仮面舞踏会と、王城の秘密(上)
仮面舞踏会の日になった。
早めに着替えて、全員でドロテアの部屋に集まる。
アンリはピンクブラウンの髪色で、リツキと同じくこの前買った正装を着ていた。
私といえば用意された甘ロリふりふりな服を着ていた。
「あらまぁ! なに子供みたいな格好して!」
私を見たドロテアが声を上げる。
ドロテアは、身体にピッタリとした赤色のチャイナ服のような服を着ていた。
足の付け根まで入ったスリットと、金と白で作られたレースの靴下と長手袋が妖艶に見える。
「これはリツキの趣味を私の趣味だと勘違いして、アンリが買ってくれた服です」
「うん。ミューは、このくらいが可愛いよ。いつもは地味すぎるんだ」
「なんでコイツが喜んでミユが渋い顔をしてるんだ。まぁでもこれだけ派手なら狙われない」
「そうね。仮面舞踏会は素性が分からないから、それなりに危ないからね。髪色も変えておきましょう」
ドロテアが手をかざすと、髪が柔らかな茶色になって、毛先がクルクルした髪の毛になった。
頭には大きなリボンも付いているし、本格的にそういう子みたいになったなと思う。
「男共も女性のパートナーとしては地味。変えるわ」
ドロテアが二人に向かって手を振ると、布地がツヤッと輝いて、一部の色が変わったりした。
「僕は目立ちたくないからこの服にしたのに」
「バカね。地味な恰好で行ったら、それこそ目立つわよ」
「俺はなんでもいいけど、ありがとうございます。そろそろ行きましょうか」
全員で馬車に乗る。
「あ! ちょっと! アンタ凄い神聖力!!!!」
「あ、今日の分ポーションにし忘れた」
「なんか前よりすごくない?」
「二人とくっついて寝てると、相乗効果でこうなるみたいです。ポーション瓶がないな……膜でいいか」
バレーボールのようなポーションをボコボコ作っていく。
「こんなに作れるのは凄いけど、なんだか羨ましくないわね」
「ミユのポーションはよく売れるから、あるだけいいよ」
「こんなに凄いとミューが悪い奴に狙われちゃう」
口々に好き勝手なことを言いながら、馬車は王城に入っていく。
案内された王城の中は、豪華絢爛と言えば聞こえがいいが、金色の像がたくさん飾られた下品にも思える場所だった。
パーティー会場に着くと仮面の人が沢山いる。
ドロテアの見事なスタイルと、アンリとリツキに視線が注がれていた。
「ミューが狙われている」
「どう考えても狙われてるのはそっちだよ」
私も別の意味で目立っていたようだけど、そうなると分かっていたので、もう気にしないことにしていた。
鑑定をかけても、全員名前が見えなくなっていたので、感心してしまう。
「あれが王妃で、あっちが王様。あれは王子ね。仮面はしていても服装で分かるわ」
王族の面々は、全員煌びやかで贅沢にゴテゴテと宝石が飾られた衣装を着ていた。
肥満体系ではあったが、全員様々な異性をはべらせていて、欲望に忠実だと感じる。
食事は豪華な食事がたくさん用意されていた。
好きなものを好きなだけとって食べるビュッフェスタイルでワクワクしてしまう。
「お嬢さん。シャンパンはいかがですか?」
ボーイのような人から、シャンパングラスを渡される。
「ありがとうございます」
わー! こんな格好でも優しくしてもらえるんだ!
シャンパングラスを受け取る。
シャンパンは少し乳白色を混ぜた透明な色で、パチパチと泡が立ち上っている。
みんなにも渡したい!とまわりを見回す。
(あれ?)
三人ともいない。
さっきまで近くにいたはずなのに、三人だけ煙のように消えてしまった。
(三人とも迷子になるなんて、普通ないよね)
立ったまま考える。
ボーイに話を聞こうと思ったが、室内を見回してもいなかった。
(変だ。このシャンパン、飲んじゃダメかも)
だけど置いておくのも不安で、持ったままパーティー会場を歩く。
みんな口々に話はしているけど、こちらは見えていないようだった。
手に、ふわっとしたあとにスルリと抜けるような感覚があって、下を見る。
足元に大きな犬がいた。
(犬? パーティ会場に?)
