女が性接待してたのは知ってる? あと、神官も二階の空き部屋で聖女に買われてたよ」
「性接待は知ってたし、四級くらいが死んだのは知ってたけど、神官も? ふしだらな環境だな。だから聖女が発情してるんだ」
「えっ、発情してるの?」
「この恰好で歩いてたら、引くほどキャーキャー言われる」
気だるげに話すゾーイは、休日の男装麗人といっても差し支えなさそうな恰好だ。
本人は好きで着てるのかもしれないけど、男がいない聖女宮ではキャーキャー言う人がいてもおかしくないのかもしれない。
「男性っぽくてカッコいいから、モテたくないなら止めた方がいいかも。しょうがないよ」
「ミユキも惚れる?」
「私は二人も彼氏がいるから、横見している余裕がないし、惚れたらゾーイは死ぬ」
「死ぬんだ」
楽し気に笑っているが笑い事じゃない。
個人の趣味であるその恰好すら、二人が見たらどうなるか怪しいところだ。
「二人が殺しあいになりそうだから同時に付き合いはじめたんだから、横から入ったらそれは死ぬよ」
「仲裁として付き合うというのは、幸せなのか?」
「幸せだよ。今まで付き合ったことないから何が正しいのかわかんないけど」
「まぁ、幸せの形は人それぞれあるからね」
お茶を入れながら、ゾーイはどうでもいいかなという感じで笑った。
「そういえばゾーイは勉強とか好きなの?」
「ウィリアムソンと同じくらいじゃないかな。そんなことよりミユキのことを知りたい」
「私のこと?」
「大聖女の神聖力がなんで振れ幅が大きいのかとか、なんで二人と付き合うことになったのかとか、なんで聖女を助けに来たのかとか」
「長くなるけどいいの?」
「いいよ。お茶をどうぞ」
ゾーイにはまだ直接記憶を見せたくないので、頑張って言葉でまとめて伝える。
触ると神聖力が増えることや、リツキが魔王だということ、シャーリーの事件。
王城の秘密とかはまだ話してはいけないと思うが、自分のことだけでも話すことは大変だった。
「ミユキって、私のせいっていうけど、全責任を自分で負おうとするところがありすぎじゃない?」
話を聞いた後、眉間に皺をよせながらゾーイは言った。
「そうかな。でもドロテアも似たようなこと言ってるかも」
「もっと気楽に生きなよ。ちゃんと頑張ってるんだからさ」
アンリも似たようなこと言ってたけど、私ってそんな感じに見えてるのかな。
でも無責任に考えるよりは、人を思いたいし、困る。
「難しい……でも、ありがとう」
「まぁ、そんなに色気ないのに二人が発情してんの意味わかんなくて面白いけどね。触ると神聖力上がるのも面白いし」
「私も意味わかんないよ」
まだ、王様になってくれと言うには人となりもわかってないし、判断できないな。
相手だって私を信用していいか分からないだろうし、会う回数を重ねないと良くないのかもしれない。
「そろそろ帰るね。お茶ありがとう。今度お菓子とか作ってくる? ドロテアは喜んでくれたから作ってたけど」
「前と違って今は外出禁止令がないから作らなくていいけど、人が作ったのとか食べるの好き」
そう言いながら立ち上がると、ゾーイは棚から貝殻がたくさん入った瓶を持ってくる。
瓶から貝殻を二つ取り出すと、なにか呪文のようなものを唱えた。
閉じた一つが、ぱかりと口を開く。
開いた貝殻をこちらに渡された。
「来るときはこれ叩いて鳴らして。もう片方のが鳴って開くようになってるから」
「ドロテアに貰ったプレートみたいな奴だ!」
「へぇ、ドロテアも渡してたんだ。けっこう気に入られてたんだね」
ドロテアは友達いなかったせいじゃないかなと思ったけど、それは口に出さなかった。
たぶん、お菓子。お菓子で賄賂を送ったせい。
「たぶん、お菓子のせいかもしれない。ドロテアお菓子好きだから」
「そんなに美味しいんだ。楽しみ」
通路に続く玄関まで送られながら、外に出る。
外に出ると、視線を感じてみると、聖女が道の端に立っていた。
ガッカリした視線をこちらに向けている。
(あれは! 推しのスキャンダルを見てしまったファンの視線!)
