私の想いが、貴方の幸せになりますように
ポータルがある洞窟に移動すると、床に転がされているフォーウッドが、少しだけ動いた。
魔王が不思議そうにソレを足でつつく。
「なにこれ」
「フォーウッドよ。殺すか王族を降ろすことに利用するか迷ってるの」
「要らないよ。オレを騙すようなタイプはねぇ。ちょっとでも気を抜くと脇から刺してくるから」
魔王がフォーウッドを抱えて洞窟の奥に走っていく。
しばらくすると、洞窟の奥から短い悲鳴が聞こえてきた。
魔王が手ぶらで帰ってくる。
「フォーウッドをどうしたの?」
「あっちに罠があるんだけど、そこにひっかけたら死んだ。顔も確認したけど、本人だった」
もう少しで国を崩壊させることができるような策略家だったのに、終わる時はあっけない。
どちらにしても、ここには人が来られないから、フォーウッドは行方不明扱いだ。
(やっと終わったんだ)
たくさん手を汚したし汚させた。
聖女なんて名ばかりで、やってることは復讐しただけのことだ。
(神が勇者と大聖女をこの世界に送ったのは、この状態をなんとかしたかったのかもしれない)
でも、それによってシャーリーが被害を受けたのなら、皮肉なことだ。
清く正しく何も被害を受けていない人であれば、復讐なんてとか、どんな人にも生きる権利はあるというだろう。
だけど、声高にそう叫ぶのなら、自分が被害を受ければいい。
それが義憤であれ、私は私がやったことを間違いだとは思わない。
全員、フォーウッドが死んだことはどうでも良かったので、そのままポータルに乗る。
魔王城に戻ると、夜中の三時を過ぎていた。
「アンタたち、今日はどうするの? 泊まりたいなら部屋はあるけど」
「私はシャーリーのとこに泊まるから、二人は明日仕事だし、先に帰って」
「いや俺も、残るよ」
「僕も残る」
「いても気になるだけだし、明日仕事に行かなかったら怪しまれるでしょ」
そう言ってみても不服そうな二人に、うーんと考える。
アンリは寝ないと神聖力が回復しないし、リツキは寝ないと戦闘力がゴミになるみたいだから、どうにかして寝かせたい。
(あんまり言いたくないけど)
「シャーリーのために神聖力も補充しないといけないけど、全員寝不足だと無理になるから、明日元気なほうとイチャイチャするから帰って」
二人は途端に視線を床に移した。
なんて分かりやすい。
「仕方ない。帰る」
「こんなに大仕事したのにミューとイチャイチャできないのは嫌だ」
ふたりはあっけないほど潔く帰っていった。
ドロテアは二人を見ながら、分かりやすい二人ねと笑う。
分かりやすすぎて私は恥ずかしいよ。
「じゃあ、シャーリーの所に案内するわね」
「ありがとう」
別に自分でも瞬間移動はできるけど、ドロテアの好意に甘えて送ってもらう。
「ドロテア。嫌な記憶を忘れる方法ってあるのかな?」
「それができるのなら、聖女はみんなやってるでしょうね」
少し笑いながら、ドロテアは瞬間移動をする。
(やっぱり無いよね。あったらあの聖女だって、過去を忘れてるだろうし)
考えているうちに、この前泊った部屋の前についた。
「ここよ。じゃあ、朝になったらまた来るから」
「ありがとう」
お礼を言って、ドロテアと別れる。
一瞬、なんとなく気になって振り向くと、ドロテアの腕を掴んだ。
「? なに?」
「ドロテア。今日は、本当にありがとう」
「変な子」
ふんわりと笑ってドロテアは消えた。
誰もいない、深夜の廊下をただ見つめる。
(この親切を当たり前だと思ってはいけない)
おそらく、ドロテアが私を手伝ってくれなかったら、魔王だって手を貸さない。
そしたらポータルも開かれなかったし、確実にシャーリーは死んでいた。
今回のメンバーのうち、誰が欠けても計画は成功しなかった。
(もし、このことが明るみになったら、私が責任をとろう)
廊下の闇は深く、シンとしていた。
大きく深呼吸をしてからドアを叩く。
部屋の中で、こちらに歩いてくる音がした。
「どなたですか」
「私。ぜんぶ終わったよ」
一呼吸おいてから、カチリと鍵が鳴る。
扉が開くと、ジュディが抱きついてきた。
「聖女様! ご無事でしたか!」
「大丈夫だよ。シャーリーは」
部屋に入って、扉の鍵を閉める。
