モーリスの気持ちと初夜の問題
モーリスの部屋に戻った後、大きく息を吐いた。
「大変! たくさん作りましょう!」
叫ぶ私をアンリは少し怪訝な顔をして見ていた。
そんな怪しいことは言っていないのに、なんだその顔は。
「ミユキさん、このポーションに解毒作用と、毒耐性をつけてくれないか。治しても毒にやられるのは気の毒だから」
「やり方分からないですけど、いつもやってる方法でよければ」
「ああ。かまわない」
プールの神聖力の毒が子どもたちの害になりませんように。体に入っても抜け落ちますように!
なってほしい状態をイメージをしながら神聖力を入れていく。
効くかどうかは分からないけど、神聖力は入れられた。
「できました! 本当にできてるかはわかりませんけど」
「それじゃあ、次はどうしたらいい?」
「細長い筒の膜を作って中にポーションをいれて凍らせます!」
自分が作った通りの手順で、モーリスにやらせていく。
アンリも、自分もやりたいのか話を聞きながら間近で見ていた。
驚くほど手際よくモーリスはポーションの分離を完成させる。
「こちらの濃いものは、モーリスさんが飲んでください。子供が具合が悪くなるなら、モーリスさんにも害はあるはずなので」
「君は本当に優しいんだね」
「このくらい普通です。モーリスさんのほうが優しいです。嫌な仕事もしなきゃいけないし、死にそうな子の面倒も見なきゃいけないなんて」
彼が透明になって抱きついてきたり、パーティーの日に怪しい方法で誘拐みたいになったことは、正直どうかと思う。
どうかと思うけど、こんな酷い仕事を受け持っていたら誰だってちょっとはおかしくなるので、仕方ない気もしていた。
モーリスは少し驚いた顔をした後、ふわりと笑う。
「気が変わった。この前の交換条件無しでも、私は君を手伝うと約束するよ」
「え? 交換条件ってなんでしたっけ?」
「忘れたのか。薄情だな」
なんか言われてたっけ。
アンリとリツキと別れたらウィリアムソン家に来いって奴だっけ。
「アンリと別れてもどうとかいうやつでしたっけ。別れないから真剣に考えてなかったです」
「……何の話? 聞いてないんだけど」
私の言葉に、アンリはハァ? という顔をしてこちらを見た。
だって別れないんだから言う必要はないじゃないか。
「そう。でもその件に関しては忘れてもかまわないし、ちゃんと情報は教える」
「モーリス。もしかしてお前」
「えっ、なに? ケンカしないでよ」
二人を仲裁しようと、二人を引きはがす。
アンリの目が、私の頭上を見た。
「やっぱり。さっきもおかしいと思ったんだ」
そう言うと、アンリは私を抱きしめて一歩後ろに下がる。
視界が回転して暗くなる。
いつのまにか、瞬間移動で自分の家に戻っていた。
「え? なんで?」
「モーリスは、ミユに惚れてる」
「? アンリのことが好きなんでしょ?」
「そのへんは分からないけど、ミユに触ると神聖力が増えた」
「それは……」
……じゃあ私のことが好きっぽいけど、でも弟と彼女に性的な興味があるってこと?
「アンリと私どっちも好きってこと? 好きな幅が広いね」
「怖くないの?」
「別に。相手が私を好きでも、もうアンリと私は付き合ってるって分かってるから相手だって理解してるよ」
「そんなものなの?」
「そんなものだよ。リツキみたいにゴリ押ししてくるのが異常なだけで、アンリだってリツキの立場だったら手を引くだろうし」
「うーん。手を引くかは分からないけど。そうか。気にしなくていいのか」
そうだよ。そうじゃないと歌手はガチ恋ファンとかの要望に全部応えなきゃいけないことになる。
でも、ガチ恋なんて言ったところで通じないだろうから言わないでおこう。
「じゃあ、このボールのポーションをモーリスさんのとこ持ってって、アンリの家行こう? もう家行く時刻すぎてる」
「冷静だな。ミユがいいならいいけど」
「二人とこんなことになってて、情事を盗み見られたり盗聴されてるのに、好意を寄せられてるくらいで騒ぐはずないでしょ」
「確かに……ミユ大変だね」
「半分はアンリのせいだからね。はい。ポーション持っていくよ。笑顔で行くからね」
「笑顔……」
瞬間移動して、再びモーリスの部屋に入る。
アンリは始終どうしようもない怪しい笑顔をしていた。
「先程は失礼しました。これ、余ってるポーションです。使ってください」
「すごい量だね。ありがとう。助かるよ」
「例の話ですが、今度ドロテアがいる時に詳しい話を聞いても良いですか?」
「うん。そうだな夜の九時過ぎなら、仕事が入ってなければいつでもいい」
「わかりました。ほら、アンリ。話したいことあるんでしょ?」
「……うん」
アンリがモーリスに旅行の話をする。
事務的な話をしていたが、ギクシャクしている様子はまったくなかった。
「なにニコニコしてんの」
「アンリとモーリスさんが仲良くしてて良かったなと思って」
怪訝そうな顔をするアンリに、ニコニコして答える。
モーリスがニコッと笑った。
「私から見れば、仲が悪かったことは一度もないけどね」
アンリはウエーっという顔をする。
そういう顔を含めて、緊張がとけて良かったなと思いながら、モーリスと別れた。
アンリの家に瞬間移動して、お互い仕事とマナーの勉強をする。
グリエルマ夫人に仮面舞踏会のことを聞かれたので、トラブルが起きて全員が過保護だったからすぐ帰ることになったと言ったら驚いていた。
ダンスは四人で踊ったと言ったら笑っていたので、もうそういう面白人生だと思って諦めた。
この人生!! 波乱万丈だけど!!!! ロマンスは! ないです!!!!
