シャーリーの変化に戸惑う人々
シャーリーを自分のソファの隣に座らせる。
反対側のソファに腰かけているリツキは、無言でお茶を飲んでいた。
「髪の毛の色を変えたんだ」
「聖女宮で仲良くしている聖女さんが、髪色の変え方を教えてくれたんです~! わたし、聖女様の髪好きだったので。嫌でした?」
「あ、私なんだ。いいけど、染めたの?」
「染めても良かったんですけど、いただいたポーション一滴で替えられたので」
あ、あの旅行前にあげた回復ポーションを普通のポーションだと思って使っちゃってるんだ。
好意からみたいだから真似してても悪いとは思わないけど、回復ポーションを使うのはもったいないな。
でも、聖女と仲良かったら、ぜんぜん神聖力使えないっていうのも嫌だよね……。
「あれは回復ポーションだから、普通のポーションが欲しかったらあげるから、必要な時以外は使わないでとっておいてね」
「聖女様、いいんですよ! アンタ、聖女様の心遣いをそんな趣味に使っちゃって、止めなさいよ」
「いいよ。だって聖女と仲がよかったら、やってみたくなるものだと思うし」
そう言いながら、握りこぶしより小さい膜のボールを作って、中にポーションを入れる。
朝には四級程度しかなかったけど、今ではこのくらいならできてしまうから、私はポーションの無駄遣いができる。
でも、できない人にはきっと辛いことだろうと思ってしまった。
「これ、まわりの膜は二日くらいで消えちゃうから、ポーション瓶に移し替えて使って。回復のは作るの大変だから」
「聖女様、だめです!」
渡そうとしたポーションを、ジュディがもぎ取る。
「シャーリー。アンタ、無い力をあると思ったら苦しむよ。身分不相応な力ってのはね、いつだって自分を殺すんだから」
「勝手に何よ! 聖女様は私にくれたの! わたし、やってみたいこといっぱいあるんだから! だからプレゼントしてくれたのに!」
シャーリーが立ち上がってジュディに飛びかかる。
手に持ったポーションが、ジュディの手からポロリと転がった。
唖然としながら、止めることもできずに、その様子を見る。
シャーリーは床に落ちたポーションをバッと床にはいつくばって拾うと、大切そうに撫でた。
「聖女様。ありがとうございますっ! 大事に使いますから」
「うん。でも、無駄遣いしないことと、他の誰にも絶対見せないようにしてくれる?」
ジュディを抱き起こしながら、本当に、あげて良かったのかと考える。
シャーリーは友達だし、きっと髪色を変えてしまったのなら回復のポーションを他のものに使ってしまう。それならポーションをあげた方が良いと思った。
でも、ジュディの言うとおり、自分では手に入れられない力を得たら、人は壊れてしまうのではないだろうか。
(だけど、回復のポーションを使ってしまったら、何かあった時に誰がシャーリーを生き残らせてくれるの?)
愚かだったから死ぬしかなかったなんてことは思えない。
手が届く範囲でも、私は私が好きだと思った人を守りたい。
「分かってます。大事にしますし、聖女様のこともみんなには内緒にします!」
シャーリーの言葉にホッとする。
真顔でシャーリーの顔を見るジュディの顔が怖かった。
私は、間違えたのかもしれない。
「あの……ぜんぜん手伝えなくてごめんね。下着とか、布ナプキンは売れてる?」
話題を変えたくて、仕事の話を出してみる。
パァッとシャーリーの顔がもっとにこやかになった。
「売れてます! 欲しいものを我慢しないでも買えるようになったし、お金も貯められてるから、すごく助かってるんです」
「良かった。ぜんぜん会えてなかったから」
「わたしも聖女様に会いたかったんです。友達だし。でも重くなったら嫌われるかなって思ったから、他の聖女さんと仲良くしたんです」
「私のかわりに?」
そんなこと思いもしなかった。
でも、同じ聖女でも人間は違うから、代わりにはなれないと思うけど。
「はい。でも、聖女様が一番やさしいです。意地悪なところもないし」
「え……意地悪なことする人間と話さない方がいいと思うよ」
大丈夫かなと戸惑いながら答える。
シャーリーは私を見ながら小さく首を傾げた。
「だけど、聖女宮って面白いんですよ。ところで、そこの男性って誰ですか? 顔がいいですね」