一日で粘着ファンができているなんて恐ろしすぎるなと思ってしまった。
背後から肩に手を置かれる。
「次からは直接部屋に来た方がいいかもね」
囁くようなゾーイの声だった。
確かに、これ以上の醜聞は勘弁してほしい。
肩に置かれた手を外して、ゾーイに向き直ってにっこり笑う。
「では、これで調査を完了します。帰ってきた聖女さんの待遇を改善させていただきます」
遠くにいる聖女にも聞こえる音量の声で言った。
廊下は大きな声を出せば響くほどの静かさなので、たぶん聞こえたと思う。
意図を理解したゾーイは、にこやかに笑った。
「よろしくお願いします」
そうして、部屋の扉を閉めて別れる。
視線を感じながら、レイナード姉妹の部屋に行き、呼び鈴を押した。
今度は、中からメイナが出てきた。
「あの、昨日のお話の件なのですが」
遠くで興味を無くしたように、雑談しながら帰っていく足音が聞こえる。
ゾーイとだけ話しているわけではないと分かれば、敵認定されないだろう。
「ちょっとガードをかけます」
二人だけ入れる空間をイメージしてガードをかける。
誰かに聞かれて傷つけたくはない。
「昨日、アンリと話したのですが、もう妹さんとは会わないそうです」
さっそく本題を切り出す。
メイナは目を伏せてから、悲しそうな視線をこちらに向けた。
「少しだけでもいけないのでしょうか。もっと妹には人生や恋の楽しみを知ってもらいたくて」
「聖女には出会いが足りないのかもしれないとは考えているので、出会えるパーティーなどを企画しますので」
「でも、変な男が寄ってきて妹に乱暴を働いたら、また壊れてしまいます」
それはそうかもしれないけど、それはお姉さんが見定めてもらうしかない。
美しい姉妹だからお姉さんだって危ないかもしれないけど、だからといってアンリは差し出せない。
「だからといって、私の恋人と会っても先がありませんし、アンリ本人から言っていることなので」
「……そうですか」
悲し気な声に気の毒な気持ちになるけど、めちゃくちゃなのはメイナのほうだ。
ユラが可愛いのはわかるし、今まで他者に利用されてきたからいい思いをさせたいという気持ちは分かるけど、こちらは関係がない。
「本人が言うことなら仕方ありませんね」
力なく微笑む顔に、理解してくれたのだとホッとする。
「すみません。よろしくお願いします」
頭を下げて、ガードを解いた。
メイナと別れて、聖女宮を出る。
やることは、帰ってきた聖女への心無い発言を禁止すること、出会いのイベントと開催すること。
(でも、良くない状態が二年も続いていた聖女宮で、下手にイベントを開催すると変なことになりそう)
そもそも、帰ってきた聖女に心無いことを言ったり、シャーリーを焚きつけた人間がいるところって、人間的にどうなんだろうか。
聖女は他者を受け入れる人間がなるって言ってたけど、受け入れるけど変な人なんだろうか。
それとも、根本が間違っているのかもしれない。
(ドロテアは聖女は暇だから噂をすると言っていた。それなら、環境を改善する方が先かも)
神聖力を利用して、病気を治していっぱい稼げばやる気も変なことも言わなくなるかもしれない。
環境がよくないと脳が委縮すると聞いたこともある。恋愛イベントより大事なのは全員の幸せだ。
(だけど、そんなことするには、王にならないといけないのでは?)
魔王はやりたいことがあれば魔王の名前を出してやって良いと言ってたけど、一度手を出したら最後まで面倒見るのが道理とも思う。
難しいなとしょんぼりしながら、帰路についた。




