消えたシャーリー
次の日、ドロテアは魔王と一緒にやってきた。
二人でアーロンさんと話しあうらしい。
リツキも護衛として同行するので、私はアンリの家に行った。
「なんか、昨日結婚しないとか言ってなかった?」
ぼーっとしながらアンリがいう。
「アンリがお酒飲んで私との夜の内容を暴露したみたいだから。貴族の人の紹介されたくない」
私が答えると、信じられないものを聞いたという顔で、こちらを見る。
「……」
「……ほんとに?」
珍しく額に汗をかいている。
「本当はギリギリでリツキがアンリを殴って止めたらしいけど」
「それは殴っていいけど、どこまで……嫌だな。もう酒はミユといる時だけにしよう」
「それがいいよ。可愛いから男でも女でも連れて行かれちゃうよ」
「ミユから見た酔っぱらってる僕って、どう見えてるんだ。怖いな」
ブツブツと呟く腕を引っ張って、二人でアンリの家に行く。
まだ旅行の期間なのでまだマナーの勉強などはないけど、チョコもどきが腐らないうちに食べてもらおうと思っていた。
まずは料理長に持っていくと、一口食べて食べたことがないお菓子だと騒いだので、カーマから作りましたというと、アレがこれに?という顔をした。
砕きに砕いた結果だから、神聖力がないと難しいかもというと、そうなのかと残念そうにしていた。
モーリスにあげると嬉しそうに食べていた。アンリは前に食べたけど、とても反省していたので可哀想になってちょっとだけあげた。
リツキも可哀想だからとっておこうと、少しだけしまっておく。
あと残るはジュディとシャーリーだけだ。
「ジュディ、作ったお菓子食べない?」
ジュディと会ったので、チョコを見せる。
いつもは快活なジュディが、今日はぼうっとしていた。
「大丈夫?」
話しかけると、今気付いたかのようにこちらを見る
「聖女様、えっと……」
「お菓子食べない?」
「あ、いただきます」
一瞬でいつもの顔に戻ってチョコをつまんで食べる。
「へ~美味しい。食べたことがない味のお菓子ですね」
「元の国にあったお菓子を再現したけど、同じにはならなかったんだ」
「それは難しいですよ。これで十分おいしいですけどね」
ふわ、と笑う笑顔はいつも通りだけど、どこか影がある。
「シャーリーにもあげたいけど、会いに行っていい?」
私の言葉に、ジュディはバッと顔を上げて、不安そうに顔を歪ませる。
シャーリーの様子を聞くためにチョコを持ってきたのだが、なにかあったのだろうか。
「なにかシャーリーにあったの?」
「いえ」
「この前も様子がおかしかったのは私でも分かるから、ちゃんと言って」
不安げにこちらを見て、視線を床に降ろす。
手が震えていた。
「……帰ってこないんです」
静かな声が、静かな部屋に響いた気がした。
「シャーリーが?」
「はい。昨日から。聖女宮って泊まれるんですか? それとも帰りに行方不明になったんでしょうか」
ジュディがこちらを見つめて、矢継ぎ早に質問をする。
「部外者は泊まれないと思うけど……とりあえず、聖女宮に行こう」
想像で話しても何も解決しない。
アンリに話して、怪しまれない数値まで神聖力をポーションに変えてバッグに入れると聖女宮に向かう。
ジュディは無言でいるか、謝るかしかしない。
その態度で、今までシャーリーが無断外泊をしない人間だったということがよく分かった。
今日は受付をしてから聖女宮に入る。
「あら? 昨日からミユキさんは帰っていないのでは」
「昨日は来ていませんが」
「……ちょっと受付確認をさせてください」
受付の女性は黒い球を差し出したので、いつも通り神聖力を流す。
「確認がとれました……ミユキさんですね」
「シャーリーは昨日来ていますか?」
「来ていますけど、きちんと帰られてますよ」
受付表を見ると、夕方シャーリーが帰ったあとに、私が受付した記録が載っていた。
「聖女様。中を探していただけませんか? 私、シャーリーが行きそうな場所を探したいです」
耐え切れないという様子で切り出される。