奥にあるベッドに、シャーリーは眠っていた。
腫れは前よりマシに見えるし、服を着ていることにホッとする。
「聖女様、座ってください」
「ありがとう」
ベッドの隣に椅子を置いてくれたので、素直に椅子に座る。
シャーリーに神聖力を送って治療を始めた。
ジュディがお茶を入れてサイドテーブルに乗せてくれる。
「仇はとった」
私の言葉に、ジュディが手を止める。
「……ありがとうございます」
少し時間を置いてから、そう言った。
何をとも、誰をとも、詳細も聞かれない。
それが、ありがたかった。
「治してるから、ジュディは寝て」
「いいえ。聖女様の方が疲れたんですから」
「ううん。神聖力があるうちに治しておきたいの」
ジュディの優しさを断ち切る強さで言った。
そのあと、作り笑いをする。
「お心遣い、感謝します」
意図を理解したのか、深く腰を曲げる。
足音が遠ざかり、部屋から出ていく音が聞こえた。
シンと静まり返った部屋に、シャーリーの寝息だけが聞こえる。
(本当に、どうしてこんな酷いことになってしまったんだろう)
シャーリーを聖女宮に連れていかなければ、こうはならなかった。
モーリスが私に惚れているという話をもっと真剣に聞いていれば未然に防げた。
見た目が変わったからと少し対応を変えたことも、ちゃんと時間をかけて話さなかったことも全部全部心残りだ。
私は、身代わりになるような価値がある人間じゃない。
(本当は私ごと殺してしまいたいけど、悲しむ人が多いから、それは無理だ)
本当に死んでしまいたいと思いながら、神聖力を流す。
下半身を含め見えない部分の怪我をしてるだろう場所から治療をした。
もう神聖力なんてない。タンクに入っていた神聖力なんて、とっくに使い果たした。
(だけど、私ならできる。できなければ私以外に負担を強いることになるんだから、やらないと)
自分に言い聞かせて進める。
罪滅ぼしとか、そんな馬鹿げた考え方じゃなくて、私を尊重してくれた友人として元に戻したかった。
冷たくなった紅茶を飲むたびに頭が揺れる。
抜けた髪を再生した時は目がかすんでいた。
白々と夜が明けて、人々が起きる時間になる。
やっとシャーリーの見た目が元に戻ったことに安堵して息を吐く。
(目を覚ます前に終わらせられて良かった)
ボーっとした頭でシャーリーを見つめる。
疲れすぎて脳が膨らんだような状態でうまく思考が働かないが、一番心配だったのは心だった。
(記憶を見られるなら、そこの記憶をどうにか消せないだろうか)
シャーリーの額に、額をつける。
神聖力をシャーリーの中に入れると、細いシャーリーの神聖力を感じた。
その神聖力を掴んで、必死に脳内で祈る。
(あの日の夕方からの今日までの記憶が消えますように)
効くのか分からない。
だけど、私の神聖力の使い方は大体こうやって祈るだけだ。
気絶しそうな中、神聖力を入れていく。
どこにそんな神聖力が残っているのか分からないが、起きてしまったら終わりだという気持ちがあった。
(そろそろ良い気がする)
目を開けて、額を離す。
顔を見ると、シャーリーが薄目を開けたことに気付いた。
(魔王城にいることが知られたら、日常ではなくなってしまう)
見知らぬ場所にいたら、船に乗せられたことが事実だと突きつけてしまう事になる。
眠らせて自宅で起きたら、夢だと思ってくれる可能性もあるのに。
「聖女……様」
「おやすみ」
シャーリーに神聖力をかけて、もう一度眠らせた。
コトリと意識を失う姿を見て、ホッとする。
もらった優しさの分だけ、返したいけど返せるかは分からない。
人生はその繰り返しで、返せない分だけ私は手を離せない。
どうか、どうかこれからの人生が、幸せでありますように。
(もう、限界かも)
とっくに限界は過ぎていたけど、覚えがある眩暈が起きた。
ぐらりと揺れたまま、シャーリーの上に頭を乗せる。
目の前が真っ暗になって、なにも見えない。
そのまま目を閉じて、意識を失った。
年末年始なので活動報告も書きますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです(今から書く)読んでくださってありがとうございます。




