魔族領へ旅行・三日目(杯の全貌と敵国の真意)
翌朝、魔王に台所を使わせてもらうことの許可を貰って、チョコを作ってみる。
キッチンにあるものは何でも使って良いということなので、気が楽だった。
買ったカーマの粉を食べてみるけど、美味しいものじゃないし水分に溶けそうにも思えない。
失敗したなぁと思いながら、袋の中でもっと細かく細かく神聖力で砕いて行くと、固まっていく。
袋が壊れそうだったので、膜につつんでもっと砕いていったら液体みたいになった。
(わー! チョコっぽい)
バタークリームになりそうなクリームと大量の砂糖を温めて加えて混ぜる。
食べてみると、コーヒーとチョコを混ぜたような味だった。
美味しいけど、チョコではないと思いながら、平べったい容器に入れて、冷やして固める。
(それにしても、昨日の夜は大変だった)
時々柑橘系の味がしてたのは気のせいなのかなと思いながら、しばらく二人とするのはやめとこうと反省する。
頭と共にチョコもどきを冷やしていた。
みんなでお昼を食べた時に、作ったチョコを出す。
何重にもガードをかけているこの部屋は他に誰もいないし会話をするのも楽だ。
作るのが大変だったので、一人につき一口サイズの板チョコだけだ。
「これがチョコね! 美味しいわ」
「聖女ちゃんのお菓子が食べたいってテアが言ってたけど、美味いな」
魔王の上にドロテアは座りながら、ニコニコとしている。
リツキはヘェ―と言いながら食べていた。
「コーヒーが強いチョコって感じだね、これはこれで美味しい」
「昨日のケーキに入ってたのがこれになるんだ。全然違う。僕が薬作ってる間に新商品が誕生してた」
「ところでミユキ、神聖力が見えなくなってるわよ」
「え?」
「昨日までとんでもない数字だったから表示できなくなったのかもしれない」
「えっ、そうだったんだ。使いきれない分ってどうなるんだろう」
ドロテアと魔王の言葉に、焦ってしまう。
恐れていたことがくるのが早すぎる。もう上限に達するとは思っていなかった。
直接この状態に関与している二人は、何も言わずに目をそらしていた。
「聖女ちゃん、急いでちょっと吸わせよう。消えてるならもったいない」
魔王に案内されて、ポーションが溜まっている杯がある場所に行く。
何重にもロックがされているそこは、神聖力に強力に守られているようだった。
杯は実際に見ると、横が3メートルで、縦が10mくらいある。凄く大きくてびっくりしてしまった。
「ここは、魔王以外は普段入れないの。珍しいのよ」
杯に沿うように設置してある螺旋階段をのぼって中を見ると、杯は七割より多くポーションで埋められている。
赤色に近い色をしているあたり、私の神聖力がほとんどなのだろう。
「じゃあ、神聖力を吸うからそこの石の上に立って」
言われて黒い石の上に立つ。
ゴポ、と杯の中から音がした。
「まだ数字は復活しないわね」
「杯の中の水位は上がってるな。もう別の場所に移動した方が良さそうだ。巨大なポーション瓶を用意しよう」
「瓶じゃおさまらないよ。うちの水槽買う? ちょっと値段はかかるけどきちんと保存ができる」
「いくらくらい?」
アンリが魔王と値段の交渉をはじめる。
私のおかげでアンリが儲かっている。嬉しい。
「ミユキ。溢れるわ。石の上から退きなさい」
リツキがひょいと私を抱き上げて石の上からどかした。
アンリがモーリスと通話していたので、水槽が届くことは確定したらしい。
「この神聖力があれば、戦争になったとしても、ちょっとは楽になるかな」
「そうね、これだけあれば楽でしょうね。灰色のポーションより混じりけがないし。保存方法をちゃんとしたら持ちそうだし」
そうなんだよね。あの灰色のポーション、蓋があったって管理がだめすぎて使えない気がする。
それに今までの話を総合すると、魔王領も全部ガラレオの領地になるなら今の王族は要らないから、使えなくてもかまわない。
あの灰色のポーションは、魔王領にポーションを送らないためだけに、あそこに集められたのではないだろうか。
聖女宮がおかしくなったのはドロテアと魔王が別れた後。それなら計画はその前だ。
計画した人間は、たぶんこの杯を見に来たことがあるんじゃないだろうか。
(だって、杯の中に入ってるポーションの量がわからないと、どのくらいでなくなるか分からないもん)
でも、アンリの家では魔王にポーションを供給していたと言っていた。
それはなんでだろう。
早く制圧したいなら、ポーションの供給を止めた方がいいはずだ。
なら、別の目的があるのかもしれない。
(時間稼ぎ? でも、それならなんのために)
「ここってガードとかも入ってるんですか?」
「もちろん入っている。厳重だし、関係がない神聖力がまぎれこんだら気付く」
「じゃあ、ここに来たのって、私達以外、誰がいますか? ドロテアと別れる前で」
「テアと? どういう意図で話してる?」
魔王に聞かれたので、考えていることを話す。
魔王は私の話を聞きながら、過去の記憶を思い返してから、名簿を確認すると出ていってしまった。
「ガラレオが時間稼ぎをしたいっていうなら、ガラレオ内で何か作ってるんだろうな」
リツキが私を抱きしめながらぼんやりと呟く。
アンリがやってきて、前から私を抱きしめた。
人間サンドイッチの出来上がりだ。
なんだこれ。
「アンタたち、こんなところでスル気?」
ドロテアがこちらを見ながら呆れた顔をする。
そんなことをするはずがないけど、そう見えても仕方ないかと思ってしまった。
「しないよ。もうしばらくしない。昨日で懲りた」
「え!」
「僕とも?!」
二人共予想外という顔をしていたけど、神聖力で回復したって人間は疲れるんですよ!
あとやっぱりよく考えたらアンリもいたと思う。どう考えてもそう思う。
「アンリは昨日見てたでしょ。見るなって言ってるのに」
「お前、見るなっていったよな?! 最悪だ。俺は見てないのになんて奴だ」
「……ミテナイヨ」
アンリは嘘だとわかる口調で嘘をついた。
本当にクセが強い。こんなんじゃ私以外には振られてしまう。
でも私だって、こんな状態は他の人間ならギブアップだろうから、似たようなものか。
「なんか、ミユキも大変ね」
「大変すぎて麻痺してきちゃった」
二人に挟まれたら熱いよと思って、二人の間から抜け出す。
逃げるようにドロテアの近くまで歩いて行った。
「ところで、アンケートとかまとめたら、早めに帰ろうと思うんだけど」
「もう? どうして?」
「この国、インフラ整備するなら、アーロンさんって人に会ってみたいし、観光してる暇がないかなって」
「確かにねぇ。この国をもう少し発展させてほしいから、整備して良いか魔王に聞いてみるわ」
「ありがとう」
「それに、わたくしも聖女宮に帰らなくてもいいのなら、あの国に戻ってもいいし」
「ドロテアは魔王と住むんでしょ?」
「長く住むんだから、今のうちに好きなことをしておかないと。それに瞬間移動できれば移動に大した時間はかからないしね」
本当にいいのかなと思いつつ、魔王の帰りを待つ。
だけど魔王は忙しそうでその日は戻ってこなかった。
ドロテアが何十にも施錠をして杯がある部屋を後にする。
たぶん、魔王もガラレオの時間稼ぎだということに気付いたんだろう。
気付かれないように行動しないとまずいなと思いながら、その日はアンケートの集計をしてから眠った。




