地獄を潰すなら念入りに
ドロテアに押されて、後ろに上半身だけソファのひじ掛けにもたれる。
言いたいことは分かる。聖女の待遇は早くどうにかしないとだめだ。でも国まで?
「監獄は、たぶん聖女宮だよね? 国も?」
「弱い立ち位置の聖女の待遇を変えようとして、変わるとは思えないわ。今の王宮では特に」
「王宮見たことがあるの?」
「それはもちろん。無駄なお金の使い過ぎよ。庶民は病気や飢えに死んでいるっていうのに」
「確かに足を一本治すのにも、一年働く分くらいのお金が必要だって聞いて、酷いって思った」
「お金は確かに必要よ。だけど聖女の神聖力は毎日沸くものだし、もう少し安くしてあげてもいいじゃない」
確かに、聖女を捕らえてやらせていることが他国への接待というのはおかしい。
それなら、医師として頑張らせた方が、本人としても絶対やる気が出るし、楽しいだろう。
「それなら確かに、大きく上を入れ替えないと無理……」
でも、上を替えたとして、ちゃんと上手くやれる?
会社をのっとっても経営が上手くいかなかった話なんて山と聞く。ちゃんと調べる必要がある。
「わかった。どうにかしたいと思うけど、上を変えたとしてもちゃんとできる人を上に置かないとだめかなって思うかな」
「確かにそうね。わたくしも国の運営はしたことがないし」
「ちょっと知識が足りなすぎるからアンリとかに相談してみる」
「あの綺麗な神官は、信用できるの?」
「付き合ってるし、私が襲われたから神殿を信用してないもん」
「襲われたの?」
「うん。えへへ」
「なに笑ってんの」
「最初なんとなくドロテアがやったかなって心の中で思ってたから失礼だったなって」
「それは失礼だわ」
ドロテアは笑ってパッと目の前から消える。
次の瞬間には向かい側のソファに座っていた。
「最後のプリンを食べてしまいましょ」
もぐ、とドロテアがプリンを食べる。
その様子を見ながら、大変なことになったなと思った。
それにしても、ドロテアは見事なスタイルで魔王とも付き合ってたけど、避妊はどうしてたんだろ。
「あの! 聞きたいんだけど」
「なぁに」
「みんなって避妊はどうしてるの?」
私の質問に、ドロテアは固まる。
「あんた知らないの?」
「そういうのしたことないから」
「えっ、あの神官と付き合ってるんでしょ?」
「二人と付き合ってるけど、そんなことしてないよ」
「二人と?! いつの間にそんなことになったの? この前記憶を見た時はそんなことになってなかったじゃない」
「色々あったんだよ……リツキが勇者だからアンリを殺しそうだし、迷った結果こんな感じに」
「それなのにしてないの? 変な奴ら~~~~~~~……」
「なったの昨日だし」
「へぇ、次の日なのに、わたくしの方に来てくれたの」
「聖女宮に週一で泊まるにはどうしようと聞こうと思っただけなんだけど、泊まれない話になった」
「別に、直接来て、わたくしの部屋に泊まれば?」
「いいの?」
「同じベッドでよければ。あ、大丈夫よ。そういう趣味はないから」
ドロテアのところなら、寝てる間に誰かに売られるとかそういうことはなさそう。
「ありがと。じゃあそうしようかな」
「まぁ内部の様子を探りたいとかなら、それ相応の覚悟をしたほうがいいと思うけど」
楽しそうに笑うドロテアに、よく分からないまま笑い返す。
よし、これで聖女宮にも泊まれるようになったし、帰って前向きに聖女をどうするか考えていこう。
「私、そろそろ帰ってアンリに相談してくるね!」
「はいはい。また来てね。魔王への連絡方法も忘れないで」
プリンを籠に入れる私を見ながら、ドロテアは立ち上がる。
そして、私の真横に歩いて来ると、ニンマリ笑った。
「そういえば避妊だけどねぇ」
耳元でヒソヒソと囁かれてから、弱く肩を押される。
「えぇ?」
意外なことを聞いた瞬間、世界がひっくり返る。
次の瞬間、アンリの家の前にいた。
「えぇ……」
理解できないまま、屋敷に入る。
