大聖女は子どもたちを救いたい
翌朝
魔王のシステムベッドに少しだけ座って神聖力を抜く。
アンリがこの家に来てから一日に困らない神聖力を残す秒数を測ってくれたので、管理が楽になった。
「お前! 今日こそ自分の家に帰れ。俺はもう耐えきれないミューといちゃいちゃしたい」
「僕が見てるとこでしてもいいけど」
「俺もミューもそういう癖はないの! それに触ってるとお前も触ってくるからミューが怒るじゃん。お前の癖に付き合わせんな」
ベッドの部屋から一階に降りてくると、いつも通り騒がしく騒いでいる。
それにしてもアンリはなんで新しい家に行かないんだろう。私がいない時に一人が寂しいのかな。
もしかして、今まで寂しい時は覗きとかしてたんじゃないのかな。だから、私がガード入れるのが怖いとか。
ありそう。だけど……受け入れにくいなぁ。その癖は。
二人を見ながら、昨日作ったバレーボールのようなポーションを手に取る。4個くらいできたので、一個はリツキが自分で使うことになっていて、あとはアンリがもって帰る。場所をとるし、膜は時間が経ったら消えてしまうので処理が大変だった。
昨日、神聖力プールの毒性にやられた子供を思い出す。
(生き残らせたいけど、神聖力が強いポーションは危ないって言ってた。水には混ざらないし、効く弱いポーションがあればいいんだけど……)
うーん……と考える。
ボールのようなポーションを見ていると、なんとなく色がグラデーションかかっている気がした。
(分離させたらいけるんじゃないかな)
(水分とは違うかもしれないけど、凍らせたら分離するかも)
昔、リツキが部活の時に紙パックジュースを凍らせては何を凍らせても多少味の差が出ると文句を言っていた。
これをポーションに応用すればいけるんじゃないだろうか。
もしそれがだめでも、遠心分離をかけたりいろいろすれば、分離はする気がする。
細長い膜を作って、中にポーションを入れると、凍れ凍れと思いながら急速にまわりから凍らせる。
自分が作る膜があまりに厚くて冷たくないのがありがたかった。
ポーションは、まわりから凍っていくが、やはり凍ってる部分は色が薄い気がする。
(確か、最初に水分が固まるっていうけど、どうなんだろう。濃いのが下の中央に溜まるはずだから、上まで凍ったら移し替えよう)
ポーションがまわりと上部分凍ったので、まだ凍っていない部分の膜を切って小さな瓶に移し替える。
真ん中が濃縮された真っ赤な液体になっていた。
続けて膜を切って、ちょっと濃い部分と、色が薄いところを包丁に神聖力を入れて切り分ける。
それぞれ切り分けた後、膜につつんで溶けても大丈夫なようにした。
「ミユ、なにやってるの? 行く準備しないと」
「あ、そうだ。今日もマナーの勉強あるんだ」
夢中になってやっていたら、アンリに声をかけられた。
「なんかこのポーションいつもより赤いね」
「子供用のポーションを作ろうと思って凍らせて分離させたんだけど、濃いポーションができた」
「凍らせると分離するんだ。いいポーションって金になるから、そんなことするのミユだけだよ」
「あのプールのところで仕事をする子たちを助けたいの。もし使えるようになれば助かるかもしれない」
「そっか……」
私の顔を見ながら、アンリは優しい顔をした。
出勤の準備を終えたリツキが歩いてきて、突然、濃いポーションを入れた瓶をひょいと手に持つ。
「このポーションもらっていい? もう遅刻しそうだけどポーション切れてた」
「うん。いいよ。でも濃いから飲みにくいかも」
「ありがと。濃い方が美味しいから大丈夫だよ。じゃあ行ってきます!」
「いってらっしゃい」
手を振って見送る。
「僕も欲しかったのに……」
「あとでいっぱいあげるよ。分離するのは分かったからモーリスさんの所連れてって」
「モーリスのとこに?」
「子供に食事とか出してるみたいだから、飲ませるならモーリスさんに渡すのが一番だから」
拗ねるアンリをなだめるように、後ろからペタペタ撫でる。
別に分離なんて死ぬほどしてあげるし、モーリスさんからは私が守るから安心してほしい。
「安全性とか調べてからのほうがいいけど一応ね。あとアンリも旅行の件も話したいでしょ」
「うん。それはそうだけど」
「じゃ行こう。お土産に切り分けた奴と、このボールのポーション一個持っていこう。その場で凍らせて飲めるから」