分散した方が探しやすいし、それはそうだよね。
「うん。そんなに広い場所じゃないから、一人いれば十分。ジュディは外を探して」
「すみません。仕事を休めなくて、まだぜんぜん探せていないんです」
「本当に大丈夫だから」
ジュディが走って街の方向に行く。
聖女宮に行ってから街で攫われたとか、誰かに監禁されているという可能性がある。
だけど、私は私にしかできないことをやるしかない。
受付から聖女宮に入り、中を見てまわる。
やけに人に見られている気がするのは気のせいだろうか。
早足で歩いて探す。
だけど、どこを探してもシャーリーの姿はどこにもなかった。
『あら、ミユキ。なんでこんなところにいるの?』
突然脳内に声が聞こえて止まる。
まわりを見回すと、廊下の向こうにドロテアと魔王とリツキがいた。
『ドロテア! 力を貸してほしい!』
思わず脳内で叫ぶ。
『わたくしの部屋にいらっしゃい』
ドロテアが姿を消す。
私も人目につかない場所まで走って、ドロテアの部屋に瞬間移動した。
ドロテアの部屋で、シャーリーのことを話す。
気になる点として、昨日の受付のことも話した。
ドロテアは、眉をひそめてずっと無言で話を聞いていた。
「犯人の目星はついてるけど、それならまずいわね」
「あなたが聖女の授業を受けた時に、氷を作っていた聖女を覚えている?」
「ああ、ドロテアが嫌がらせしたやつ」
「あいつら、わたくしと仲良くしていた聖女を騙してはめたことがあったのよ」
「はめたって」
「聖女は政治利用される。自分で傷も治せる。これを事実がなにもなくて言ったと思う? そういう事実があったということ」
「それは初めてだからとかじゃなくて?」
「違う。傷つけるのが趣味という奴もいる。だから聖女はみんな相手をしたくない。だからこそ何も知らない者を騙してはめるの」
「ドロテアの友達はどうなったの?」
「死んだ」
「四級聖女だったから、治しきれなかった。わたくしが見つけた時には手遅れだった」
「だから、氷で傷ついてしまえばいいと思った。どうせ全員見捨てたのだから。まぁ、貴方が助けてしまったけどね」
「そんな奴、殺してしまえば良かったのに」
「聖女は国の管理物だから、殺したらバレるわよ」
バレてもいいじゃないか。そんな性格が終わってる人間、いないほうがいい。
でも、もし同じ奴にシャーリーが引っかかってるとしたら
(ああ、あの時知っていたら、氷の爆発を止めなかったのに)
「それに、わたくしが食堂でミユキに強く言ったのも、貴方が仕事をサボっていると噂がたっていたからよ。聖女は暇だからね」
続けて話すドロテアの言葉に顔を上げる。
ドロテアは少し困った顔をして、私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「本当に、弟君は動こうとするし後から文句言われるしで大変だったけど、ああでもしないと貴方にヘイトがむくところだったの」
「でも、私って、最初の授業しか出ていないのに、なんで知られて」
「聖女がしらなくても、神官はウィリアムソン家で大切にされている四級聖女のことを知っているから、聖女と神官が仲が良ければそれは漏れるわよ」
アンリもモーリスも神官だから、預かっていることが知られてたらそれは噂になるんだ。
私に関してはそれでもいいけど、でもシャーリーは、じゃあ、もしかして私のせいで巻きこまれたの?
私の見た目は食堂の件で知られてしまっている。その髪色をシャーリーが真似たせいで嫌がらせに連れていかれたとかあるのかもしれない。
「ドロテア。私に姿を消す方法と、記憶を見る方法と、犯人の名前を教えて」
「分かった。好きにやりなさい」
どの発言が正しいか間違いかなんて分からない。
それなら全員の記憶を見た方が早い。
ポーションを全て飲む。
大聖女の力なんてなくていいと思っていた。
だけど、今はそれを全て利用してでも事実を知ってシャーリーを見つけないといけないと思っていた。




