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【完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
大聖女は世を正す編

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初恋

次の日。

アンリは過去最高にへらっとした笑いを通り越してニッコニコしていた。

相手を好きだっていうのは相手に伝わるんだなと思ってしまったし、私も朝も好き~となっていた。

アンリがあまりにニッコニコなため、リツキの家に帰って料理を作ることは諦めた。

家の目の前には、ちょっとした市場があったので食事を作るのは困らない。

だけど、リツキにも食事と思ったけど、家に帰った時にはもう家にはいなかった。




夕方。

勉強をして食事を習って、リツキと二人分貰うと家に戻った。


昨日、アンリが色々話したのは、お風呂の素直になる効能がアンリにも効いたらしい。

それなら、リツキにも何らかの効能をつけたポーションを飲ませて、ちゃんとどっちも好きってなったほうがいい。

家の中にアンリが入れないようにガードをかけて、ウーンと考える。


(そもそも、最初からなんでリツキはあんなに興奮した犬みたいなんだ。絶対他の女の子にはやってないのに)


私が弟だからと抱きついたりをあんまり止めなかったせいで、私を触っていいと思っているセクハラ男になってしまった。

身体の大きさが違ってたからか、この世界に来る前は大丈夫だったけど、よく考えたらなんで許していたんだっけ。一回死んだせいか記憶が曖昧だ。

しかも、たぶん他の女とエッチなことをしてたせいか、そういう大人の情報をうのみにしてるせいか、初心者の私には向かない。

私を最初から好きだったというなら、抱きついたりしてない純粋な頃に戻ってもらいたい。



(そうか! これでいこう)


よーしと思いながら、コップにポーションを入れて効能を足していく。

暫くすると、顔色が悪いリツキが帰ってきた。


「ただいま」


最悪な顔色のまま、ニコッとリツキは私に笑った。


「お帰りなさい! これ飲んで」

「ポーション?」

「リツキの初恋を貰おうと思って」

「もうそうなんだけど。まぁ飲むくらい、いくらでもいいけどさ」


リツキはなにも疑わずにポーションを飲む。

ちょっと顔色がよくなった。


「他の女との性体験の記憶を消さないだけ優しいと思って」

「そんなの別に消してもいいよ。それでミューの気が晴れるなら」

「いいんだ」

「そういえばどっか行く? あんまりいい店知らないけど」

「ちょうど卵が切れてるから、歩いて買いに行こ」

「そんなことでいいの?」

「デートは一日空いてる時で、今はお散歩したい」


私の言葉にリツキはニコッと笑って一緒に外に出かけた。

卵や乳などのよく使う食材は、歩いて五分ほどのお店で買える。


「……なんか、今日はミューと歩いてるだけで、妙な気持ちになるな」


リツキは不思議そうな声で言った。


「リツキが飲んだポーションに、私に触っていいって思う前のリツキに戻ってほしいって効能を入れたの効いたのかも」

「なにそれェ……」

「リツキはずっと私に触ってきちゃったし、他の女の子に触って慣れてたから良くないんだって思ったから、やりなおそうって思って」

「初恋ってそういうこと? 別に他の子は好きじゃなかったからなぁ」

「付き合ってたのに?」

「うん。だって家にいるとミューいるから比べちゃうし。だから期間はすごく短いよ」

「え……エッチなことちょっとしたっぽいのに」

「積極的な子って多いからね。まぁでも最後はミューと話してるとこで気持ちがバレて振られたけど」


別になんでもない調子でリツキは言った。

それはその女の子にも悪かったなと思うけど、もうどっちも死んでるから許してほしい。


歩いていると、リツキがそっと指先だけを掴んだ。

顔を見上げると、赤い顔で前を見つめる。


(指先だけで赤くなるの、珍しいし可愛い……)


繋いだ指先をにょこにょこ動かして、恋人繋ぎに変える。

リツキは少し驚いた顔をしたあと、こちらを見た。


「なんかすごく照れるから調子狂う」

「リツキはさ、なんで他の子と付き合おうとしたの」

「は? ミューにキスしたら避けたからじゃん」


……?


「何の話?」

「中学くらいの頃、寝てるミューにキスしたら起きちゃって、すぐ寝たからバレてないと思ったら、次の日から避け始めたじゃん」


リツキが中学生ってことは、私が高校くらいの頃?

あ、確かにそういう卑猥な夢を見て、弟をなんて目で見てるんだと自分にガッカリしていた時期があった。

なんだか、思い出すとガッカリというより、色んな複雑な感情を思い出してしまう。


「あれ、夢じゃなかったんだ。夢だと思ってた」

「じゃあなんで避けてたんだよ」

「だって夢に引きずられてそういう気持ちになったら終わりだなって思ったし」

「別に今だって関係が変わっても終わってないんだから問題ないじゃん」

「それは今、親もなにもいないからじゃないかな」

「でも今も俺が弟ってことが大事なのはなんで?」


確かに、と思う。

義理だし、もうやることはやってるのに弟に拘るのはおかしい。

家族の絆だと思ってたけど、それは私の中だけでリツキは求めてない。

もしかしたら、私はそう思うことでこういう関係になった自分を正当化しているのかもしれない。


(私もリツキと同じように、自分の気持ちに制限をかけているのかも)


問題は自分なんだから、何とかしないとな。

お店について、卵を買おうと手に取る。


「買ってくるよ」


リツキがお金を払いにいってしまった。


(自分にも、もうちょっと自分の気持ちに素直になるように神聖力をかけよう)


リツキを見ながら、自分に神聖力をかける。

効いたか効いてないか相変わらず分からないけど、リツキを見てかっこいいと何となく思ってしまった。


(ん? リツキをかっこいい?)


