強者の資質を持って進め
ドロテアと記憶の共有をする。
花の蜜のような神聖力が切れて、相手の額が離れた。
「貴方のせいじゃないわ」
記憶を見たドロテアは、一言そう言った。
薄茶色の髪の聖女の記憶は断片的にしたし、モーリスが見えた場面は伝えなかった。
個人が隠しておきたい内容だということは分かりきっているから、私が他人に見せていい内容でもない。
脅して手に入れた情報でも、人としてそのくらいはきちんとしておきたかった。
「罪があるとすれば、環境を作った人間。貴方ならわかるでしょう?」
聖女は自分の心を保ちたかったからシャーリーを犠牲にした。
モーリスも自分の気持ちを保ちたかったから、他者を犠牲にした。
シャーリーは私を守るために、自分を犠牲にした。
誰もが、必要がないなら何かを守る必要も、犠牲も必要なかった。
頭ではわかる。
頭ではわかるのに、どれも飲みこめない鉛みたいな重さがそこにはあった。
モーリスに無責任に自分を許してあげてほしいといった自分の浅はかさと、聖女の現状も詳しく知らずに責め立てた自分にも嫌気がさす。
その立場にいる人間の辛さなんて何も知らないくせに。
守られている立場のくせに。
私はいつだって愚かだ。
「昨日、誰が来たか調べるから、貴方はもう家に戻りなさい。弟君は連れて帰って寝かせて」
「はい。わかりました」
「そんなにかからないと思うけど、神聖力は回復させておいて。探しに行くなら必要だから」
「……それは」
リツキはそう言ったまま固まる。
神聖力が回復するようなことなんて、なにもしたくない。
でも、私が回復しないとシャーリーも助からないのかもしれない。
「すみません。俺は、ミューの方が大事なので」
リツキは頭を下げて、部屋を出ていく。
「ミュー、帰ろう」
リツキが見えない私に向かって囁く。
何も答えられないまま、瞬間移動をして家に戻った。
こんなに色々しても、まだお昼を過ぎたあたりなのだろう。
柔らかな明るい日差しの中、リツキは階段を登る。
「神聖力はくっついてるだけでも増えるから」
リツキはそういって、私を並んだマットレスの上に寝かせた。
「水もってくるね」
下に降りていくリツキを見ながら、透明になった姿を元に戻す。
靴を脱ぐと、その場に丸くなった。
ドロテアがあんなに冷静だったのだから、私も早く復活しなければいけないのに、うまく調整ができない。
「水、持ってきた。飲んで」
姿を現したことにリツキは何も言わず、こちらにコップを渡してくる。
水を飲んでいると、そのまま静かに隣に座った。
「リツキにも、みんなにも、悪いことを手伝ってもらっちゃった」
「別に、話を聞いてたら手伝った方がいいと思ったから手伝っただけだよ」
リツキは私からコップを取って床に置くと、流れるように抱きついてきた。
そのまま横になる。
「なにもしない。神聖力上がるから、こうしてる」
「……うん」
「何を知ったか、聞いてもいい?」
リツキの顔を見てから、ぐるんと寝がえりのように動き、背中を預ける。
「シャーリーは昨日、聖女宮にいた。私のかわりに接待に行かされてるのが見えた」
私の言葉に、リツキはなにも言わなかった。
「お酒の接待じゃないって言われても、本当に純粋な顔で私の代わりになるって言ってた」
「私は、この前シャーリーのことを大丈夫かなと思ってたのに」
私は自分を犠牲にしていいような人間じゃない。
相手の一生という言葉も本当に信じていないような人間なのに。
「俺もやばいって思ってたから、悪く思わないだけで優しいと思うよ」
「そうなのかな」
見つかったら謝りたい。
そう思っているのに、その日が来ない気がして怖かった。
アンリがフッと目の前に現れる。
「ドロテアから色々聞いたから来た。ジュディにも話したけど、見つかったらどこでもいいから連れていってほしいって」
「ありがとう」
「シャーリーの行方はガラレオ。魔族領の使ってないポータルを復活させる為に魔王とドロテアが動いてる。夜には開くらしい」
「みんなとは無関係なのに……」
ありがたいと思う。シャーリーは私とジュディとは関係あるけど、他人には関係ない。
四人が気にかけてくれるのは、ありがたいけど申し訳なかった。
「まぁ、だからミユが落ちこんでるのは分かるけど、神聖力を上げなきゃいけない」