夕方になり、アンリと一緒に家に帰る。
私が料理をする近くで、アンリが残っている仕事を片付けていた。
「アンリって、なんで新しい家に行かないの?」
「出ていったら、もう入れてもらえなくなるし」
「そんなことないよ。必要な時はガード張りなおすけど、それはアンリの家でもやるし」
「……ミユは、その、僕が最初でもいいと本当に思ってる?」
「? うん。それは前から言ってるし。それにリツキは、ちょっと初心者には厳しいし」
「? どういうこと?」
「……なんでもない」
アンリは怪訝な顔をしながら書類を処理している。
私も詳しいことは何も言えず料理を続けた。
余計なことをいったなぁと思うし、もう出した言葉は取り消せないんだよねと思っていた。
「ただいまー」
ドアが開く音がして、リツキが帰ってきた。
「今日は訓練で汗かいたから先に汗流してくる~」
「はーい」
こちらに顔を出したと思ったら、そのままお風呂場に行ってしまった。
今日は煮込み料理で良かったなぁと思いながら料理を作る。
後でポーションの感想を聞かなければと思っていた。
風呂場からギャアというリツキの悲鳴が聞こえる。
(なに?)
それから二階で物音がした。
リツキの様子を見ようとお風呂場に行こうとした時、アンリの姿がないことに気付いた。
(ん?)
風呂場にはリツキ。ということは、二階にアンリ?
お風呂場は開けちゃいけないと思うから、二階を見に行こうかな。
二階を見に行くと、私の部屋の並べて置いてあるベッドマットの布団の一つが丸くなっていた。
「アンリ。どうしたの?」
「ほっといてほしい」
静かな声が聞こえて、あれこれは触れてはいけない空気と思う。
(リツキも反抗期みたいな時があったしほっとこうかな)
一階に降りて料理を続けていると、リツキが機嫌悪そうにお風呂から出てきた。
「あいついきなり風呂場のドアを開けて消えたんだけど、なんなの?」
お風呂……あ。
「リツキは初心者には難しいから初めてはちょっとって言ったせいだ!」
「えっ! 何の話してる?!」
「失言した! だから寝込んでるんだ!」
「絶対その系の話じゃん! えっ、なんで俺はダメなわけ?」
「大きさが」
「あぁ……いやでも頑張ってよ!! 最初からあきらめるなよ!!」
「どっちにしてもするからいいでしょ」
「良くないよ! じゃあアイツ、初めていいよって言われて、俺のを見てショックで寝こんでんの?! なんて贅沢な奴だ」
リツキは怒りながら二階に登っていった。
そのうち、二階でアンリのギャーという声が聞こえてきて、静かになる。
(何を話しているか気になる! でも聞いちゃいけない気がする……でも、でも!)
悪いとは思いつつ、聴覚拡張をする。
『はぁ、なるほどな。緊張して上手く作れなくなると。でも人のにやるのは嫌だわ。兄ちゃんとお前の見た奴思い出せば』
『復活できない。そっちはそういうのない?』
二人の声が聞こえたと思ったあと、ひぇっと思って聴覚拡張をやめる。
これ聞いちゃいけない奴聞いちゃったな……。
でも、悩んでいるのか。それなら何とかしてあげたい。
私とはいえ私は作れないし、神聖力で上手くいったのってなんだっけ。
膜と回復とポーション作りと熱とか冷やすのと攻撃、あと生理のコントロールとショーツをはりつかせるのと、ガードくらいかぁ。
(……ん? 使えるんじゃ?)
そんなことより、案外できることが多いので、ワクワクしてきちゃったな。
「二人共ごはん~!!」
叫ぶと、二人は気まずそうな顔で降りてきた。
三人で晩御飯を食べる。
今日は肉のトマトもどき煮みたいなものにしたけど、二人とも静かだった。
「私の下着がなぜ下に落ちないか知ってる?」
「いきなりどうした。食事中に」
リツキが呆れながら肉を食べている。アンリは聞かないふりをしていた。
私だって言いたくないよ。でも仕方ないじゃないか。
「この国には伸び縮みするゴムがないから、ぴったりというわけにはいかないけど、ここぞという時は神聖力で縮めて肌にピッタリ貼りつかせてるの」
「なので、二人も脱げて困る時は私に言えばピッタリさせてあげます」
リツキはそんな機会はないが? という様子で怪訝な顔をする。
アンリは無言でチーズのディップソースをパンにつけて食べていたが、少し顔が赤かった。
伝われ。アンリは賢い! 伝わらなかったら、もう知らない!
前もって作っておいて、移動させてピッタリさせたらいいなんて聞いてる人間しか言えないんだから! 私には無理だよ!
その夜は、アンリは仕事をするからと初めて新しい新居に行った。
リツキは大喜びでイチャイチャしてきたので、それはそれで大変だったけど、アンリとおなじことに引っかかって困っていた。
だけど私は言うことは言ったのと、ちょっと休みたかったので何も言わずにそれを見ていた。人生はそんなもんなのだ。




