モーリスの本心と、初夜のお誘い
部屋に戻ると、モーリスが椅子に腰を掛けてうなだれていた。
「モーリスさん」
声をかけると、モーリスはハッとした顔をしてこちらを見る。
「どうして」
顔色が悪い。
話を一方的に切り上げたい時は、大体は自分の心の平穏が保てない時だと思う。
アンリやリツキなら怒りや悲しみを表に出してしまうけど、私は話したくない時はうまく話せないし。
モーリスにもそういう気持ちがあったんじゃないだろうか。
「この問題が終わっても、モーリスさんがいないとウィリアムソン家はまわらないから、あんまり休めませんよ」
戻ってきてしまったけれど、なにをどう聞いたらいいのかもわからなくて、前提も何もなく言った。
モーリスは、ぎこちなく顔を緩ませて笑う。
「私をこき使う気か?」
「国が欲しいならあげますけど、要ります?」
「要らないよ。ウィリアムソン家だけで十分だ。アンリが事業拡大したせいで覚えることも多いしね」
「まだ事業も増えますから。一緒に頑張りましょう」
「……うん」
返事をしたあと、真顔に戻って視線を外す。
そして、部屋の端を見た後に、迷うようにもう一度私を見た。
「君は。私の仕事を見て、見捨ててきた命を見て、それでも、そう言うのか」
私は、相手の仕事を知っているだけで、実際なにをしているのかを見てはいない。
だから本人が自分を振り返って反省していたとしても、相手を責める気持ちはない。
「モーリスさんには守る家があって、そのためにはそうするしかなかったじゃないですか」
人生は思うようにいかない。
私だって思い通りになんていかなかったし、今だって周りの環境に流されているだけな気もする。
「みんな自分の身に起きたらモーリスさんと同じことをするし、自分で罪悪感を持ちたくないから、人に押しつける人もいます」
みんな正義を語るが、自分の身に起きたら保身を選ぶ。
自分で全てを抱えて病まずに続けられるほど、みんな強くない。
「モーリスさんの立場なら、別に他の神官に任せることもできましたよね。でもやらなかった。そのことに誇りを持ってください」
ひとつひとつ、言葉を選びながら言う。
私はモーリスが病めばアンリがその仕事をしなければいけないと思っていた。
だけど、モーリス側にとっては見捨てられている考えだし、まだ病んでいないなんて他人から分かるはずもない。
モーリスはこちらを見ずに、ただ聞いていた。
「こんなことに誇りを持てる人間なんていないと思っているけどね」
「私は、モーリスさんを責めないし、褒められるべきだと思ってます」
モーリスが抱き方が乱暴だという話も、たぶん二度と自分に来ないようにするための行動なのかもしれない。
子どもたちが死ぬことも、責任があるとすれば決めた人間だろう。
モーリスが断ったところで、その任務が他の人間に行くだけの話だ。
神殿で貧民街の人間を助けて、その子供を作物のように刈り取ることをモーリスができるとは思えない。
「自分を許してあげてくれませんか」
私の言葉に、モーリスは頷くこともしなかった。
「考えてみるよ」
ただ、それだけ言って黙った。
どうしたらいい? アンリやリツキなら抱きしめることもできるけど、モーリスにはできない。
手を握ることすら、していいことか分からなかった。
「ミユ」
背後から声をかけられて振り向く。
アンリがいた。
「付いてこないでって言ったのに」
「無理」
簡単にアンリは拒否をした。
「モーリス。全部終わったら酒でも飲もう」
ニコリとアンリが笑いかけると、同じような笑顔でモーリスも笑う。
「ああ。飲もう」
それ以外、何も言わなかった。
アンリが私の腰を掴んで、突然瞬間移動をする。
次の瞬間には、聖女宮の外にいた。
「ミュー!」
目の前にいたリツキが私を見つけて抱きしめる。
「こいつが迎えに行って、ぜんぜん帰ってこないから心配した!」
「まだ話は終わってなかったのに」
「このくらいでいいんだよ。そんなことより一人で行くな」
「大丈夫だよ」
「ミユはいつも楽観的すぎる。お前の弟だって僕を殺すし事情が変わればミユを襲うこともあるよ」
「なんでいきなり悪口言われてんの? 襲わないし殺してないじゃん」
ギャアギャアと聖女宮前で騒ぐ。
モーリスを置いてきてよかったかわからない。
だけど家に泊まってお酒でもという内容でもなかったし、立場的にこれ以上してあげられることがないのも確かだった。
「そうだ。ミユ」
「ん?」
突然、アンリがリツキから離すように私の肩を抱き寄せる。
「今日うち泊まらない?」
今日、家に泊まらない?ということは。
「ええと」
聞きながら、動揺してそのまま家に瞬間移動する。
アンリはなにも言わずに、私の髪にキスをした。
(……これって、そういう?)
