鎖に繋がれた被虐の聖女(上)
聖女を連れ帰るために、ガラレオに移動した。
ポータルから森に移動して四人で話しあう。
「連れていかれたのは聖女13名、神官1名か」
アンリから渡された名前一覧の用紙を見ながらゾーイが呟く。
そして、ブツブツと呟いてから紙を簡単に複製した。
「えっ、どうやったの?」
「神聖力で複製した。神聖力で作ったものだから、数日で消えるが」
興味津々で見比べる私に、ゾーイはフフンと得意げにした。
膜も数日で消えるし、神聖力で作った物体は基本的に数日で消えるようだ。
リツキがずっと私に抱きついているので、ゾーイも気にしなくなっていた。
アンリだけは不快そうにしているが、リツキの目が真っ黒なため今は放っておこうと思っているらしい。
「この中でウィリアムソンが知っている顔はあるか?」
「覚えてないけど、この前会った聖女の顔は覚えてるから、神官とその聖女をあたってみる」
「その聖女の特徴は覚えているか?」
「二人とも髪が白い。目が青。森の中に住んでいる様子だった」
「レイナード姉妹だな。あの二人は一級だから、街中じゃなくても生きられる」
キビキビと印をつけている姿を見ながら、きちんとしているなと思う。
「では、まずはこの三名。終わったら連絡を」
「ゾーイが一人は心細すぎない?」
「いや、一人でいいよ。ウィリアムソンはさっきから切れそうだし、お前の後ろの奴は二人にしたら危なそうだし。聞くけど脅されてない?」
「脅されてないし、目が黒くない時は常識的なんだけど……」
基本的にリツキはアンリよりは社交性があるし、常識的だと思っている。ただ、目が黒い時は発言があやしい。
たぶん、さっき私が床に押しつけられてたのを見たから、ゾーイを敵視してるんだなと思う。
「それならいい。ではこちらは行くから」
爽やかに言うと、ゾーイはパッと姿を消してしまった。
「じゃあ僕たちも行こうか。ミユは簡単に殺したこととか言わないように。どこから漏れるか分からないから」
ゾーイとの室内の会話聞かれてたのか。
「ごめん」
「いいよ。ゾーイはミユを陥れる危険性はなさそうだし。じゃあ最初は神官のところに行く」
そういうと、アンリは流れるように瞬間移動をする。
気付くと、街中に移動していた。
「リツキ。私は大丈夫だから、もうそろそろマトモになって」
うしろにくっついているリツキを離す。
リツキは顔をしかめると、緑と茶色の瞳に戻っていた。
「別に頭おかしくなってないけど、こっちの方が咄嗟の時に動きやすいから」
「でも、みんな怖くなるから止めてね」
頷くリツキを見ながら、アンリは目の前にいる男性の方に歩いて行く。
あれが攫われた神官かなと思うけど、女性と同じで異性が近寄っても嫌かもなと思って、少し離れた位置から見守った。
声をかけられた人間は、気が弱そうだが、整った顔立ちをしていた。
手に草がたくさん入った籠を持っているあたり、薬草を加工して売ったりしているのかもしれない。
男性は苦々しい顔をして、首を横に振る。
アンリは頭を下げると、こちらに戻ってきた。
「連れ去った四人が消えたとしても、あの世界は狂ってるし今まで助けに来なかったことを考えると、戻りたくないって」
「それはそうだよね。なぜそうなったかとか、ちゃんと状況が変わったと分かるように説明しないと説得は難しいよ」
男性はこちらを見ている。
でも、ここまで来て相手になんの説明もしないまま不安にさせたまま帰るっていうのも悪いかなと思う。
「ちょっと話してくるね」
小走りに男性の元に行く。
「はじめまして~大聖女です」
「大聖女?」
私のアホみたいな挨拶に男性は気が抜けたようだった。
よく考えたら、大聖女って情報は言っていいもんだったっけ?