今まで顔はいいけど、なんか違うなとか身体が大きいとかしか思ってなかったのに。


「帰ろう~」

「う、うん」


自然に手を繋がれて、歩き出す。

さっきと同じことをしているはずなのに、すごく緊張していた。


「なんか顔赤くない?」

「なんか神聖力かけ間違えた……リツキを好きになるように神聖力かけちゃったっぽい」


可愛いとか色々言われたら耐えられそうもなかったから、顔をしかめつつリツキを見る。

元の世界にいた時とは少し違う整った顔が見えて、慌てて目をそらした。


「なんで真っ赤になりながら嫌そうな顔してんの? そもそもミューって俺のこと凄い好きじゃん」

「リツキのことは好きだけど、そんなに好きじゃないっ」

「自分はあいつとイチャイチャするクセに、すぐ女と話しただけで嫉妬するし、すぐ助けに来るのに?」

「助けるのは弟だから!」

「それだけじゃない気がするけどな」


笑いながらリツキは片手は私の手を持ち、もう片方には卵を持ったまま歩いている。


(心臓の音がうるさい気がする)


手にすごく汗をかいていて恥ずかしい。

なのにリツキは遊ぶように手を撫でたり合わせたりしながら、こちらの様子を見ていた。


「リツキって変態だよね」

「男はみんな変態だよ。ミューが知らないだけでね」


知ってるよ。ここに一人いるしね。

なんか、手を繋いでるだけでこんなに恥ずかしがってるの変だけど、仕方ない。

リツキの機嫌がいいまま家に帰った。





部屋に入って卵をテーブルの上に置く。

二人とも顔が赤いので、変な感じだ。


「ご飯あるから食べよ」

「そんなことより、他のことしたくない?」


心臓がドキリとしながら、リツキを見る。


「他のことって……」

「昨日、言われてから反省したんだけど、なんか今の状態になってから、本当に理解できた気がする」


話しながら近寄ってくる。

やっぱり並ぶと昔より大きくて違う人みたいだけど、これが今のリツキなんだ。

向かい合わせで肩を掴まれる。


「ミユキとキスがしたい」


名前を呼ばれて、心臓がギュッとなる。

やっぱり神聖力をかけ間違えたみたいだ。


返事を言わずに肩に手を置いて、背伸びをする。

目を閉じた後に感じた唇の感触に、なぜか涙腺が刺激された。


……あれ? この気持ち、どこかで。


切なくて、もっとしたくて、罪悪感がある、変な気持ち。


「……んぅ……ッ……」


慣れたはずのキスも上手くできなくて、恥ずかしくて身を縮こませる。

その瞬間、あることを思い出して、涙が溢れた。


「……あ」


唇を離したあと目が合って、視界がぼやける。


「どうして泣くの? 嫌なわけじゃないよね」

「……今日は、恥ずかしい」


戸惑いながら聞かれて、本心がばれないように抱きしめる。


本当は違う。

キスしてる時に思い出してしまった。

高校生だったあの日、ミユキと呼ばれた気がして起きたことを。


(キスされたことを覚えていて自分の夢だと思ったのは多分、私もリツキを意識してたからだ)


触ってくる身体を避けなかったのも、怒らなかったのも、この世界に来てからは嫌だったのも、ぜんぶ説明がつく。

この世界に来る前から好きだと思わないように、意識しないように、閉じこめていた想いが、今出てきてしまった。

あの時のリツキはもういなくて、でもここにいる。

同じようで違う身体が怖かった。


(私はたぶん、あの時から名前を呼ばれたかった)


いつからか分からないけど私の想いなんて、とっくに変質していたんだ。

繋ぎとめるために家族と言っていたのは、無意識に自分をごまかしていたのかもしれない。


(私の初恋……かもしれない)


初恋は実らないというけれど、これは叶ったのだろうか。

でも、目の前にいる私を大切にしてくれる人は少し変わったけれど、リツキだ。


(素直になって受け入れたら、きっとリツキだと実感できる)


リツキの身体をぎゅっと抱きしめる。


「私、リツキのこと、ずっと前から好きだったみたい」

「そりゃ、ミューみたいな子は、かなり好きじゃなきゃセックスはしないだろ」


意味が分からないというような口調だった。

好きだけど、違う。私は流されてしまっていた。

あの初体験の日の深夜。暗い台所で泣きそうな目で私を見ていた顔を思い出す。

もし私が本当に好きだと思っていたら、あんな顔はしなかったんじゃないだろうか。

それでも私を好きでいてくれるなんて、そんな人、リツキ以外にいないのに。


「優しくするから、ベッド行こう?」

「……うん」


もう全部済ませてる関係だから、照れていても恥ずかしくても、進める。

思い出が上書きされて辛いのは、綺麗な思い出じゃなくて、過去のリツキが消えてしまうから。

怖かったのも、良くなかったのも、たぶん、全部全部、リツキなのにリツキと思えなかったから。


(でも、今日は、大丈夫な気がする)


今日は今のリツキをリツキだと心から思えそうな気がした。

ときどき別人に見えていたリツキが、過去のリツキと重なる。


熱い手が私の頬を撫でると、身体の芯が熱くなるのを感じた。

いつもとは違う優しい進み方に、心が震える。


(ずっとずっと好きでいてくれた、私が好きだった人で、好きな人)


重ねた肌が汗で滑る。

やっと心が重なった気がした。





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