しかも誰も犬に気付いていないようだった。
犬が私の手に頭を擦りつけてくるので、撫でてあげる。
犬は手を離れて、スイと部屋の端っこまで歩いて行くと、ついて来いと言うようにこちらを見る。
(絶対こういうのってついていっちゃいけないけど、付いて行かないとこの状態から抜け出せない気もする)
嫌だなぁと思いながら犬についていく。
犬はこちらを案内しながら、パーティー会場を出ると、長い廊下を歩いて行った。
奥にある部屋の一室に犬が入っていく。
怪しいなと思いながらも、ここまで案内されたのなら、これが目的なのだろうと室内に入った。
「やぁ」
中には、モーリスがいた。
「なんで……こんなところに」
身分を明かそうと仮面を外してみるが、モーリスは最初から分かっていたかのように驚きもしなかった。
「よく来てくれたね。私が敵か味方か分からないだろうから、ちょっと手伝おうと思って」
「手伝う?」
「そのシャンパングラスを落とさないようにね。それが君の命綱だ」
モーリスが壁に手を置くと、ボコンとレンガの一つが奥に入り、そこが取っ手になって壁の一部がドアになって開いた。
ドアの向こうは、石造りの細い廊下になっている。
モーリスが先に入り、私を促した。
(ここに入って私が行方不明になっても、誰にも気づかれないな)
だけど、私一人を誘拐するのなら、王城じゃなくても、もっと簡単でやりやすい方法があるはずだ。
(ついていくしかない)
シャンパングラスを持つ手に力を入れ、モーリスさんの後に付いていく。
石作りの廊下は、そのうち洞窟のようになっていき、螺旋階段に繋がった。
不安に思いながら、階段をぐるぐる降りていく。
「私は話しても周囲に聞かれないようになっているが、君は話してはいけない。どうしても話したい時は私を掴みなさい」
モーリスさんの言葉に、無言でうなづく。
下の方から、色々な物音が聞こえてきた。
螺旋階段を降りきると、下は洞窟を広げたような広間になっていた。
子どもたちが、一生懸命、灰色の水を運んでいる。
「あれ、なにか分かるかい。ポーションだ」
「すべての色を混ぜると、色は濁りに濁って黒色に近くなる。まるで人間みたいだ」
私達に気付かない子供たちの横を通って、奥に行く。
「子供たちは綺麗だ。貧民街で買ってきた子たちは無知ゆえにポーションの価値も分からない。だから欲を出さず仕事をしてくれる」
死んだ子たちは、ここで死んだ子達なのだろうか。
飢えて売られて働いて死んで、死後も自分の身体を利用されているとしたら酷いことだ。人の心がない。
奥は、さらに広くなっていて、ガラス張りの蓋が付いた大きいプールがふたつあった。
中は黒に近い灰色の水で満たされている。
「あと数か月もたない」
何を、と思ってモーリスを見る。
「戻ろう。話はそれからだ」
モーリスは来た道を歩きはじめる。
途中、ドンとモーリスに男の子があたった。
子どもは不思議そうな顔をしたが、そのままよろよろと歩いて行く。
「あの子はあと一ヶ月もたないだろうな」
ポツリと話した言葉に、呼吸をするのを忘れる。
もたないって、何が? 命が?
「神聖力は強力な薬にもなりえるが、耐性がない子供にこんな長時間濃い神聖力を吸わせることは毒だ」
螺旋階段を登りながら、モーリスは話す。
「私だって、この状態をいいと思ってはいないよ。だけど、どうしようもないこともある」
でも、子どもが死ぬと分かっていて仕事をさせているの放置しているじゃないかと不快に思う。
だけど、モーリスは自分のことすら助けられていない。
「だから、ここにいる間の食事はせめて豪華にしている。短い間に美味しいものを食べてほしいからね」
ああ、この国は、本当に狂っている。
何を理由にポーションを集めているのかは知らないが、全部弱者を食い物にして集めたことには変わりない。
どうせ、理由もこの国にいる人のことなんて一つも考えていないことなのだろう。
「君は、本当に優しいんだね。吐きそうな顔をしているじゃないか」
いつの間にか、螺旋階段の上からモーリスがこちらを見下ろしていた。
「もうお帰り。パーティー会場の庭に送るから、パーティを楽しんで」
モーリスはそういうと、シャンパングラスを私の手から奪うようにして手に触れる。
世界が反転して、暗くなった。
次の瞬間、庭園のような場所に立っていた。
(ここは……)
まわりは暗闇といっていいほど暗く、所々に置いてあるランタンが鈍く輝いている。
遠くから聞こえる音楽に、ここが仮面舞踏会の会場の庭だということに気付いた。