それに手土産もないから、今のところ怪しいだけだよね。
「なんか、プレゼントとか持ってきたらよかったんですけど」
野球の玉くらいの膜を作って、中にポーションを入れて手渡す。
「こんなものですみません。この外側は数日で消えるので気をつけて。あと大聖女ってことは内緒にしておいてください」
「あ、はい。わかりました」
男性は完全に困惑している。
それはそう。ただの不審者にしか見えない。
でも甘くて美味しければとりあえず神聖力が高いとは分かるから、ちょっとは信用度が上がるかもしれない。
「もううちの国には戻りたくないんですよね?」
「そうですね。でももうこっちに家族がいるし、生活基盤ができてしまっているので」
なるほど、家族がいるのか。
じゃあ簡単にこっちに来るのは難しいよね。
でも支援してあげるとか、別の道を探すこともできそうだ。
「わかりました。じゃあ、こちらで住み良くできるような話があったら、また持ってきます」
「は、はぁ……どうも」
男性はまったく信じていないという顔をしていた。
それはそう。ぽっと出の我ながら何もできなそうな顔をしてる女、害もないけど薬にもならなそう!
頭を下げて、アンリとリツキのいる方に走っていく。
二人に近づいたら、二人に手を引かれて瞬間移動をしていた。
わぁ、と思った次の瞬間には森の中にいた。
「街中で変なことするのやめなよ。こっちには神聖力を使う奴なんていないんだから」
「ミューが大聖女って知られたら、捕まえる奴が出てくるから人が多い場所で言うのは危ない」
「あ、そうか。ごめん」
呆れている二人に、なるほどと思って謝る。
面倒でもガードをつけてから話したほうがよかったのかもしれない。
「こっちにご家族がいるんだって。でも、アンリのとこのお薬とかできたら流通とかする時に手を貸してくれるかもだし」
「そんなこと考えてたのか。まぁミユがいたら効果をつけたポーション状態でも輸出できるし、いいかもしれないな」
アンリがニコッと笑う。
その向こうに、白い髪の女性が見えた。
「あっ! レイナードさん!」
思わず大声を出した私に、女性はビクッとしてこちらを見る。
そして、アンリを見た後に、ああ、という顔をすると、こちらに歩いてきた。
「この前、お会いしましたよね」
「そうですね。もう貴方たちを苦しめていた人間がいなくなったので、迎えに来ました」
アンリが珍しく紳士的に対応している。
外向きのアンリもかっこよくていい。
「中で話しましょう。どうぞこちらに」
女性が先導して、石造りの古ぼけた家に案内される。
その途中、手を広げて何かを呟いていた。
おそらくガードを張りなおしているのだろう。
案内された室内は、整理整頓されていた。
四人掛けのテーブルに座ると、女性がお茶を出してくれた。
「初めまして。メイナ・レイナードと申します」
白い肌に白い髪。青い目の女性は、とても神秘的で美しい。
こちらもアンリから順に自己紹介をしていった。
「それで苦しめていた人たち、というのは、エリオットと、フォーウッドがいなくなったということですか?」
自己紹介が終わった後、さっそく本題を切り出される。
この二人を苦しめていたのはこの二人なのか。
「いえ。うちの国と繋がりがあったガラレオの貴族も消えました」
「それは……ここ数日、なぜ誰も来ないのか考えていましたが。そういうことですね」
「こちらに戻りたいという気持ちがあれば、一緒に行きましょう」
「行きたい気持ちはありますが、私達は神聖力の鎖に繋がれているので」
「なるほど。この家と繋がっている状態なのですね」
アンリは理解したという感じで話しているけど、こちらは全然理解していない。
神聖力の鎖は、家に繋がれるという感じなのだろうか。そんな犬じゃないんだから可哀想だ。
「どうすればレイナードさんは自由になれるんですか?」
「無理だと思います。一級の三倍程度に強化されているので」
前のめりに質問する私に、メイナは首を横に振る。
フォーウッドの作ったガードが堅かったのは、強化されていたせいかもしれない。
でも、それならこちらで壊せる。
「やってみます!」
こっちは大聖女だし、リツキは勇者だから、頑張ればなんとかなると思う。
女性は、少しため息をついてから、私達を奥の部屋に案内してくれた。