ボールポーションと、切り分けた解けかけの薄いポーションを手に持つ。
「量が異常で驚かれるよ……」
「いいのいいの。連れてって」
ハァ、とため息をつきながら、アンリが私を連れて瞬間移動した。
付いた場所は、前にアンリに連れてきてもらったことのある広い廊下だった。
アンリはノックをしながら自分の名前を言う。
カチャ、と鍵が開く音が聞こえた。
室内に入ると、広い室内にモーリスが一人で机に座っていた。
机の上にはたくさんの書類と資料が置いてある。
「めずらしい。いらっしゃい」
モーリスはアンリを無視するように私に挨拶した。
(あれ? モーリスさんってアンリのことが好きなんだよね)
「おはようございます。見せたいものがあって。あとご相談もあって」
「この前はちゃんと無事に帰れたかい? 心配だったんだ」
「大丈夫です。ええと、子供用に効くか分からないんですけど、ポーションが分離できるって分かったので、取り急ぎ連絡を」
「子供用……? ああ、昨日の。どうやって分離を?」
「冷凍しました」
とことこと歩いて行って、モーリスさんの机の空いているところに切り分けたポーションと、ボールポーションを置く。
「これは薄いポーションです。こっちはちょっと濃いの。分離した濃いポーションは弟にあげちゃいました。代わりに普通のポーション持ってきました」
「この大きくて丸いのがポーション……?」
「使いたい時は穴を開けたりストロー刺したりしてください」
「本当に君は規格外だな。大きいポーション瓶で間に合うかな」
モーリスは棚から大きい瓶を持ってくると、ボールの中のポーションを瓶に移動させる。
あまりに簡単に中身を瞬間移動させたのでびっくりしてしまった。
「僕も同じこと家でやってるからね」
ビックリしている私に、アンリは目を座らせながら言った。
モーリスさんはコップを三つ出してくると、普通のポーションと、分離した薄いものと、少し濃いのをすべてコップに移し替えた。
「鑑定をかけて、数値のチェックをしてほしい」
そう言うと、モーリスはポーションを少しずつ口に含んで飲む。
数値を見ていると、普通のものが一番高く、一番薄いものが一番数値が低かった。
「じゃあ、ミユキさんも飲んでみて」
「ミユじゃなくて僕が」
「こういうのは作った人間が飲むのが一番いいんだ」
確かに味見もしない料理人なんてよくないから、私が一番飲むのがいい。
納得して、普通のポーションを飲んでから、少し濃いの、最後に薄いものの順に飲んでいった。
薄いものは、少し甘いけど、いちごミルクとは思えないくらい薄味だった。
「なるほど、年齢に合わせて使い分けられるね。下で働いている子は薄い物と少し濃いものを混ぜれば大丈夫そうだ」
「本当ですか? 毒性とか、色々調べないといけないとは思っているんですけど」
「調べている時間はないからね。アンリと一緒に姿と声を消して付いてきなさい」
アンリが、私に寄り添い何かをする。
モーリスは、薄味のポーションと少し濃いのをコップに入れて、よく混ぜ合わせた。
「二人共話さないように」
そのまま私とアンリの肩に触れると、次の瞬間、薄暗い室内に瞬間移動した。
移動した室内には、いくつものベッドが並べられており、十人程の子どもが寝ていた。
地下なのか、湿っぽく空気が悪い。
全員具合が悪そうではあるが、目の前にいる寝ている十歳ほどの子どもの顔色は特に悪く、今にも死んでしまいそうに思えた。
モーリスはその子供の上半身を抱き起こす。
「エーダ。これを飲みなさい」
子どもがコップの薄いポーションを飲む。
最初は嫌々飲んでいたが、甘かったのが良かったのか、ごくごくと飲みはじめた。
「……甘くておいしい」
「少しは具合は良くなったかい?」
「さっきまでは良くなかったけど、今は息ができるし楽になったぁ」
「良かった。また来るから、それまで寝てなさい」
モーリスは優しく声をかけて、子どもを寝かせる。
まわりの子供たちは、自分にもくれないのかなという目でこちらを見ていた。
私が治してあげたいけど、コントロール力が弱いから濃い神聖力を送って悪化させてしまう気がする。
「また持ってくるから、他の子も待っていなさい」
モーリスはそういうと、私達の肩に手を置く。
次の瞬間、元いたモーリスさんの部屋に戻った。