アンリが話をしてくれたのか、簡単に室内に入れてもらえた。
夜まではやることがないので、ポーションを作っていく。
どうせ夜になればまた神聖力を得られるだろうと思うと気が楽だった。
夜。
アンリの部屋に泊まる。
昼にドロテアと話したことを話さなければいけないので、頭の整理をした。
ベッドの上で向かい合わせで座る。
「いい話と悪い話があります! どっち聞きたい?」
「どっちも聞くことになるから、どっちでもいいよ」
アンリはなぜか少し気だるげにしていた。
「じゃあ、いい方! 避妊方法がわかりました」
「どっから聞いたの」
「ドロテア! 魔王と付き合ってたみたいだから、間違いないよ」
「はじめて聞いた」
意外という顔をしている。
そうでしょう私もそう思った。
「で、方法だけど、私もうやってたみたい。アンリも見たことある」
「え、知らないけど」
「最初、会った時に氷が飛び散らないようにした時とか、死んだ子どもを包んじゃったあの膜。あれを使うらしい」
「あれ? あー。でも厚すぎない? 破るの大変だったよ」
「それは、薄くできるようにこれから練習する」
決意をこめていう。
だけどアンリは私とは正反対に嫌そうな顔をしていた。
「いや、ミユはしなくていいよ。僕が練習する」
「私も練習するよ。できたほうが便利だし」
「いや。練習禁止。できるようになったら僕がミユに教えるから」
アンリが真剣な目で私を見る。
(あ、リツキが先だと困るからか)
察してニコッと笑って黙る。
アンリも私が察したのに気付いてニコリと笑った。
よし、話を変えよう!
「で、悪い話だけど、国を壊そうと思う」
「……」
「……ん?」
アンリが聞き間違いかな? という感じでこちらを見る。
「国っていうか上のほうを全部、こう」
手でボコボコと殴る真似をする。
その様子を見ながら、アンリはハァーとため息をついた。
「どうしてそうなった? 一から説明して」
おでこを手で押さえるアンリに、今日ドロテアと話したことを説明する。
かなりかかったけど、ちゃんと伝えられた。
「というわけで、潰そうかなって」
説明を終えて元気になる私と対照的に、アンリは元気がなかった。
気持ちは分かる。
自分が関わってることの内情がこんななんて嫌だろう。
「聖女がそんなことになってるなんて知らなかったけど、ミユも危ないとこだった」
ベッドの上に座っていた身体がごろりと横になる。
私も、その横に寝ころんだ。
「四級でも見た目が珍しいから、接待には使えるらしいから、聖女宮に行ってなくてよかったよね」
「時々、聖女が行方不明じゃなくて減ることがあったけど、気に入ったら連れ帰るとかもあったのかな」
「国主導の人身売買みたいなことやってるの? 最低」
「でも、そうだとしたら、辞めろと言って止めるわけがない」
怒る私とは対照的に、アンリは冷静にベッドの天蓋を見る。
「無料で手に入るものが他国との貿易と金になるのなら、それは人として見なければ資源と変わらないし」
「神殿で病人を治すのも、かなりお金がかかってるみたいで、おかしいよね」
ジュディの件を思い出して話してみる。
「確かに。一級の一日分の神聖力が必要ならそれなりにかかってもいいけど、高すぎるなとは思ってる」
「神官と聖女は多いのに、どうして治さないの? みんな毎日なにしてるの?」
「こっちは魔王の杯のポーションを集めるのも苦労してるのに、よく考えたらおかしいな」
「でも、話だけ聞いて判断もダメだし、上を変えたとしても、国を上手く運用できないとダメだよね」
「そうだね。事実を踏まえた上での判断と、補う人材は必要」
「潰すのはアンリとリツキとドロテアがいたら大丈夫な気はするけど、難しい問題……」
「そうだね」
アンリが近寄ってきたので、部屋の明かりを消す。
魔王の連絡先の話を聞くの忘れたと思ったけど、それは明日に回すことにした。
たぶん、今は相手の体温を感じることが一番大切な気がしていた。