突然、話を変えるようにシャーリーがリツキを指さす。
そういえば紹介するのを忘れていた。
「弟。リツキっていうの」
リツキはあまり関わり合いになりたくないのか、座ったまま適当に挨拶をした。
「こんにちは。なんか聖女宮で絵になって売られてそうですね」
「あはは……」
シャーリーの言葉に、性風俗だという実態を知っているリツキは苦笑いをする。
知らない人から見たらただの絵だから知らなくても仕方ないけど、気まずい空気が流れた。
部屋の扉が叩かれる。
返事を待たずにアンリが入ってきた。
「ミユ、モーリスが薬のことで聞きたいことがあるって」
「あ、どうしよう」
「えっと、じゃあ、わたし帰ります! 聖女様、ポーションありがとうございました」
ピョンとシャーリーは立ち上がると、挨拶をする。
「ごめんね。今度はもうちょっとゆっくり話そう?」
「はい。よろこんで」
にっこりと笑うシャーリーを見ながら、アンリが私の手を掴む。
リツキもアンリを掴んだので、瞬間移動した瞬間、リツキも一緒についてきてしまった。
「なんでお前まで」
モーリスがいる部屋に移動したあと、呆れながらアンリがリツキの手を振り払った。
「いや、怖いって。シャーリーって子。ミューに外見寄せてるし、なんか変だ」
「私と同じ髪色にしたかっただけだと思うけど」
「でも聖女に関心を持ちすぎてる」
「まぁミユは可愛いし、足治したから憧れてるんじゃない? 別に怖がることじゃない」
「うん。シャーリーは変じゃないし、友達だよ」
私が憧れだっていうのも、そんな大層なものじゃないと思うけど、変と言われるほうが嫌だから、そう思うことにした。
だけど心の奥で、リツキが言うこともわかると思ってしまう。
それくらい希薄な関係性で友達だと言ってしまう自分もよくないと、心の底では思っていた。
「えぇと、話は終わった?」
部屋の中にいたモーリスがこちらを苦笑しながら見ている。
「あ、終わってます。薬の話ですよね!」
「うん。個体にしたのは、時間が経つとポーションが滲み出てきてしまうらしい。でも美味しいと。しかし加熱すると効きが悪いらしい」
「腸に詰めた方も、結びが甘いと端から滲みでてくるとか、そもそもまずいなどはあるが、効果はこちらはよく効くとのことだ」
やっぱりちょっとでも加熱すると効果が壊れるんだなぁ。
「他の方法を試してみるしかないですね。ドライフルーツに漬けてみるとか、いろんな粉を入れてみるとか」
「こちらでそれは研究してもいいかい? もちろんそれ相応のことはさせてもらうが」
「あ、どうぞ。私、ドロテアもきたから、新しいレパートリーを広げなきゃいけなくて、暇がないんです」
「料理人に任せればいいだろう。うちのシェフを使ってくれてもかまわないし。君らが帰ってこなくて寂しがっているんだ」
「あ、やったー! 流石に四人分は大変だなって思ってたので、じゃあ、一緒に作りながら教わっていきます」
「じゃあ、話をつけておこう。じゃあ薬はこちら主導で作るよ」
「はい。お好きにどうぞ」
やったーと思いながら、アンリとリツキの所まで歩いて行く。
「ミユはさぁ。魔王のところでもそうだけど、すぐホイホイなんでもあげるのは良くない」
「やったーじゃないんだよなぁ。さっきもポーションあげちゃったし」
「だってみんな悪いようにはしないだろうし、親切にしたら帰ってくるって思ったから」
「元の世界でもそんなことなかったじゃん。親切を食い物にする奴なんてどこだっているよ」
「確かに二人にも親切にしてるのに説教してくる……」
私の言葉に、モーリスがハハハと笑う。
二人共、それとこれとは話が別だと文句を言っていた。
その日は、料理長が四人分の料理をパパっと作ってくれた。
パパっと作ったわりに出来上がった素晴らしい出来に、鍋を持つ手が震える。
知らないスパイス、よく分からない葉っぱ、それがすべてブレンドされてこの味が作られるのだ。
一個一個、スパイスを自分で買って確認して覚えていたら、何年経っても覚えられない知識をプロは持っている。
料理長は教えることも、作ることも、快諾してくれた。
今まで食べる人がモーリスしかいなかったので料理長は寂しかったらしい。
教えてくれるのも乗り気でよかったと心から思った。




