惨めな最後と、技術の差がある対決
アンリを迎えに行くと、岩盤が硬そうな切り立った崖の上にいた。
「アンリ。なにしてるの?」
「あ、ミユ。遅れてごめん。面白いものが見れたからさ」
アンリが崖の下を指さしたので、怖いなと思いながら下を見ると野犬のような動物の群れが男を食べていた。
暗いからか、確認できるものが胴体と頭しかない。腹からやけに長い赤い紐のようなものがだらりと遠くまで伸びている。
リツキとドロテアも、私の横から同じように下を見て、顔をしかめた。
「うわ。顔のわりに凄いことするわね。死なない程度の痛みを残してやったの?」
「なんのことかわからないけど」
ドン引きしているドロテアに、アンリは首をかしげてからこちらを見た。
そして、ニコッと笑うと袖から何かを取り出す。
「ミユ。これあげるよ。使わなかったから」
「小刀?」
アンリから貰ったのは、小さな小刀だった。
「さっき、神聖力があっても、女の子も武器を持ってた方がいいなって思ったから」
そう言いながら、アンリは崖下を見る。
「本当はあいつらに食べさせる予定じゃなかったんだけど、足切って歩かせてたら女の人と鉢合わせして頭を潰しちゃって」
「足切ってる人を見て、頭潰したの?」
「暗くてよく見えなくて怖かったんじゃない? 面白いよね知らない女に殺されて終わる最後」
暗くてよく見えないが、頭は判別がつかないくらい潰れていた。
鉄の棍棒とかで潰したのかもしれない。
女の子にも武器が必要かもしれないけど、そんな鈍器を持って歩ける気がしない。
「あれだけ潰れてたら、行方不明になるのかな」
「一応潰すよ。食べ終わったら潰そうと思ってたから」
アンリが神聖力で男を持ち上げると。グシャと圧縮するように一気に潰した。
「さ、行こうか。あと何人?」
「次は最後の一人」
「ほんとに? 夢中になって見すぎた」
「別にいいよ。次はフォーウッドだから付いてきて」
「あ、フォーウッドか。遅れたし僕がいくよ」
神殿では上司でもあったはずなのに、何でもないことのようにアンリは言った。
みんなでアンリに触り、移動する。
着いた場所は、敷地面積が大きな屋敷だった。
まわりの民家はなく、森を切り開いたかのような場所にぽつんと立っている。
いつも通り神聖力を込めてガードを殴ってみたが、今回は壊れなかった。
「うーん……」
出力を上げてググっと腕を押しこんでいく。
なんとなく、少しだけ動く感覚があった。
「壊れないけど、いけそうな気もする」
いつものガードとは違って、硬いゴム板を押している感覚だった。
と、一段ずつ奥に手が沈んでいく感覚がした。
「ん?」
ずるんと身体が前につんのめる。
「あ」
自分だけが中に入ってしまった。
振り向くと、残っている全員がガードを手で叩いているが入れないようだった。
(これは自分だけ入れということか)
圧倒的に知識量が足りないから不安だなと思いながら、室内に瞬間移動する。
移動する瞬間、リツキの声が聞こえた気がした。
移動した場所は、礼拝堂のような場所だった。
家の外から見たらこんな場所はないように思えたので、ユウナギ邸のようにどうにかしているのかもしれない。
夜なのに昼のような場所は明るく、窓からは柔らかな日差しが降り注いでいる。
私は中央の通路にいて、男が祭壇の前にいた。
前髪がない短い銀髪は後ろでひとつにまとめられていた。若く感じるが、この男がフォーウッドなのだろう。
「大聖女は、やっぱり生きていたのか」
記憶で見た男は、晴れ晴れとした顔で私を見ていた。
「どうして、こんなことをしたんですか?」
「老いる前に大きな賭けをしたかった。あの国だと神聖力があっても役職につけるくらいだが、この国なら、いくらでも金が手に入る」
「別に一人でこの国にいればいいじゃないですか」