アンリが服を脱ぎ始める。
突然のことに固まってしまった。
「やめろよ。ミューが可哀想だろ。俺は可哀想なミュー相手に立たないよ」
「僕は大丈夫だけどね。好きな気持ちが足りないんじゃない?」
冷めた目でリツキを見ている。
「だって助けたくても神聖力がなければ助けられないよ。どうにもならない過去に縛られて未来の対策を怠るのは弱者の考え方だ」
大聖女の神聖力は、量も手軽さも好きな相手がいるのならチートだ。
それを落ちこんで上げずにいるのは、ただの弱さでしかないのかもしれない。
「ミユは強者になりな」
「でも私、今日、シャーリーを騙した相手が憎くて相手の手を折った」
今日だって、シャーリーのことを思って腹が立って動いたけど、あれは私刑だ。
膨大な神聖力を得て強者になった先に被害者が出るのは、いいことだとは思えない。
「相手は昔に接待で本当に酷い怪我をしてたのに、脅して無理矢理記憶を見た」
「それは気の毒だけど、過去が可哀想だから他人を利用していいってことにはならないし、仕方ないよ」
リツキが私を抱きしめながら言う。
アンリは靴を脱ぎながら、ため息をついた。
「もし僕が相手で、ミユが被害者だとしたら、そそのかした相手を拷問にかけて命ごと潰してるからいいんじゃない? 前も言ったけど問題を切り分けなよ。他人の心を思いやれるのは良いことだけど、友達が危ないんだろ」
こちらを見つめる顔は真剣だった。
確かにそうだ。理由はどうであれ、シャーリーをはめた事実は変わらない。
自分の信念をもって動いたのなら、得た事実がなんであれ、どういう結果をもたらしたとしても、その責任ごと受け止めないと。
(何かをするなら、同情で揺らぐ心は捨てないと)
強くならないとと、心に念じる。
「本当に無理なら、意識を失わせるけどどうする?」
「俺、意識ないミューをするのはやだ」
「気を失ってるミユに興奮して起こしてるくせに何を言ってる? おかげで起きてるほうが数値がいいってデータもとれたけど」
確かに寝てたらリツキに起こされることはよくあるけど、数値が違うんだ。
「起きてるほうがいいんだ」
「たぶん、ミユ側のこっちを好きだって気持ちも加算されてる。でも無理なら気持ち悪くなるだろうし、辛いことはこっちもしたくない」
リツキと同じように、アンリだって本当はこんなことをしたくないだろう。
二人にはシャーリーのことなんて関係ないし、リツキは私優先でシャーリーのことはオマケみたいな考え方だ。
でも、勝手に湧く神聖力がないからこそ絶対必要だと考えて、アンリは言ってくれている。
(覚悟しよう)
「起きてる。だから手伝って」
「うん」
アンリがススっと私に近寄って、一瞬私の上を見る。
「できない奴は、後ろから見てなよ。それでも二人分上がるから」
アンリはそう言いながらリツキに抱きかかえられている私にキスをする。
私を抱きかかえる腕に、力がこもった。
夜8時
ジュディがアンリに連れられて簡単に食べられる食事をもって家に来た。
私はフラフラとしながら扉をあけにいく間に、リツキが窓を全開にして出迎える。
神聖力の数値は見えなくなったらしいし、リツキも協力してくれたけど、とにかくめちゃくちゃだった。
「聖女様、なんか、大丈夫です? 熱があるのかも」
「大丈夫。もうすぐポータルが開くって言うから、ご飯食べたら行こう」
食欲なんてまったくないけど、食べないと身体がもたない。
「シャーリーはどこにいるのか分かったんですか?」
「多分、ガラレオだって話だけど、行ってみないとわからない」
「ガラレオ?!」
「たぶん、船で今日の夕方到着らしいから大丈夫。船の中にいて酷いことになったらバレて殺人犯になるだろうし」
気休めにしかならないことを言いつつ、ジュディから食事の籠を受け取る。
中には肉がたっぷり詰まった大きなサンドイッチが油紙に包まれていくつか入っていた。
全員にサンドイッチを渡すと、リツキがお茶を入れてくれた。
「そんなに酷い目にあっている可能性があるってことですか?」
黙っていたジュディが声を震わせる。
その可能性が高いことは分かっていたので、沈黙で答えた。
あまりに暗いので、本日は二話更新するので読んでいただけると嬉しいです