家に戻ったのに、誰もなにも気にしない。
なんならリツキの目つきは悪かったし、話が変わる気配もしなかった。
「もしかして今日やるって話してる? 嫌なんだけど!」
「お前にはもうしぶしぶチャンスはあげたけど、落とせなかっただろ」
「この前帰ったのって、それ? サイズの問題じゃん。俺のが大きいから! お前の見たら確かにとは思ったけど」
「僕のは普通だから! 他の奴と比べても普通だから!」
なんて会話をしているんだろうと思いながら、両手で顔を覆う。
リツキはアンリのを見たのか。
普通がなにかは知らないけど、本当に怖いなぁと思っていた。
「あの時の問題は解決したってこと?」
「うん。ミユのおかげで解決した」
「えっ、どうやるの」
「お前って、本当に筋肉バカなんだな」
アンリが呆れながらリツキを連れて部屋の端に行く。
二人でなにかを話していた。
「ミユのあの時の話ってそうなの?!」
「声が大きい。で、上手く……は……」
リツキが叫ぶと、アンリがぼそぼそと怒りながら説明している。
話の内容が嫌だけど、仲良くなったみたいで良かったし、アンリには伝わったみたいで良かった。
暇なので、ベッドの部屋に行って神聖力を抜いておく。
上限がわからないけど、たぶんすごく増えるだろうから、今のうちに抜いておかないともったいない。
ガチャっと扉が開いて、リツキが部屋に飛び込んできた。
「やっぱり嫌だ! 一晩は耐えられない!! 俺も一緒に行く!!!!」
「えぇ……?!」
そう言いながら、ぎゅうと抱きつかれた。
一緒にって、そういうこと? 嘘でしょ?
「離れろよ。一緒に移動するだろ」
「サイズの問題なら最初は小さくするから! 神聖力で小さくしていいから!!」
「えぇ? 一度にもなんか嫌だけど、小さくするのもしたことないけどできるかな」
「ミューはヤダ! ミューは繊細なコントロールできないし! なんか小さくされるのはヤダ!!!!」
かけるまえから断られてしまった。
リツキはアンリの肩を掴んでがくがくと揺らす。
「僕も他人のなんてしたくないんだけど」
「慣れろ! 一回なら許容できるかもしれないけど一晩は無理なんだから! 本当は一番がいいのに!! 狂う!!!!」
「狂うのは止めろよ」
それにしても大変なことになっちゃったな。
やだな~……でも確かに一晩はリツキも嫌かぁ……。
「どうする?」
「もう仕方ない……アンリがよければしてあげて」
私の言葉にアンリは少し考えた後、まぁいいかと言った。
「じゃあ、ミユの着替えは用意してあるから、お前は服持ってきなよ」
「ああ。じゃあパンツだけもってくる」
部屋を走って出ていってパンツだけ持って帰ってきた姿に呆れながら、アンリは瞬間移動をかけた。