「最初はそうしていたんだが、もっと大きなことをしたくなった。人材は有効活用しないと」
「人は資源じゃありません」
「そんなことはない。私を含めすべては資源だ。まぁ、感情を重んじる女の君に言っても伝わらんだろうがね」
そういうと、フォーウッドは手を動かす。
身体がギュッと大きな手に掴まれるように拘束された。
「ッ!」
瞬時に神聖力を使って両手を開く。
反撃で神聖力を撃つと、簡単にはらわれて教会の壁を破壊した。
「エリオットが消えたという話は流れてきた。やっぱり君の仕業だね」
私は答えるように神聖力を撃った。
フォーウッドはそれを避けて、こちらに撃ち返す。
瞬間移動して後ろにまわりこんだ。
「ミユキ。君の代わりに来た女性には気の毒だったが、必要な犠牲というものは、いつの時代にもある」
そんなもの、あるはずがない。
私がいる背後に撃ちこまれたので、すぐに移動する。
「労働者や普通の人間は弱い。特に女はすぐに死ぬ。男はもう少し丈夫なんだがね。先方の趣味ではなかった。だから聖女が必要だったのに」
それにしても何も答えてないのによく話す。
瞬間移動をして真上から何発か撃ってから、下に移動する。
(さっきからフォーウッドは移動していない)
何があるのか知らないが、動けない理由がある。
それなら、それを利用するまでだ。
フォーウッドがシールドを頭上に張るタイミングで、ナイフに神聖力を込めて瞬間移動をすると、前から相手の腹に突き立てた。
(入った)
前、アンリにリツキが酷い傷を負った方法はどうやったのかと聞いた時、ナイフを通して身体の内部に神聖力が弾けるようにしたらしい。
私は高度なことができないので、傷口が大きくなるように神聖力を込めた。
「クッ」
フォーウッドが私を目の前に突き飛ばす。
瞬間移動して、尻もちをつかないように床に移動する。
次の瞬間、フォーウッドは腰を曲げて地面に手をついた。
「殺してしまいたいが、大聖女の神聖力は殺すには惜しい」
血があふれ出る腹部を押さえながら、フォーウッドは何かを唱える。
地面に薄く、何かの模様が掘ってあることに気付いた。
(魔法陣?)
「神聖力を喰うからあまり使いたくはなかったが、使うことが来たことにも喜びを感じるね」
模様から、白い手が出てきて私の足を掴む。
白い手を離そうとすると、そこから神聖力を吸われていった。
(これ、やばいかも)
歩こうとしても、手足を掴まれて動けない。
神聖力を使おうとすると、吸われてしまう。
(壊すしかない!)
アンリが魔法陣を壊すときにやっていたように、壊すしかない。
攻撃魔法にありったけの神聖力をこめて、吸われるより早く魔法陣を叩く。
地面が陥没したと思った瞬間、割れた石が飛んでくるのを感じてシールドを張った。
繋がっていないと思っていた魔法陣の床に、陥没したところから音をたててヒビが入った。
「やった!」
白い手が消えていく。
堪えていた身体が反動で大きく動いて倒れそうになって慌てて足を立て直した。
フォーウッドは同じ場所にいたまま、腹の傷を治している。
もしかしたらあの場所にいると神聖力が補充されるのかもしれない。
(白い手は消えたけど、すごく神聖力使った気がする……)
正直、こんなところで疲れている場合じゃないのに、とてつもなく疲れていた。
フォーウッドが私に近寄る。
その瞬間、黒い何かが私を掴んで後ろにひっぱられた。
(え?)
状況を理解する前に、何かにぶつかって拘束される。
「ミュー! 大丈夫?」
頭上からリツキの声が聞こえた。
自分を拘束しているものが、リツキのものだと気付いて後ろを見る。
「リツキ?」
「ごめん。俺はすぐに入れたけど、他の2人を入れるのに手間取って遅れた」
ああそうか。神聖力無効があるから、リツキは入れるんだ。
ドロテアとアンリがいつの間にか私の前にいた。
ミユキはアンリの戦い方で覚えています。




